



彼は「加害者」で、私は「被害者」。その対等ではない立場を利用していた私の心を、両親は見抜いていたのです。父は「20年前に示談が成立した時点で、この件は終わっている」「もう彼と関わるべきではない」と私を諭しました。



「また事故にとらわれる日々を送るのはもったいないよ」そう両親に説得されたこともあり、私は橘ケンへの連絡をやめました。それ以来、彼とは仕事で会うこともありません。おそらく自分からうちの会社の担当を外れたのでしょう。



橘ケンと出かけた日々は、たとえ関係が対等ではなかったにしても楽しかった……。いろいろな場所へ一緒に出かけられたし、寄り添ってくれる彼の気遣いも嬉しかった。それが「加害者」としての償いだったとしても、確かに私に温かい気持ちをくれたのです。
私の彼への気持ちがいったい何だったのかは分かりません。けれど橘ケンと過ごした日々が私に彩りを添えてくれたことは確かでした。二度と会うことはないけれど、私には私のことを心から思ってくれる優しい両親がいます。人より不自由なこともあるけれど、それを受け入れて歩んできた人生が、以前と変わりなく続くだけです。これからも前を向いて自分らしく生きていこう……そう思っています。
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