子宮頸がんの治療薬として登場した「チソツマブ ベドチン」とは？

進行・再発子宮頸がんの治療選択肢は少ない

　子宮頸がんは、日本で年間約1万人が診断され、特に30代から40代の若い女性に多いがんです1）。進行したり再発したりすると、治療の選択肢が限られ、予後が悪くなることが知られています。このような状況において、最近新しい治療薬が承認され、期待が高まっています。バイオテクノロジー企業のジェンマブ株式会社は、2025年6月5日にメディアセミナーを開催。米盛勧先生（国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科科長/医薬品開発部部長/先端医療科医長/国際先進診療部門部門長/国際開発部門副部門長）が子宮頸がん治療における課題と、新薬への期待について解説しました。

　子宮頸がんの主な原因は、ヒトパピローマウイルス（HPV）への感染です。早期に発見できれば治癒する可能性は高いものの、肺や肝臓など他の臓器に転移したり、再発したりした場合には、5年生存率が2割程度に低下するとされています2）。子宮頸がんの一次治療で使用可能な治療薬は複数ある一方で、二次治療以降での選択肢はわずかであり、また作用機序も一次治療の治療薬と同じタイプのものがあるなど、新たな治療法の登場が強く望まれていました。

全生存期間、無増悪生存期間が延長

　続いて米盛先生は、2025年3月に承認されたチソツマブ ベドチンについて紹介しました。チソツマブ ベドチンは、「抗体薬物複合体（ADC）」と呼ばれる新しいタイプのお薬です。米盛先生によると、ADCはがん細胞に特異的に結合する「抗体」に、抗がん剤を「搭載」したもので、体内に投与後、がん細胞の表面にある「組織因子（TF）」という目印に抗体が結合し、がん細胞の中に抗がん剤を直接運び込むことで、がんを攻撃します。これにより、従来の抗がん剤の全身の健康な細胞にもダメージを与えやすいという問題を軽減しつつ、がん細胞を効率的に標的とすることが期待されています。

　チソツマブ ベドチンの有用性は、進行または再発の子宮頸がん患者さんを対象とした大規模な国際共同臨床試験（innovaTV 301試験）で、検証されています。

　この試験の結果、次のような効果が確認されています。まず、全生存期間の延長です。チソツマブ ベドチンを投与された患者さんの全生存期間の中央値は11.5か月であったのに対し、従来の化学療法を受けた患者さんでは9.5か月で、統計学的に有意に生存期間が延長していました。また、病気の進行を遅らせる効果も認められ、子宮頸がんが悪化するまでの期間（無増悪生存期間）の中央値も、チソツマブ ベドチン群で4.2か月と、化学療法群の2.9か月より有意に延長しました。さらに、治験担当医師判定によるがんが小さくなった患者さんの割合（客観的奏効率）についても、チソツマブ ベドチン群で17.8%と、化学療法群の5.2%に比べて高いことが示されました。

特有の副作用があり、事前の対策が重要

　この試験では、チソツマブ ベドチンの安全性についても検証されています。チソツマブ ベドチンは、従来の治療薬とは異なる作用機序を持つため、特有の副作用が認められ、特に眼の症状（ドライアイ、角膜炎、結膜炎など）、手足のしびれ（末梢性ニューロパチー）、出血（鼻血など）などの発現率が高い傾向にありました。米盛先生は、副作用対策について「主治医だけでなく、薬剤師や看護師、地域の眼科医など、多様な医療従事者が連携して、予防や適切な管理を行うことが非常に重要。例えば、眼の副作用を低減するために、治療開始前から点眼薬を使用するといった対策が求められる」と指摘しました。

　副作用などの課題がありつつも、これまで少なかった進行・再発子宮頸がんの治療法に新たな選択肢が加わったことで恩恵を受ける患者さんは少なくありません。まずは、子宮頸がんを発症しないような対策や定期検診が重要ですが、患者さんの予後改善の可能性がある治療薬が増えることは喜ばしいことであり、今後もよりいっそうの充実が期待されますね。（QLife編集部）

⇒元の記事を読む