窮地の日産「救世主カー」はダイジョーブなのか?

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2025年06月19日 10:10  週プレNEWS

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日産が崖っぷちに立っている。かつては「技術の日産」として世界をリードしてきた同社だが、業績悪化にもがき苦しんでいる。厳しいニュースが相次ぐ中、自慢の電気自動車リーフの新型が登場したが、果たして再建の切り札になりえるのか?

【写真】6月17日にデビューした新型リーフ

■新型リーフは経営再建の光明になるか?

昨年度の決算で6709億円という巨額の赤字を計上し、未曽有の経営危機に瀕している日産。経営再建を目指し、2万人の人員削減、7工場の閉鎖、さらにはリストラ費用の資金調達のため、神奈川県横浜市にある本社ビルの売却も検討しているという。

日産関係者からは「"ゴーンショック"を上回る大リストラ」という声も飛ぶ。そんな中、EV(電気自動車)のパイオニアである日産が起死回生の"切り札"として期待するのが、6月17日に発表した新型リーフ。

そもそもリーフとはどんなクルマなのか。自動車誌の元幹部はこう解説する。

「初代リーフは2010年に、世界初の量産型EVとして華々しくデビューしました。累計販売台数は約70万台のグローバルモデルです。

ただ2代目は17年の発売以来、8年目に突入して販売は低迷し、世界市場での存在感も薄れている。テスラやBYDなどの新興EVメーカーの後塵を拝しているのが実情です。

また、EV需要が世界的に失速している中で、追い打ちをかけるように米トランプ大統領が"脱EV"を宣言しましたから、3代目リーフは厳しい船出になると思います......」

一方、自動車ジャーナリストの桃田健史(けんじ)氏は"切り札"という位置づけに疑問を呈す。

「3代目リーフは"切り札"という位置づけではありません。10年の登場時とは社会背景がまったく違います。それよりも、日産のEV量産技術の現在位置を世界に示すことで、日産の将来性をアピールするべきタイミングなのだと思います。

また、EVシフトがいつどのように本格化するか、先読みができない状況の中で、3代目リーフは日産の有力な"タマ"でもある」

3代目リーフの役目は「技術の日産」の訴求であり、経営統合などで失墜したブランドイメージの回復。つまり、1999年にカルロス・ゴーン氏が"日産復活の象徴"に掲げたクルマがフェアレディZなら、イヴァン・エスピノーサ新社長が進める経営再建で、その役目を担うのが3代目リーフというわけだ。

加えて業界を牽引してきたEVのパイオニアが、今や後れを取る立場。3代目リーフにはその汚名返上も求められる。果たして日本市場でこのクルマは売れるのか。

「厳しいでしょう」

ズバリこう語るのは自動車評論家の国沢光宏氏。

「従来のリーフはBセグメントの骨格を使用していました。ところが、3代目リーフは日産のフラッグシップEV・アリアと同じ上等なDセグメントの骨格を使用しています。

当然、価格アップは確実で、私は500万円前後を予想しています。正直、コンパクトカーのイメージが強いリーフに日本市場でその金額を払う人がどれだけいるか」

3代目リーフはこれまでの5ドアハッチバックからデザイン面も大きく変更してきたが、国沢氏は首を捻(ひね)る。

「空力性能を極限まで追求したのはわかりますが、全体的にツルンとした特徴のないデザインですよね。今、世界的な売れ筋はSUVですから、この4ドアクーペ的なスタイルは市場の空気が読めていない。旧経営陣の声を色濃く反映させたクルマという感じ」

さらに、6月9日に日産が公開した3代目リーフの動画にも問題があるという。

「日産の応援を続ける日本人からすると、『日産は外国人に食い物にされた』という意識が強い。にもかかわらず、日産復活の鍵を握る新型リーフの動画に登場する最初の人物が外国人で全編英語......今の日産は本当に空気が読めない」

■中国で爆売れ、新型EV・N7

一方、そんな日産の反転攻勢の嚆矢になりそうなのが、中国市場に放った新型EVのN7。驚異的なスタートダッシュを見せたという。自動車誌の元幹部が解説する。

「4月27日に販売開始したこのミッドサイズセダンは、わずか1ヵ月で1万7215台を受注し、同価格帯の競合EVを圧倒する売れ行きです。価格は約240万〜302万円。中国での販売不振に苦しむ日産にとって、経営再建の"切り札"として期待が高まっています」

N7の好調な売れ行きについて桃田氏が分析する。

「市場調査をしっかり行なった結果、高級車より少し低い価格帯域でのEV価格設定がうまくハマったと思います。ただし、この価格帯域でも今後、中国地場メーカーとの価格競争が激化するはず。安売りせず、"日産ブランドの価値"をどう維持するのかが課題になります」

現地で実車を取材した国沢氏はこう語る。

「私は今年4月に中国・上海市で開催された上海モーターショー2025でN7の開発陣を取材していますが、N7はAIを活用した自動運転支援技術や大型ディスプレー、冷蔵と保温が可能な冷蔵庫を備えるなど、中国市場のトレンドを的確にとらえた戦略が功を奏しています。

また、部品などを現地調達することでコストを削減し、価格を競争力のある水準に抑えられたのも大きいでしょうね」

中国EVメーカーをしのぐコスト競争力の背景には、いったい何があるのか。

「日産が中国メーカーと同じ現地の部品を使えば、技術力や知見の差が出るのは当たり前の話です。加えて旧経営陣の"干渉"がなかったのもポイント(笑)。ちなみにN7は中国市場だけでなく、日本を含めたグローバル市場への輸出も視野に入っていると耳にしています」

3代目リーフより、N7のほうが日産ブランド復活を象徴する救世主カーになるかも!?

取材・文/週プレ自動車班 写真/時事通信社

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