セルジオ越後の「新・サッカー一蹴両断」(11)
オーストラリア、インドネシアとの2026年北中米ワールドカップ最終予選の"消化試合"2連戦を終えたサッカー日本代表。昨年9月の初戦から順調に勝ち点を重ね、早々と本大会出場を決め、森保一監督や選手たちの口からは「ワールドカップ優勝」宣言も飛び出しているが、ご意見番のセルジオ越後氏は今予選をどう振り返る?
【弱いチームに大勝しただけ】
いつも言っていることだけど、代表チームの公式戦は結果が最優先。その意味で、ワールドカップ最終予選のグループ1位通過はよかった。しっかり評価すべきだ。
ただ、内容的には微妙だね。オーストラリアに1分け1敗、サウジアラビアに1勝1分けと、ライバルと言われた2チームには力の差を見せられなかった。ホームで1勝もできなかった。
オーストラリアは昔と比べて明らかにタレント不足。(ティム・)ケーヒルみたいな、怖い選手はいない。また、サウジは国内リーグに有力な外国人選手を集めたせいで、代表選手が試合に出られなくなり調子を落としている。そんな2チームに対して、日本はボール支配率で上回ったものの、なかなか勝ち点3を取れなかった。
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結局、アジアの出場枠が8.5に増えたおかげで最終予選に勝ち進めたともいえるインドネシア、中国、バーレーンといった弱いチームに大勝しただけ。それなのに、一部メディアが「史上最強」などと浮かれているのには違和感があるよ。
確かに、昔に比べれば、ヨーロッパでプレーする選手の数は劇的に増えた。個々のレベルは上がっていると思う。でも、それは世界のライバルも同じ。日本だけが強くなったと勘違いしてはいけない。
今月の"消化試合"2連戦を見ても、そう思った。まずアウェーのオーストラリア戦(●0−1)。前回(昨年10月)のホームでの対戦(△1−1)と同じく、オーストラリアは自陣に引いてブロックをつくる守備的な戦い方を選んできた。
そして、前回同様に日本はそのブロックを崩せなかった。後方で外回りにボールをつなぐだけ。ワンツーや個人技による仕掛けは少なく、たまにクロスを上げても高さのある相手にはね返される。可能性の感じられない攻撃を繰り返し、流れを変える采配もなかった。3バックから4バックに変更してもよかったと思うんだけどね。そして、試合終了間際に決勝点を奪われた。
【現実はベスト8だって大変だよ】
選手個々で見ても、よかったのは右サイドで起用された平河悠(ブリストル)くらい。積極的な仕掛けからチャンスをつくり、惜しいシュートもあった。昨夏にFC町田ゼルビアからブリストル(イングランド2部)に移籍してからはプレーを見る機会がほとんどなかったんだけど、成長しているなと感じた。今後もチャンスを与えてほしい。
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一方、僕が注目していたボランチの藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)はもうひとつのデキだった。特に、前半は消えていた。パリ五輪のように、もっと攻撃に絡んでほしかったけど、ひさしぶりの代表戦出場ということで慎重になりすぎたのかもしれない。ボランチには遠藤航(リバプール)と守田英正(スポルティング)という絶対的なふたりがいるものの、いつまでも彼らに頼るわけにはいかないし、藤田にはがんばってもらわないと困るんだけどね。
この試合は森保一監督が多くの新戦力を試していたことから、"いつものメンバー"で戦っていれば結果は違っていたという意見もある。正直、僕もそうかもしれないなとは思った。
でも、ベストメンバーで臨んだ前回のホーム戦も結局、勝っていないので、そう言ったところで慰めにはならないね。いずれにしても、見ていてストレスのたまる試合で、皮肉を言えば、テレビの地上波中継がなくてよかったよ。
続くインドネシア戦は6−0の快勝。オーストラリア戦でたまったストレスを解消できた。内容的には10点以上取ってもおかしくなかった。なかでも、鎌田大地(クリスタル・パレス)や久保建英(レアル・ソシエダ)はさすがのプレーぶりで違いを見せた。やりたい放題だったね。
ただ、インドネシアに歯ごたえがなさすぎたのも確か。こういう試合は選手を評価するのが難しい。日本の選手はみんなうまく見えた。
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森保監督と選手たちが「ワールドカップ優勝」を目指すと公言していることに対し、僕は以前から「焦る必要はない」「謙虚に挑戦者の気持ちで」と言ってきた。オーストラリア戦を見て、あらためてその思いを強くしたよ。
ちょうど今回の2連戦と同じタイミングで開催されていたヨーロッパのネーションズリーグの中継を見たんだけど、ベスト4に残ったポルトガル、スペイン、ドイツ、フランスはどこも強烈だった。日本は前回のカタールワールドカップでドイツとスペインに勝ったけど、両チームとも、当時とはまるで別のチーム。ほかにもオランダやイングランドもいいチームだし、南米には前回ワールドカップ優勝のアルゼンチンがいる。
そうした強豪がたくさんいるなか、昨年のアジアカップでベスト8敗退、最終予選でオーストラリア、サウジアラビアに勝ちきれなかった日本が、どういう根拠で「ワールドカップ優勝」と言えるのか。現実はベスト8だって大変だよ。オーストラリア戦の敗戦を、"いい警告"として受け止めてほしい。
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