東京ディズニーリゾート“来園者数横ばい”でチケット料金値下げも… 「年間パスポート」休止でファン離れ加速か

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2025年06月19日 09:20  日刊SPA!

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 2024年度の東京ディズニーリゾートの来園者数は2756万人で、前期のわずか5万人(0.2%)の増加に留まりました。コロナ禍以降、来園者数は右肩上がりを続けていました。急ブレーキがかかった理由はどこにあるのでしょうか? ※記事公開当初、「年間パスポート」を再開の目途が立ってない現状から“廃止”と記載しましたが、正しくは“休止”です。タイトル部、本文を訂正しますとともに、関係者ならびに読者の皆様に謹んでお詫びいたします。(2025年6月19日12時10分 日刊SPA!編集部)

◆新アトラクションの総工費はディズニーシーなみ

 2024年6月6日に新アトラクション「ファンタジースプリングス」がオープンしています。このアトラクションの総工費は3200億円。2001年にオープンした東京ディズニーシーの総工費が3350億円で、それに匹敵する規模だったのです。

 オリエンタルランドはもともと2024年度の来園者数を、前年度比149万人(5.4%)増の2900万人と予想していました。東京ディズニーシーに匹敵する強力なコンテンツを新たに設けたため、強気の計画を立てるのも当然でした。しかし、結果はそれを大きく下回ることになったのです。

◆入園者数の鈍化で社長自ら値下げを示唆

 入園者数が停滞している要因は主に2つあると考えられます。1つは過度な値上げ。もう1つが年間パスポートの休止です。

 運営するオリエンタルランドの高橋渉社長は、チケット代の価格改定を示唆しています。様々な券種の導入や季節に応じた柔軟な価格設定の検討を始めました。2024年に販売した学割チケット「カレッジパスポート(期間限定)」などの種類を広げ、繁忙期と閑散期で変動する料金の幅も調整すると見られます。

 東京ディズニーリゾートは、2023年10月から大人料金が日によって1万円を超えるようになりました。インフレで消費者の生活費負担が重くなる中、レジャーに十分なお金をかけられない人が多くなりました。レジャー活動への機運そのものが失われる中、東京ディズニーリゾートの強気の値上げが来園者数の減少に繋がったのは間違いないでしょう。

 社長自らが値下げを示唆したことで、素早くこの問題の解決を図ろうとしているのがわかります。しかし、客離れを引き起こしているより大きな要因として言えるのは後者の年間パスポート休止。年パスは東京ディズニーリゾートを強力なテーマパークに仕立て上げていた、ファンマーケティングツールになっていたからです。

◆年間パスポートには見逃せない“弊害”が

 東京ディズニーリゾートは2020年7月に年間パスポートを休止。当時は新型コロナウイルス感染拡大の真っ只中で、三密を回避する動きが各業界で広がっていました。それにならう形で、オリエンタルランドも入園者数を制限する方向へと舵を切ります。

 それから5年が経過し、経済活動は平時を取り戻しました。感染拡大への予防策を熱望する声はほとんど上がっていません。そして、オリエンタルランドが計画していた2024年度の来園者数2900万人という計画は2019年度と同水準のものであり、入場を制限するという経営側の意図もなくなっています。

 しかし、東京ディズニーリゾートは「よくある質問」の中で、「年間パスポートは販売しないのですか?」という声に対し、「現時点では未定です。当面、年間パスポートの販売再開の予定はございません」と回答しています。復活する兆しはありません。

 実は年間パスポートはその弊害が知られていました。マナーの悪い来場者が絶えないことです。特に最近ではInstagramやTikTokに投稿するため、写真映えするシンデレラ城の前などの好立地を占拠するケースが多く見られました。

 オリエンタルランドの値上げと年パスの休止はセットであり、その狙いは富裕層の取り込みであったと考えられます。来場者の客単価アップによる収益性の向上と、マナー問題の両方を解消できるというわけです。

◆メインターゲットは150万人から「110万人程度」まで減少

 確かに客単価はコロナ前の1万1000円から1万8000円まで上昇しており、その狙いは奏功しています。しかし、その代償としてボリュームゾーンのコアターゲットを多数失う結果となりました。

 オリエンタルランドは「ファクトブック」の中で、年代別来園者数の比率を公開しています。それによると、2024年度の18〜39歳の比率は41.2%で、2019年度の51.9%から10ポイント落としました。

 この落ち方は、比率で見ると実態が把握しづらくなります。実際の来園者数に当てはめると、150万人から113万人まで減少しているのです。コアターゲットは40万人近くも失われました。

 一方、40歳以上が62万人から93万人まで増加しており、この穴を埋めているのがわかります。

 そして懸念すべき点として、40歳以上の顧客は期待するほどその後は伸びませんでした。2024年度の増加率はわずか2.3%だったのです。18〜39歳に至っては0.7%増と横ばい。本来は40歳以上がもっと伸びると見ていたはずで、客層を入れ替えるという作戦が上手くいかなかった様子がわかります。

◆“夢の国”を創出する力を失った?

 東京ディズニーリゾートは「夢の国を再現する」という強力なブランド作りと、それに紐づくマーケティングの上で成り立っていました。

 来園した高校生や大学生などの若年層は、子供のころからの憧れの世界が目の前に広がり、友人や恋人と大切な時間を過ごす中で、貴重かつ鮮烈な思い出が刻み込まれます。それがリピート利用の原動力であり、年間パスポートは思い出の追体験ができる、魔法の杖とも言うべき存在でした。

 こうしたファンは結婚してからも、子供に同じ幸福体験をさせようとします。それによって新たなファン層が誕生するのです。そして世代を超えたリピート体験へと繋がり、頻繁なアトラクションの入れ替えなどの設備投資を必要としない唯一無二のテーマパークに仕上がっていました。年間パスポートはファンとパークを繋ぎ止める要だったのです。

 オリエンタルランドが新たなターゲットとして設定した、お金に余裕がある40歳以上の層を獲得しても、簡単にリピートするとは考えられません。本来、集客に注力すべき方向性を見誤り、長年続けてきたファンマーケティングに自ら終止符を打ったと見ることができます。その象徴的なものが年パスの休止でした。

 ウォルト・ディズニーの援護射撃も弱含んでいるという別の問題もあります。実写版の映画「白雪姫」は興行的な大失敗に終わりました。ディズニーはドル箱のマーベル作品に力を入れており、祖業とも言うべきアニメーションやその実写化で近年は力を発揮できていません。“夢の国”を視聴者に刷り込むコンテンツ力が弱っているのです。

 オリエンタルランドは海外観光客の取り込みにも注力していますが、これもターゲティングミスであることは明らか。本来のファンマーケティングに回帰するタイミングが訪れているのではないでしょうか。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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