画像:ドラマ『夫よ、死んでくれないか』テレ東公式Instagramより いよいよクライマックスを迎えようとしているドラマ『夫よ、死んでくれないか』(テレ東系、月曜よる11時6分〜)。6月16日に放送された第11話では、本作一番の謎とされていた麻矢(安達祐実)の夫・光博(竹財輝之助)の不倫相手が判明した。
◆「気付くのおっそ」麻矢の転職先も奪った不倫女の正体
中盤、麻矢を慕っていた後輩・香奈(松浦りょう)が、ヘッドハンティングされて転職することになったと麻矢に打ち明ける。その転職先は、以前麻矢が引き抜かれたものの入社直前に“破談”になった会社だった。光博が失踪していることを何者かにリークされたのが理由だった。
さらに麻矢は、世話になったお礼として香奈が自作した香水を人づてにプレゼントされる。その香りをかぐと、光博や家のベッドについていたものと同じであることに気付く。
全てを悟った麻矢は香奈を待ち伏せし「あなただったんだ」と、光博の不倫相手だけではなく、リークした犯人でもあったことを問い詰めると、「気付くのおっそ」と言われる。麻矢が「なんで? どうしてこんなこと」と問うと、「嫌いなんですよね、あなたのこと」「職場ではみんなに慕われて、順調にキャリアを積んで、プライベートだって何不自由ない恵まれた生活を送ってるのに」と返される。
◆「弱ってる“オジ”保護するの好きなんですよね」
香奈は光博と共通の趣味であるゲームを介して仲を深めるうちに不倫関係に発展したようだ。「光博さん、傷ついてた。なのに、あなたは夫が失踪しても清々した顔で仕事して」「だから、私が癒してあげてたんです。私、弱ってる“オジ”保護するの好きなんですよね。あの捨てられた子犬のような、すがりつくような目がたまんなくて」とどこか得意げな表情を浮かべる。
煽るように不倫の理由を淡々と語る香奈に麻矢は「自分が何したかわかってんの?」と怒りをにじませるが、「私を責める権利あるんですか? あの人がああなったのは、全部あなたのせい」と応戦。正直、香奈は麻矢にとって夫の不倫相手なのだから、責める権利は間違いなくある。とはいえ、光博の死を願い、雑に接してきた過去がある手前、言い返せなかったのだろう。
◆“弱ってるオジ”からしか好かれない女性
「弱ってる“オジ”保護するの好きなんですよね」というセリフはなかなかに秀逸だ。そんなパンチラインを得意げな表情で言っていたのだから、余計に脳内にこびりつく。ただ、より深く記憶に残った要因として、香奈という人間の“惨(みじ)めさ”を象徴しているように感じたことが大きい。
このセリフから察するに、香奈は結局のところ“弱ってるオジ”からしか好かれてこなかったように思う。弱っている人は、ちょっと優しくするだけでもコロッと落ちやすい。加えて、オジは恋愛市場においてはあまり好かれる属性ではなく、弱っているオジから好かれることは決してハードルが高いことではない。
そんな弱っているオジの“保護者”を自称する香奈は、「自分が好きな人」より「楽に自分のほうを向かせられる人」としか仲を深められず、“手ごろな関係性”しか築けてこなかったのではないか。
◆弱く、惨めで、人間らしい不倫相手の演技が見事
また、不倫相手は言ってしまえば“パートナーの代替え”だ。恋人やパートナーほど真剣に向き合う必要がなく、不倫する側からすれば気兼ねなく接することができる。
香奈がオジとどれだけ深い不倫関係になっていたのかは不明だ。しかし、仮に弱っているオジ“たち”と不倫関係になっていたのであれば、「香奈はこれまで簡単に手に入る愛情しか得てこなかったのでは?」と考えて切なくなる。
香奈自身も誰かの代わりとしてしか愛されていないことに惨めさを覚えており、麻矢という光博から真っすぐ愛されていた対象を前にしたために、その負の感情が抑えきれずに強気な態度を見せたのかもしれない。
本作一番の黒幕である香奈は、誰かを不幸にすることに快感を覚えるようなサイコパス的なキャラではなく、弱く、惨めで、人間らしいキャラだった。なにより、そんな香奈の輪郭を想像したくなる演技を披露した松浦の表現力は見事だ。
<文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。社会問題やエンタメ、グルメなど幅広い記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X(旧Twitter):@mochizukiyuuki