【府中牝馬S予想】波乱含みの一戦でAIは興味深い一頭を指名 負担重量が重要なファクターに

【文・構成：伊吹雅也(競馬評論家)=コラム『究極のAI予想！』】

netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成＝伊吹雅也)

◆直近2年のマーメイドSは堅めの決着だったが……

AIマスターM(以下、M)　先週は宝塚記念が行われ、単勝オッズ11.4倍(7番人気)のメイショウタバルが優勝を果たしました。

伊吹　「良いものを観させてもらったな」というのが、レースの直後に抱いた率直な感想です。スタートしてすぐにダッシュがつき、単独先頭で1コーナーへ。引っ掛かるような素振りを見せることなく向正面に入り、1000m地点を59秒1のタイムで通過しています。先団を追走していたベラジオオペラが3コーナーからポジションを押し上げ、4コーナーではメイショウタバルの外に並びかけてきたものの、これに応戦するような形で武豊騎手が気合をつけ、先頭のままゴール前の直線へ。やや外めに持ち出したベラジオオペラを、内ラチ沿いのメイショウタバルが残り200m地点のあたりで突き放し、結局3馬身のリードを保ったまま入線しました。気性的に難しいところのある馬だと思っていたのですが、そんな相棒を2度目の騎乗で完璧に制御してみせたわけですから、鞍上にこのレジェンドを据えたのも大きな勝因のひとつと言えるでしょう。こんな競馬をされてしまったら、他のジョッキーはなす術がありませんよね。

M　メイショウタバルはGI初制覇。毎日杯や神戸新聞杯を制したこともあり、昨年の3歳牡馬クラシック戦線でかなりの注目を集めたものの、皐月賞は17着、日本ダービーは出走取消、菊花賞は16着という結果に終わっていました。

伊吹　初勝利までに3戦を要したとはいえ、毎日杯も神戸新聞杯もポテンシャルの高さを感じさせる勝ち方でしたし、そこからまた成長したことでビッグタイトルに手が届いた――という印象です。武豊騎手・石橋守調教師・松本好雄オーナーという、縁の深いチームでこの偉業を成し遂げたあたりも、長く競馬を観てきたファンにとってはたまらないところ。今シーズン屈指の名場面だったと言って良いでしょう。

M　メイショウタバルは放牧に出る予定とのこと。GIウイナーとなった今後はさらに注目が集まるのではないかと思います。

伊吹　脚質的にも展開の鍵を握っていますから、もともと他馬の陣営としては目の離せない存在。マークがよりキツくなるのは、この馬にとってマイナスかもしれません。もっとも、メイショウタバル自身にはまだまだ伸びしろがありそうですし、私の想像を超えるような名馬に育つ可能性も。厩舎やオーナーサイドのレース選択を含め、復帰戦が本当に楽しみです。

M　今週の日曜東京メインレースは、古馬を中心とした牝馬限定のハンデキャップ競走、府中牝馬S。施行コースは東京芝1800mですが、施行時期や条件は2024年までのマーメイドSを引き継いだ形となります。ちなみに、昨年のマーメイドSを制したのは単勝オッズ9.1倍(4番人気)のアリスヴェリテ。2着が単勝オッズ3.4倍(1番人気)のエーデルブルーメ、3着が単勝オッズ11.6倍(6番人気)のホールネスで、3連単の配当は3万1410円でした。

伊吹　2023年も3連単の配当は2万7910円どまりでしたが、2018年から2022年の計5回はいずれも3連単10万円超の決着。荒れやすいレースというイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。

M　2015年から2024年のマーメイドSにおける単勝人気順別成績を見ても、3着以内馬30頭のうち21頭は単勝4番人気以下、さらにそのうち11頭は単勝7番人気以下です。

