
ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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小学校の時は毎日のように遊んでいたが、中学で進路が分かれてほぼ音信不通になって以来、数十年。そんなある友達から突然メールが来たのは、約7年前のことだった。
いつの間にやらTV局のディレクターになっており、しかも僕と同じく酒好きになっており、僕の昨今の酒場ライターとしての活動を知って、なにか一緒にやろうと声をかけてくれたのだった。人間、それなりに長く生きていると、いろんなことがあるものだ。
そんな経緯で、TV東京の深夜番組「音流〜ONRYU」(現在は「超超音波」という番組にリニューアル)内に「酒場サーキット」というコーナーが始まったのが6年半前。人気バンド、BLUE ENCOUNTのボーカル田邊駿一さんが、親交のあるさまざまなゲストミュージシャンと酒場で飲みつつトークをするという内容で、僕はそのアドバイザー役として、毎回番組に出演するようになった。
先日、長く続いたそのレギュラー放送が終了してしまい、今後は不定期にスペシャルがある予定ではあるものの、いったんの打ち上げ会があった。会場は五反田の「梅林(めいりん)」という中華料理店だそうで、どんな店かも知らずに向かってみると、業界人御用達の高級中華とかではなく、こぢんまりとした町中華だったので、さすが勝手知ったるスタッフさんだと嬉しくなった。
しかしここが五反田では大人気の名店らしく、確かになにを食べてもうまい。ザーサイひとつをとってもこだわりを感じる。注文は基本的にスタッフさんにまかせていたが、人数もそれなりにいるからあれこれ食べられてとても楽しい。
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まずはビールで乾杯し、ウーロンハイから紹興酒へと以降しつつ、大いに食べて飲む。もちもちの皮の焼き加減が絶妙な「焼餃子」、盛りが良すぎて山になっている揚げたての「若鶏から揚げ」、大ごちそうの「海老のチリソース煮」、熟練の技が光る「イカとセロリの炒め」、いぶし銀だがこれさえあればいいとすら思わせる「きゅうり鶏」などなど。近年はひとりや少人数で飲むことが圧倒的に多く、こういうのは久しぶりだけど、やっぱり楽しいな〜。
なかでも僕が特に気に入ったのが「海老のグリンピース炒め」。ぷりぷりの海老とたっぷりすぎるグリーンピースの豆豆しさの組み合わせが良く、近年豆がどんどん好きになってきている僕にとってストライクすぎる一品だ。この料理、生まれて初めて食べたが、絶対に家でも作ってみよう。当然、素人の僕にここまでの味わいは出せないだろうけど、自分を満足させる最大のポイントは、グリーンピースを大量に入れることで間違いなさそうだ。
ところで、この店最大の名物でファンが多いのが、実は焼きそばなのだそう。ラーメンでもチャーハンでもなく、というところがおもしろいが、メニューを見るとそれも納得。「野菜焼きそば」「五目焼きそば」「とり焼きそば」「海老焼きそば」「牛肉焼きそば」、さらにそれらのソース味、塩味、上海味、加えて「青菜からし焼きそば」なんていう変わり種まで、なんと16種類もの焼きそばメニューがある。あんかけものは麺をかた焼きそばにもできるそうだから、そのバリエーションも含めればさらに膨大だ。並々ならぬ焼きそば愛を感じる。
酒のつまみならば上海や五目系が合いそうだが、初めてということもあり、ここは王道のソース、それの肉増しの「肉ソース焼きそば」(税込1,100円)を選ばせてもらおう。
届いた瞬間から、香ばしさと同時にソースの華やかな香りがふわりと広がる。ひと口ほおばるとやはりその予感は間違っていなくて、もちもちかつ、ところどころにかりっとした食感もある細麺が、濃厚なソース味と、酸味もきっちりと立ってフルーティーなソースの香りをふんだんに運んできてくれる。こりゃあ、人気にもなるはずだ。ふんだんな豚肉はもちろん、しゃきっとしたキャベツ、ピーマン、にんじん、玉ねぎらの野菜たちが奏でるハーモニーも至福。一見ごく普通の見た目でありながら、強い矜持を感じる、記憶に残る焼きそばだった。
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会場に向かうまではしんみりもしていたけれど、ロケハンやロケを幾度となく重ねてすっかり飲み友達になってしまったスタッフさんたちとの飲み会は、ただただ楽しいだけのものだった。今後定期的には会わなくなってしまうのだろうけど、またこうして集まって飲めたら良いなと思う。
取材・文・撮影/パリッコ