
2021年7月、ある住宅街に、毎日のように姿を見せる猫がいました。のちに「虎太郎くん」と名付けられ、今は家族の一員として暮らしています。
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「最初はどこかの飼い猫かと思ったんです。でも首輪もなく、日に日に痩せていって…」
警戒心が強く、近づくとすぐに距離を取ってしまう虎太郎くん。それでも、しっぽをピンと立てて悠々と歩く姿が印象に残ったといいます。
「今しかない」と保護を決めた夜
ある夜、家の外から激しい鳴き声が響きました。駆けつけると、虎太郎くんが血まみれでうずくまっていました。
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「地域のボス猫に足を噛まれ、高熱でぐったりしていました。体重も2.5kgしかなく、2歳くらいなのに明らかに栄養失調。ひとりで生きていくのはもう無理だと感じて、保護することを決めたんです」
その後、何とか虎太郎くんを保護した飼い主さんは、動物病院へ。さらに警察と保健所にも届け出をしたうえで、正式に家族として迎えることにしました。
不安から夜鳴き…“妹猫”を迎えて大きく変化
虎太郎くんは、慣れない室内で不安を抱えていたようでした。夜になると大きな声で鳴き続け、飼い主さんも眠れない日々が続いたといいます。
「室内や見知らぬ環境が怖かったんだと思います。でも、毎日話しかけて見守っていたら、だんだん落ち着いてくれてー今では撫でると喉を鳴らしてくれるまでになりました」
虎太郎くんを保護してから2年ほど経ったころ、飼い主さんは再び庭に現れたふたりの子猫を保護しました。そのうちの1匹がサビ柄の女のコ「ちくわ」ちゃんです。
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すると、虎太郎くんに変化が。まるで親代わりのように、ちくわちゃんとそのきょうだいのお世話をしてくれるようになりました。
しばらくして、ちくわちゃんは飼い主さんの家に、きょうだい猫は知人の家に迎えられることに。虎太郎くんに妹猫ができたのです。
ともに暮らすうちに、ふたりの性格の違いもはっきりしてきたといいます。
「ちくわが明るく、自己主張が強いのに対して、虎太郎は穏やかで控えめ。ちくわを撫でていると、虎太郎が少し離れた場所からじっと見ていて…。声をかけるとお尻を向けて甘えてくるんです。おやつも、ごはんも、ちくわが終わるまで静かに待っていてくれます」
入院で気づいた、「家に帰ること」の意味とは
昨年、飼い主さんは、短期間ではありましたが入院を経験しました。すると、虎太郎くんの様子に異変がみられたようでー。
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「家族から『虎太郎がずっと不安そうだったよ』と。そのとき、私には帰る場所がある。そして待っていてくれる存在がいるのだと実感し、ありがたく思いました。退院後、家に帰ったとき、ふたりが迎えてくれて、とてもうれしかったです」
虎太郎くんたちとの暮らしは、飼い主さんにも変化をもたらしました。
「この子たちのために、安全運転しようとか、健康に気をつけようと思うようになりました。どんなに疲れていても、そばにいてくれるだけで心が落ち着きます。猫って、本当にすごい存在です」
「わがまま言っていいんだよ」——今、伝えたい想い
虎太郎くんは6歳になりました。今では、かけがえのない家族であり、心の支えでもあります。
「これまでたくさん我慢してきた虎太郎に、もっと甘えていいんだよって伝えたいです。出会えて本当に良かったと、心から思っています。これからも一緒に、穏やかで幸せな時間を過ごしていきたいです」
「保護猫を迎えることは、救うのではなく“支え合うこと”なんだと、そう思います」と語る飼い主さん。虎太郎くんとちくわちゃんを迎えて、知ったことのひとつでもあります。
「小さな一歩で命が救われて、人間の人生も変わります。すべての猫たちに、それぞれの物語があることを、より多くの方に知ってもらえたらと思います」
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)