伊吹　よく詳しく見てみると、単勝7番人気から単勝10番人気の馬は2015年以降[6-3-2-29](3着内率27.5％)、単勝11番人気以下の馬は2015年以降[0-0-0-50](3着内率0.0％)となっていました。波乱含みの一戦ではあるものの、超人気薄の馬が頻繁に好走しているわけではありません。今年の府中牝馬Sも、この辺の機微を踏まえたうえで買い目作りに臨んだ方が良いと思います。

M　そんな府中牝馬SでAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、タガノエルピーダです。

伊吹　興味深いところを挙げてきましたね。それなりに注目は集まると思いますが、人気の中心ということはないはず。

M　タガノエルピーダは4歳馬。2走前の斑鳩Sを勝ってオープン入りしたばかりではあるものの、3歳時にオープン特別の忘れな草賞を制しているうえ、2歳時には朝日杯FSで3着に食い込んでいますから、実績上位の一頭と言って良いかもしれません。

伊吹　もっとも、前走の阪神牝馬Sは単勝オッズ5.5倍(2番人気)の支持を集めながら7着に敗退。今回は半信半疑という方も少なくないでしょう。Aiエスケープが狙い目と見ていることを踏まえたうえで、私はマーメイドSの傾向とこの馬のプロフィールを見比べていきたいと思います。

M　真っ先に注目しておくべきポイントはどのあたりですか？

伊吹　まずは負担重量と馬齢をチェックしておきたいところ。2021年から2024年のマーメイドSにおける3着以内馬12頭中8頭は、負担重量が53.0kg超でした。

M　比較的重い負担重量を課された馬が優勢、と。

伊吹　対照的に、負担重量が53.0kg以下、かつ馬齢が5歳以上の馬は[0-0-0-15](3着内率0.0％)と3着以内なし。ハンデキャッパーが能力上位と見ているくらいの実績馬でない限り、高齢馬は強調できません。

M　本項の執筆時点ではまだ負担重量が発表されていないものの、先程も触れた通り、タガノエルピーダは4歳馬。この条件はクリアしているとみなして良いのではないかと思います。

伊吹　あとは馬格や脚質も重要なファクターと言えそう。2021年から2024年のマーメイドSにおける3着以内馬12頭中10頭は、前走の馬体重が480kg以上、もしくは前走の4コーナー通過順が3番手以内でした。

M　なるほど。小柄で、なおかつ先行力が高くない馬は疑ってかかった方が良さそうですね。

伊吹　牝馬限定のハンデキャップ競走ということもあってか、昨年までのマーメイドSはゴチャついた展開になりがち。東京芝1800mで施行される今後の府中牝馬Sも、このあたりの傾向は同じかもしれません。大型馬や先行馬を重視するに越したことはないでしょう。

M　タガノエルピーダは前走の馬体重こそ458kgですが、前走の4コーナー通過順は3番手。おそらく今回も、展開に左右されづらいポジションでレースを進められるのではないかと思います。

伊吹　さらに、2021年から2024年のマーメイドSは、今回より短い距離のレースをステップに臨んだ馬が苦戦していました。

M　こちらもなかなか面白い傾向。今年の施行条件に当てはめるなら、前走が1800m以上のレースだった馬を重視したいところですね。

伊吹　ちなみに、前走の距離が今回より短い距離、かつ“同年の、JRAの、重賞のレース”において5着以内となった経験がない馬は[0-0-0-22](3着内率0.0％)。波に乗っている実績馬でない限り、前走が1マイル以下のレースだった馬は過信禁物と見るべきでしょう。

M　タガノエルピーダの前走は阪神芝1600m外で施行された阪神牝馬S。また、2025年の重賞に限るとまだ5着以内となった経験がありません。

伊吹　ただ、この傾向はコース替わりの影響でガラッと変わるかも。私はより不安要素の少ない馬に◎を打つつもりですが、この馬も無理に嫌う必要はないと見ていました。Aiエスケープが有力視しているのであれば、さらに評価を引き上げた方が良さそうですね。負担重量や実際のオッズも確認したうえで、買い目上の位置付けをもう一度じっくり検討してみます。