
一人っ子、実家暮らし。両親の介護は自分がやるしかない?
「一人っ子で実家暮らしの私。弱ってきた両親の介護は自分がするしかないのでしょうか」今回、介護の悩みを打ち明けてくれたのはマミコさん(仮名/40代女性)。同居する両親の介護についてもやもやを抱えていると言います。
「私は子どもの頃から両親と仲が良く、就職後も実家暮らし。好きな仕事に全力投球できているのも、家のことをしてくれる母のおかげ。感謝してもしきれません」
休日には3人で外食することも多いそうで、親子仲の良さがうかがえます。
「でも、そんな私も40代後半、結婚する予定もありません。両親も少しずつ老いてきたのか、体力も食欲も以前より落ちてきたように感じます」
将来に不安を抱いたマミコさんは「健康診断受けようよ」「かかりつけ医を作ろうよ」と勧めてみました。ただ両親は「まだ早い」と言うばかりで、取り合ってくれません。
「早めに介護に備えておこう」「お金のこととか教えてよ」と聞いても、「お前には迷惑をかけない」と一蹴されてしまうそう。しつこく聞いたためか、最近は親子仲も険悪な感じになりつつあるとか。
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両親から大事な話を聞き出そう
悩ましい内容ではありますが、まずマミコさんには2つお伝えしたいことがあります。「両親から大事な話を聞き出す」ことと、「介護が始まったら頼れるものはすべて頼る」ことです。ただ、大事な話を聞き出すと一口に言っても、これが難しいのです。介護についての本やサイトなどでは、よく「介護についてどう備えるか親と話をしておきましょう」「お金のことを聞いておきましょう」と書かれています。間違いではないのですが、いきなりそう聞いて素直に教えてくれる親はまずいません。
自分はいつまでも若くありたい、子どもに迷惑をかけたくない、そんな思いからつい「元気だよ」と言ってしまう親が、本当に多いんです。
そこで、まずは親が間違いなく関心を持っているだろう「介護予防」の話、特に「認知症予防」の話から始めるのがおすすめです。
「要介護にならないためにこういうことに気を付けようね」といった話や、「こうやると認知症を防ぐことができるらしいよ」といった話をされて嫌がる親はいないはず。親は認知症になりたくない、そして子どもも親に認知症になってほしくない。お互いの利害ががっちりと一致するのです。
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また、テレビや新聞などで介護や高齢者に関する話題を見かけたら、それをきっかけにコミュニケーションを取ってみてください。
「知り合いのお父さんがこの間急に倒れたらしいんだよね。事前に親子で話をしていなかったから、何から手をつけていいか分からずにとても大変だったみたい」など、多少のウソを織り交ぜながらでも、話し合うための下地を作っていきたいのです。
そしてこれを何回も繰り返し行っていきましょう。テレビや新聞、雑誌で介護問題、あるいは認知症問題といったものが全く載っていないことはないはず。まずはそこをきっかけに、少しずつジャブを打っていくのが重要ではないかと思います。
今しっかり伝えるべきことを伝えておきたい
マミコさんの場合、まだ親自身にある程度の理解力がある状態だと思われます。そうした状況の中で、今しっかり伝えるべきことを伝えておきたいのです。
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だからこそ、少しでも調子の悪いところがあったら治してほしい。そして私も一緒に支えたいから、どんな問題があるのか、今不安なことも含めて正直に教えてほしい」。こういった真っすぐな気持ちを伝えてほしいのです。
それをした上で、厚生労働省が作った「親が元気なうちに把握しておくべきこと」のようなチェックリストを参考に、少しずつ大事なことを聞き出しておくのもやっておきたいところ。
いきなりすべて根掘り葉掘り聞こうとしたら、ほとんどの親は怒ってしまうでしょうから、やはりある程度土台を固めた上で、少しずついろんなことを聞いていくことが重要だと思います。
家事や炊事を母と一緒に
親とのコミュニケーションが取れてきたら、あとは家事や炊事についても考えてみてほしいです。現状、家事も炊事も母に任せきりとのことですが、ぜひお母さんと一緒に家事や炊事をする時間を増やしてみてください。そしてその間に、最近の体調を聞いてみるとか、お父さんについて心配なことを相談してみるなどして、お互いの“仲間意識”を深めていきたい。こうした女性同士の会話を重ねて関係性を深めておくと、後でお父さんに問題が発生したときに、一緒に対処していこうと連携しやすくなります。
しかも、家事や炊事のことを自分自身がもう一度学び直すことができます。もし、お母さんが家事や炊事ができなくなったとしても、マミコさんだけで家の中のことを回せるようになるのです。これまたとても重要なことだと思います。
1人で背負いすