
『【11の成功例でわかる】自分で自分の介護をする本』(小山朝子/河出書房新社)では、介護福祉士資格を持つ介護ジャーナリスト小山朝子さんが、介助が必要になっても一人暮らしを実現している人や、それを支える人の事例を、当事者へのインタビューをもとに再構成し紹介しています。
今回は本書から一部抜粋し、訪問診療、近隣住民による見守りなどにより一人暮らしを継続している城田敏郎さん(81歳)の例をお伝えします。
妻の死後、閉じこもりがちになった「街の電気屋さん」
民生委員の足立冬美さんが今気にかけているのは、近所に住む城田敏郎さんのことです。敏郎さんはこれまで「街の電気工事屋さん」として、長年、地域の住民に頼りにされてきました。ところが73歳のときにHOT(在宅酸素療法)が必要となり、その後は廃業。妻の薫さんが5年前に亡くなってから、ひとり暮らしになりました。
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懸念される火災の危険
民生委員の足立さんは、敏郎さんについて気になっていることがいくつかありました。まずひとつが、敏郎さんの認知機能についてでした。会話をしていると、少し前に話したことを何度も話したり、前回訪問したときのことをまったく覚えていないことがありました。
さらに、敏郎さんが住んでいる部屋には足の踏み場もないくらい物が散乱しており、キッチンにはカップ麺の容器や菓子パンの袋が山積みになっていました。
そして最も気になっているのは、たばこを吸っている気配がすることでした。灰皿には吸い殻がたまっており、ダイニングテーブルにはたばこの空き箱が置いてありました。
酸素吸入中に喫煙した場合、酸素には炎を大きくする働きがあるため、万が一たばこの先が鼻のチューブに触れると一気に炎が拡大します。近年、とくに喫煙に関連した火災が多く発生しているようです。
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地域包括支援センターへ情報共有
足立さんは日頃から地域包括支援センターの職員とやりとりをしており、なかでもフットワークが軽い河西さんに敏郎さんの情報を伝えました。地域包括支援センターは高齢者の生活全般に関して困りごとに対応する総合相談窓口になっており、介護保険の申請の手続きなどもおこなうことができます。
担当になったケアマネジャーの松尾さんが敏郎さんに「今、困っていることはないですか」とたずねたところ、「月に1回タクシーで総合病院の呼吸器内科になんとか通院しているが、交通費もかかるし、帰ってくるとへとへとに疲れてしまう」とのこと。
松尾さんは「通院せず家で治療を受ける訪問診療に移行してはどうか」と敏郎さんに提案したところ、「病院に通わなくていいなら楽になる」と賛成してくれました。
訪問診療・訪問介護により生活が改善
訪問診療がはじまり、たばこについては医師が毎回強い口調で注意をしているため、禁煙に向かいつつあるようです。
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また、松尾さんの提案で敏郎さんの毎日の食事が栄養バランスのとれたものになるよう宅配弁当を届けてもらうことになりました。お弁当を直接届けてもらうことで1日のうちにまた1回、敏郎さんを見守る機会が増えることにもなりました。
近所の人たちによる見守りも
足立さんは民生委員をしている仲間数名と敏郎さんに工事をお願いしていた近所の人たちなどにも声をかけたところ、「敏郎さんと薫さんにはこれまでお世話になったから恩返しができれば」と協力してもらえることになりました。こうして、「敏郎さん宅火災予防チーム」が結成されたのです。チームのメンバーは交代で敏郎さんを訪れて様子を見守ることにしました。敏郎さんは入れかわり立ちかわりいろいろな人が訪問するようになったことを喜んでいるようで、以前は見られなかった笑顔が見られるようになり「にぎやかでいいね」と口にするようになりました。
訪問診療、介護サービスの事業者、「火災予防チーム」のメンバーのサポートによって、敏郎さんは、もうしばらくひとり暮らしが続けられそうです。
小山朝子 プロフィール
東京都生まれ。小学生時代はヤングケアラーで、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。介護福祉士の資格も有し、ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点からテレビなどの各種メディアでコメントするほか、ラジオのパーソナリティーをつとめるなど多方面で活躍。前著『ひとり暮らしでも大丈夫!自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)も好評。日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、All About 介護福祉士ガイド。(文:小山 朝子)