既報の通り、FCNTは6月17日に新型スマートフォン「arrows Alpha」を発表した。8月下旬以降に自社でSIMフリーモデルとして「arrows Alpha M08」を発売する他、NTTドコモからもキャリアモデル「arrows Alpha F-51F」を発売する。
arrows Alphaは「手に届くハイエンド(スマホ)」として企画/開発されたといい、M08の販売価格は8万円台を目指している。ハイエンドスマホの販売価格の上昇が止まらず、ハイエンドモデルから“離脱”するユーザーが増えていることを踏まえて、ハイエンドモデルの“価値”を10万円未満の価格で実現することに重きを置いたようだ。
果たして、arrows Alphaは「ハイエンドスマホ高すぎ問題」へのアンサーになっているのだろうか。
●価格高騰で「ハイエンド=最先端の体験」が遠のくスマホに対するアンサー
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かつて、日本の携帯電話端末市場はハイエンドモデルが中心だった。“ハイエンド”とは言うものの、キャリアや販売店による代金の値引き施策もあったため、ハイエンドモデルでも手に取りやすかったからだ。
しかしここ数年、経済情勢や部材の価格上昇を受けてハイエンドモデルの販売価格は高騰し、10万円台後半は当たり前で20万円を超えるケースもある。「それでも値引きがあれば……」とは思うものの、総務省が端末代金の値引きに対して制限を加えたためにハイエンドモデルを価格面から“敬遠”するユーザーが増えた。
ハイエンドモデルは最新かつハイスペックな部材を使って作られるため、新しい使い方やサービスにキャッチアップしやすい。見方を変えると、ハイエンドモデルを手にする人が減ることは最先端の体験をする機会が減ることを意味する。
スペックは厳選してコストを抑えつつも、ハイエンドスマホと同等の体験を提供する――そのような目的のもと、企画/開発されたのがarrows Alphaなのだという。
●プロセッサは「ミドルハイ」だがチューニングで性能を向上
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arrows Alphaのプロセッサ(SoC)は、MediaTek製の「Dimensity 8350 Extreme」を搭載している。その名の通り「Dimensity 8350」をベースに主に動作クロックを向上したスペシャル版で、Lenovoグループに限定供給されている。FCNTがLenovoグループに入ったメリットを生かして採用に至ったという。
ただ、Dimensity 8350はミドルハイスペック端末向けのSoCだ。Extremeが付いているとはいえ、Dimensity 8350 Extremeもその位置付けに変わりはない。SoCをもとに端末のレンジを決めるなら、arrows Alphaはミドルハイレンジモデルとなる。
しかし先述の通り、FCNTはarrows Alphaにおいてハイエンドスマホと同等の“体験”を目指している。Dimensity 8350 Extremeのピーク性能をしっかりと引き出せるようにソフトウェア/ハードウェアの両面でチューニングを行った。結果として、高いスペックを要求されるハイエンドスマホゲームも快適に楽しめるとのことだ。
メモリはLPDDR5X規格で容量は12GBだ。「ハイエンドであれば16GB以上欲しい」と思うところだが、ハイエンドゲームやオンデバイスAI(人工知能)アプリを快適に使えるギリギリを攻めた結果、12GBに落ち着いたと思われる。「これでは足りない」という場合は、内蔵ストレージの一部を「仮想メモリ」として設定することで最大24GBまで拡張可能だ。
……と、仮想メモリを使うとなると内蔵ストレージの性能が快適性を左右する。ストレージはUFS(Universal Flash Strage)4.0規格で、容量は256GBを備える。本製品における具体的な読み書き速度は公開されていないが、UFS 4.0規格はUFS 3.x規格と比べると転送速度が最大2倍に引き上げられている。アプリの起動やデータの読み書きがより高速になったのはもちろんだが、仮想メモリ利用時の快適性も増した。
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なお、arrows Alphaは最大2TBのmicroSDXCメモリーカードも搭載できる。ストレージ容量が足りない場合も安心だ。
●プラスチック基板を適用した有機ELディスプレイは輝度も十分
arrows Alphaのディスプレイは、1200×2670ピクセルの約6.4型有機ELパネルを採用する。このパネルは基板としてプラスチック素材を採用する「pOLED」と呼ばれるもので、ピーク時の輝度は3000ニトとなっている。有機ELパネルは屋外での視認性に難を抱えることもあるが、これだけ高輝度であれば屋外でも快適に使えるだろう。リフレッシュレートは1〜144Hzの可変式で、画面のスクロールも滑らかだ。
本体は超狭額縁設計で、本体の横幅は約72mmとなっている。「人間工学に基づいた、最も握りやすいデザイン」を目指したといい、手に持った際のフィット感にもこだわっている。
スピーカーは2基(ステレオ)構成で、Dolby Atmosによる仮想サラウンド再生にも対応する。
●カメラはより高品質に
