リーベル・プレート戦でゴールを決めた松尾佑介 [写真]=Getty Images「一つだけ言えるのは、僕たちはチャレンジャーだということ。(リーベルプレートを相手に)しっかりチャレンジしていきたいと思ってます」。
アジア王者としてFIFAクラブワールドカップに挑んでいる浦和レッズ。初戦のリーベル・プレート戦を控え、最前線に位置する松尾佑介はサプライズを起こすべく、虎視眈々と南米の強豪の隙を突く構えを見せていた。
そして迎えた本番。背番号24は開始早々から裏抜けへの意欲を前面に押し出す。6分にはマテウス・サヴィオのスルーパスに反応。あと一歩でフィニッシュに持ち込めそうな雰囲気を漂わせており、出足は悪くないように感じられた。しかしながら、浦和にとって痛かったのは、前半12分の1失点目だ。17歳の新星フランコ・マスタントゥオーノが右サイドから中央にボールを持ち込んで左サイドに展開すると、要注意の左SBマルコス・アクーニャが鋭いクロスを供給。ここにファクンド・コリーディオがしたたかに飛び込んで打点の高いヘッドをお見舞い。電光石火の一撃で1点をリードしたのである。「相手の対策をしっかり用意していましたけど、最初の20分間はそれが出なかった。その時間帯のコントロールには問題があったと思います」と背番号24も入りの悪さをストレートに指摘した。
今季の浦和の場合、失点からスタートした試合は分が悪い。だからといって、この大舞台で手をこまねいているわけにはいかない。徐々に主導権を握り返し、松尾も左サイドに移動。渡邉凌磨とサヴィオが中央に陣取る形になり、左サイドの大きなスペースを突いてチャンスを作るシーンが多くなる。その突破力は見る者を確かに魅了した。前半は0−1で終了し、後半勝負に打って出ようとした。ところが、2点目を食らってしまう。後半立ち上がりの48分、安居海渡が頭でクリアし、マリウス・ホイブラーテンが浮き球のバックパスを守護神・西川周作に送ろうとしたところに相手エースFWセバスティアン・ドリウッシが詰め、ゴールネットを揺らしたのだ。
この2失点目は非常に痛かったが、こうなると死に物狂いで点を取りに行くしかない。それが結実したのが58分、金子拓郎がアクーニャのファウルを誘い、PKをゲット。これを松尾が冷静に沈めて、1点差に追い上げたのである。「PKキッカーは決まっていた。蹴る方向は先に決めてあって、GKの逆を狙おうと思っていた。セットプレーの練習後にPKを蹴っていたんですけど、10本中7〜8本は決めていたんで、練習通りにやろうと思いました」と本人は強心臓ぶりを強く押し出した。実際、直前に小競り合いがあり、キッカーがメンタル的に揺れ動いてもおかしくない状況になったのだが、松尾は「逆に落ち着けたのでいい時間だった」と淡々としていた。こういうタフな人間が大舞台で力を発揮するもの。日本代表が参戦した過去のワールドカップでも精神力のある選手が活躍してきたが、松尾もその境地に達したのかもしれない。
だからこそ、2−2の同点に追いつくゴールを奪ってほしかったが、浦和はこの日初めてリーベルに与えたCKから3点目を献上してしまう。攻撃のギアが上がりかけた時間帯に勢いを削いでしまう試合運びの悪さは大きな課題。それを改善しない限り、インテル戦、そしてモンテレイ戦で勝ち点を積み上げるのは至難の業だろう。
「今回は『やれる』という自信を得るまでに少し時間がかかってしまった。あんまり相手をリスペクトしすぎずに、いつも試合でやっていることをやれれば、僕たちはもっとできるかなと思います」
松尾は語気を強めたが、次からは適応に時間をかけている余裕はない。特にインテル戦は同じルーメン・フィールドでの一戦。ピッチ環境やスタジアム全体の雰囲気を熟知した上で戦える。それはロサンゼルスで初戦を戦っている相手との違い。そのアドバンテージを生かし、UEFAチャンピオンズリーグ準優勝の強豪に強烈な一刺しを見せること。今大会で生き残りたいなら、それを確実に遂行するしかない。
この日フル出場した松尾にとっては連戦で過酷な条件でのゲームになるが、今、得点を取れそうな予感がある。爆発的なスピードと裏抜けは魅力的だ。リーベルを取材するアルゼンチン記者も彼が日本代表経験がないことに驚きを禁じ得ない様子だったが、そのインパクトを残り2戦でも与え、浦和を勝たせるゴールを奪ってほしい。この男の一挙手一投足にチームの命運がかかっていると言っても過言ではないだろう。
取材・文=元川悦子