
連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE30
モントリオールのジル・ビルヌーブサーキットで開催された第10戦カナダGPは、メルセデスのジョージ・ラッセルがポール・トゥ・ウインで今季初優勝を挙げた。
2位はレッドブルのマックス・フェルスタッペン、3位には今季デビューを果たした18歳のキミ・アントネッリが入り、メルセデスがダブル表彰台を獲得する。
チャンピオン争いを演じるマクラーレンのオスカー・ピアストリとランキング2位のランド・ノリスはレース終盤、激しいバトルの末に接触。ピアストリは辛うじて4位でフィニッシュするが、ノリスはリタイアに終わった。
次戦はレッドブルの本拠地オーストリアGP(決勝6月29日)。3戦連続で入賞を逃がしている角田裕毅(つのだ・ゆうき)はレッドブルリンクで悪い流れを断ち切り、本来の実力を発揮することができるのか!?
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■クリーンな幕開けとなったカナダGP
今シーズンの予選は開幕戦から僅差の勝負が続いていますが、第10戦のカナダGPの予選も相変わらずの接戦となりました。タイヤの使い方が分かれたのは興味深かったですね。
予選では通常もっともグリップ力の高いソフトタイヤでタイムアタックするのがセオリーですが、カナダに関してはミディアムが正解だったのかもしれません。
ソフトはスイートスポットが狭くすごく扱いづらい様子で、開幕から圧倒的な速さを見せるマクラーレン勢ですらピアストリ選手が3番手、ノリス選手は7番手という結果に終わっています。
逆にミディアムを装着したメルセデスのジョージ・ラッセル選手が今季初のポールポジションを獲得。2番手にもやはりミディアムでタイムアタックしたレッドブルのマックス・フェルスタッペン選手がつけました。
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フロントローには奇しくも前戦のスペインGPレース終盤に接触したラッセル選手とフェルスタッペン選手が並ぶことになりましたが、予選後のインタビューは面白かった。
スペインでのアクシデントは最終的にフェルスタッペン選手の過失とみなされ、タイム加算の処罰に加えてペナルティポイント3点が科されました。
その結果、フェルスタッペン選手の累計ペナルティポイントが11点となり、1戦の出場停止処分が下る12点まであと1点という危機的な状況でカナダGPを迎えていました。
だからラッセル選手は予選終了後のインタビューで「ペナルティポイントは僕の味方だから」とコメントし、出場停止にリーチがかかっているフェルスタッペン選手に対して心理戦を仕掛けているようにも見えたので、ふたりのスタートには注目していましたが、クリーンな幕開けとなりました。
■ついに起こってしまったマクラーレンの同士討ち
ラッセル選手はスタートをうまく決めてトップを守ると、タイヤのマネージメントも完璧にこなして70周のレースをしっかりと走り抜き、今季初優勝を飾ります。
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メルセデスの秘蔵っ子として今季デビューを果たした18歳のキミ・アントネッリ選手の走りも見事でしたね。ミスのない落ち着いたドライビングで3位に入り、キャリア初の表彰台に上がりました。
フェルスタッペン選手はスタート直後こそラッセル選手に迫る速さを披露していましたが、徐々にタイヤのデグラデーション(性能劣化)に苦しみはじめ、トップから引き離されていきます。
それでもマクラーレンの2台よりも上の2位でフィニッシュし、チャンピオン争いで貴重なポイントを獲得。苦しい状況でもベストの結果を残したと思います。
一方、チャンピオン争いをリードするマクラーレンですが、いつかこういう日が来るだろうと思っていたことがついに現実のものとなってしまいました。レース終盤にノリス選手が4位を走行するピアストリ選手に追い抜きを仕掛けた際に両者は接触。
ピアストリ選手はなんとか4位のポジションをキープしてゴールしましたが、ノリス選手はマシンにダメージを受けてリタイアを喫し、ノーポイントに終わります。
これまでマクラーレンはドライバーに対してチームオーダーを出さずに、ピアストリ選手とノリス選手に対して自由にレースをさせていましたが、いつかこういう"同士討ち"が起こると予想していました。
でもノリス選手は接触事故が起こった後、すぐに「自分がすべて悪い」と無線でチームに謝罪していました。レース中にアドレナリン最高潮の中ですぐにミスを認めて謝ることができるのは、人間として素晴らしいですし、本当にナイスガイですよね。
ただ、生き馬の目を抜くといわれるF1でチャンピオンになるために、ノリス選手の人間性がいい方向に働くのかどうか......。
いずれにせよ、ノリス選手はチームメイトとの接触でノーポイントに終わり、チャンピオンシップの上で相当のダメージを負いました。逆にピアストリ選手は4位に入り12点を獲得し、ダメージを最小限に抑えたといえます。
これでピアストリ選手(198点)とノリス選手(176点)のポイント差は22と広がりました。ノリス選手にとってカナダGPのノーポイントが後々、大きなツケとして回ってくるかもしれません。
■角田選手に対するペナルティは厳しすぎる!
カナダGPでF1参戦100戦目を迎えた角田選手は、やっと新しいフロアを装着したパッケージで走ることができました。その結果、ここ数戦よりも確実にパフォーマンスをあげることができ、予選では11番手のタイムを出します。
ところが予選前のフリー走行3回目で、赤旗提示中に他のマシンを追い抜きしたとして10グリッド降格のペナルティを科されます。これはあまりに厳しすぎる裁定だと感じました。
角田選手の前を走っていたピアストリ選手は、壁にマシンをヒットさせ、コース上にパーツが散乱し、タイヤが外れそうになるほどの大きなダメージを受けました。すぐに赤旗が提示され、ピアストリ選手はパーツをまき散らしながらピットに戻るためにスロー走行していました。
そんな状態のマシンの後ろを走行していると、壊れたパーツやタイヤが飛んでくる可能性があったので、角田選手は安全性を考慮してマクラーレンのマシンを追い抜いたと話していました。これは当然の判断だったと思います。また、そもそもですが、ピアストリ選手はすぐに安全な場所にマシンを止めるべきだったと思います。
F1には「マシンに重大なダメージがあり、ほかのドライバーを妨害したり、危険にさらしたりする可能性があり、競技に支障をきたすことなくピットレーンに戻ることができない選手やマシンは、安全が確保され次第、コースを離れなければならない」という規則があるんです。
ところが角田選手には10グリッド降格という厳しいペナルティを科され、その原因をつくったピアストリ選手にはなんの警告やお咎(とが)めもありませんでした。角田選手に対する裁定は不可解ですし、赤旗の提示は安全性を確保するためのものです。赤旗の運用ルールをもう少し明確にする必要があると感じました。
■角田選手のパフォーマンスは上がっている
カナダGPで上位勢は2ストップ作戦をとりましたが、18番手からスタートした角田選手は1ストップ作戦で臨むことを選択。スタート時に履いたタイヤで50周以上を走行しなければならず、我慢のレース展開となりました。
2ストップ作戦を採っていたチームメイトのフェルタッペン選手ですらタイヤの摩耗に苦しんでいたことを考えれば、角田選手はうまくタイヤをマネージメントしていたと思います。
同じ戦略をとっていたウイリアムズのカルロス・サインツ選手(10位入賞)に比べると、ペースが少し劣っていたのはやや気になりましたが、大きなミスなく最後まで走り切って12位でゴールしました。
予選でのペナルティがなかったら上位入賞するチャンスは十分にあったと思うので、角田選手はフラストレーションがかなりあったはず。しかも、カナダGPはレース終盤、先に述べたマクラーレン同士の接触によってセーフティカー(SC)が導入され、そのままチェッカーフラッグとなりました。
チェッカーフラッグを受けた後でもSCが先導中の追い越しは禁止されていますが、7人のドライバーがルールを違反していることが判明。レース後に審議されることになりました。
フリー走行で赤旗提示中に追い抜きをした角田選手に10グリッド降格のペナルティが科されたことを踏まえると、審議対象のドライバーになんらかのグリッド降格ペナルティが科されるのが妥当ではないか、それが一貫性のある裁定だと僕は思っていました。
角田選手は「僕も赤旗中の追い抜きでペナルティを受けたんだから、SC中に追い越したドライバーたちもペナルティを受けるべき」と無線で話していましたが、レーススチュワード(審査委員)は審議対象のドライバーに対して警告処分を出すだけでした。角田選手にとっては余計にフラストレーションが溜まったかもしれません。
でも新パッケージのマシンで完走したことで多くのことを学べたのではないでしょうか。パフォーマンスは確実に上がっていますので、週末を通してトラブルなく物事が運んでいけば、結果はついてくると思います。次戦のオーストリアGPに向けて気持ちをリセットし、これまでの成果を示してほしいです!
☆取材こぼれ話☆
ブラッド・ピット主演の映画『F1/エフワン』が6月27日から全国劇場公開されるが、光一の後輩でSixTONESの森本慎太郎さんが日本語吹替版声優を務めることになった。
森本さんはブラッド・ピット演じる元カリスマF1レーサー、ソニーのチームメイトでルーキーのジョシュア(ダムソン・イドリス)役を担当する。
「F1の映画は面白そうですが、慎太郎が日本語版の声優をやるんですよね。そういえば、俺に事前に連絡がなかったなあ(笑)。慎太郎はクルマがすごく好きみたいで、以前『光一さんはフェラーリ430スクーデリアに乗っているんですよね』と話しかけてくれたことがありました。
timeleszの(佐藤)勝利もクルマは好きだし、なにわ男子の長尾謙杜君もアストンマーティンの招待で今年の日本GPに来ていました。クルマが好きな子は事務所には何人かいますが、いろんなタイプがいます。
僕はF1ファンのクルマ好き。原点はあくまでF1です。だからF1の象徴であるフェラーリに乗っているんです」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝
構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(堂本氏) 写真/桜井淳雄