ハイエンドモデルの体験を語る上で、外せない要素の1つがカメラだ。手頃な価格でハイエンド体験を提供することを目指したarrows Alphaも、スペックにメリハリを付けることで快適かつキレイに撮れるカメラ機能を備えた。
アウトカメラは「広角(メイン)」「超広角」のデュアル構成となる。メインカメラはソニーセミコンダクタソリューションズ製の約5030万画素センサー「LYTIA LYT-700C」を搭載している。センサーサイズは1/1.56型で、クアッドピクセル撮影にも対応している。光学式手ブレ補正(OIS)も備える。
超広角カメラは約4990万画素センサー(メーカー非公表)で、視野角は120度だ。こちらもクアッドピクセル撮影に対応する。インカメラも約4990万画素センサー(メーカー非公表)で、視野角は91度だ。クアッドピクセル撮影にも対応しているが、オートフォーカス(AF)には対応しない。
ハイエンドモデルではアウトカメラを3基以上搭載することも多いが、arrows Alphaの場合は2基に絞り込むことでコストを抑えつつ、一定水準以上のものを搭載することで品質を高めている。
カメラ撮影では「arrows AI」と呼ばれるAI機能を活用している。AIによる輝度/シャッター速度の自動調整の他、複数枚撮影した写真を使った「開き目生成」(閉じた目の補正)など多彩な撮影機能を実装している。
●arrowsらしい「使いやすさ」「安心」も追求
arrowsブランドのスマホは防水/防塵(じん)性能と、高い耐環境性能を備えている。arrows Alphaもその点では抜かりない。
防水性能はIPX6/8に加えてIPX9にも対応した。「IPX9?」と思った人に解説すると、IPX9は最近IP等級に加わった基準で、80度(±5度)の温水を8000〜1万kPaに圧力で毎分14〜16L、2分間(4つの角度で30秒ずつ)吹き付けた後に、機能を維持できると合格というもので、高温かつ高圧の水にさらされた際にも安心ということになる。
防塵性能は、従来と同様にIP6X等級に準拠している。米国防総省の物資調達基準「MIL-STD-810H(MIL規格)」に定める23項目の耐衝撃/耐環境試験もクリアしており、丈夫さも健在だ。
バッテリー容量(定格値)は5000mAhで、FCNTの自社調査によるとバッテリーは2日間充電せずに使えるという。バッテリーはUSB PD(Power Delivery)規格での急速充電に対応しており、最大90Wの電源入力に対応している。90Wで急速充電すると10分で40%、35分で100%まで充電できるとのことだ(充電ブーストを有効化した場合)。
なお、arrows Alphaには90W出力のUSB PD充電器と、それに対応するUSBケーブルが付属する。「arrowsとしては初めて“超”急速充電に対応するので、付属した方がいい」との判断からだという。
なおUSB Type-C端子はUSB 3.2 Gen 2(USB 10Gbps)準拠で、USB PDによる電源入力の他、DisplayPort Alternate Modeによる映像出力にも対応する。
●独自のAI機能「arrows AI」も
時勢を受けて、arrows Alphaでは「arrows AI」という独自AI機能を搭載している。これはLenovoグループのソフトウェアリソースを生かしつつ、arrowsに最適な形で実装したものだという。
arrows AIは先述したカメラ機能の他、「自然言語での機能検索」「通知要約」で使われている。これらの機能はアプリアイコン、画面上のフロートアイコン、または左側面に新設されたアクションキーから呼び出せる。ただし、通知要約機能は発売時点では未実装で、2025年秋〜冬をめどに利用できるようになる。
●ハイエンド機種並みの体験はできそう 課題は「価値の継続提供」と「真のハイエンドモデル」
SoCだけを見ると「ミドルハイレンジ」のスマホなarrows Alphaだが、ハードウェア/ソフトウェア両面の工夫によって「ハイエンドスマホと同等の体験を提供する」という目的は達せられているように感じた。ハイエンドモデル高すぎ問題に対して、ハイエンドモデルに“戻る”ためのきっかけとしては、十分なモデルだ。実機に触った時間はそれほど長く取れなかったので、今後実機を入手したらより詳細に実力はチェックしていきたい。
課題もある。まず、arrows AIを含む端末機能を継続的にブラッシュアップできるかどうかという点だ。AIは日進月歩で、できることがどんどん増えている状況にある。それだけに、arrows AIの進化計画を着実に実行することがarrows Alpha、ひいてはarrowsブランドの今後を左右することになるだろう。
また、FCNTとして、本当の意味でのハイエンドモデルを今後用意できるかという点も気になる。arrows Alphaは、確かに「ハイエンドスマホと同等の体験を提供」できてはいる。ただ、あくまでも“体験”であって、本当のハイエンドモデルではない。このarrows Alphaでハイエンドスマホの“楽しさ”を知ったユーザーが機種変更を考えた際に、arrowsブランド内に“受け皿”があればいいのだが、それを用意できないと他メーカーに流出する恐れもある。今後、arrows Alphaのさらに上位に来るモデルが出てくるかどうかも注目したいところだ。
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