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踏んでフレームが曲がった。運動中に壊れてしまった。こうした、メガネユーザーなら経験がありそうな「ささやかな不便」を解決すると評判のメガネがある。Zoffが2024年10月に発売した「Galileo(ガリレオ)」だ。
レンズ以外すべてをラバー素材で作ったこのメガネは、曲げても踏んでも壊れにくい。累計販売本数は5月時点で1万5000本を突破し、6月からはサングラスも登場するなど、ラインアップも拡大している。
一般的なメタルやプラスチックフレームと違い、ガリレオはオールラバー製だ。通常のメガネより多くの開閉試験を実施して耐久性を確保しており、汚れても水洗いできるため、いい意味で雑に扱っても大丈夫なメガネといえる。
大人用はスクエアとウェリントンの2型、子ども用はスクエアとボストンの2型で、それぞれ3色あり、価格はセットレンズ代込みで1万1100〜1万3300円で展開している。独特な商品名は、同社が創業時のアパレル事業で使用していた名称と、既存の常識を覆したガリレオ・ガリレイの革新性が由来となっている。
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元々は、子ども向け商品として構想していたという。 メガネをかけていることが原因で、スポーツなどに挑戦したくてもできない子どもたちに「メガネを気にせず思い切り活動してほしい」という考えから開発に着手した。
「子どもがメガネをかけていることで可能性を狭めてしまっている部分を少しでも解消したかった」と商品企画を担当した伊東晃拓さんは振り返る。
●硬さの異なるラバーを組み合わせた二層構造
メガネは、強い衝撃を受けると壊れてしまう。金属ならポキッと折れ、プラスチックなら割れてしまう。Zoffの「ガリレオ」は、この根本的な課題をラバー素材で解決した。
ただし、単純にすべてをラバーにするだけでは不十分だった。「輪ゴムのように柔らかく作ってしまうと、だらんと落ちてしまう」と伊東さんが語るように、強度を保ちながら快適なかけ心地を実現する必要があった。
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そこで、同社は硬さの異なる2種類のラバーを組み合わせた二層構造を採用。外側には強度を保つための硬いラバー、顔に触れる内側には快適性を重視した柔らかいラバーを使用した。開発では、この2つを圧着する技術の確立に最も苦労したという。
フレームやテンプル(フレームの側面から耳にかける部分)に設けられた「抜き穴構造」も特徴的だ。これは単なるデザインではなく、衝撃を吸収するクッションとしての役割を果たす。
3年以上の開発期間を要した技術は特許も取得。量産化にあたって、工場の担当者はその複雑な構造に驚いていたという。「簡単には真似できない高度な技術力」と伊東さんは自信を見せる。
●計画を上回る販売数を記録
構想段階では子ども向けメガネとして開発が始まったが、成人を含む全世代が使えるように方針を変更した。この判断が的中し、新しいもの好きやガジェット愛好家といった層から強い支持を得た。
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発売直後から好調な売れ行きを見せ、一時は在庫切れの店舗も出るほどだった。さらに、日経MJが発表した「2025年上期ヒット商品番付」にもランクインし、選出後は売り上げが1.6倍伸びるなど、5月末時点で累計販売本数は1万5000本を突破した。
使用場面は多岐にわたり、最も多いのはスポーツ用途だ。ラバー素材の特性により滑りにくく、ずれにくいうえ、フィット感も良い。体の接触があるスポーツでも使用でき、別売りのスポーツバンドと組み合わせれば、万が一外れても落下を防ぐことができる。
家用メガネとしての需要も高い。老眼鏡として使う高齢者もいるほか、ガリレオなら寝落ちしても壊れにくく、クッション性があるため顔が痛くなりにくい。筆者も実際に触れてみたが、曲げても壊れる心配はなく、かけ心地に違和感もなかった。
Zoffの店長向け商品説明会では、当初は「色物の新商品」という反応だったが、購入した人からは 「普通のメガネとして違和感なく使える。かけ心地も良く、見た目も自然だ」といった意見が目立つ。
●メガネによる行動の制限を解消する
発売当初は、頑丈さやラバー素材といった機能面はあまり前面に出さず、「新しいもの」「かっこいいもの」といった感性に訴える戦略で展開していたが、男性ライフスタイル誌で実施した機能性重視のタイアップが売り上げの拡大に貢献した。
今後は、頑丈さという機能的価値と、革新性といった情緒的価値のバランスを取りながらブランドを育てていく方針だ。
加えて、商品バリエーションの拡大にも注力する。現在は幅の調整ができないという制約があるため、より多くの人に合うサイズ展開を目指す。また、テンプルが閉じない構造のため専用ケースでの持ち運び時にかさばるという声に応え、よりコンパクトな収納を可能にする改良も進めている。
6月にはガリレオシリーズのサングラス(1万3300円)を発売した。インバウンド需要も強く、特にサングラスは持ち帰りやすいこともあって人気が高い。インバウンド客の多い店舗では、売り上げランキングの上位に入ることもあるという。ガリレオは、Zoffの店舗がある香港とシンガポールでも販売開始するなど、海外での展開も始まっている。
これまでのメガネ選びでは、デザインや価格が主な選定基準だった。ガリレオは、「メガネによる行動制限の解消」という新しい選択基準を提案している。オールラバー素材のメガネという選択肢が、ユーザーの意識を変え、 メガネ業界の常識すら変えてしまうかもしれない。
(カワブチカズキ)
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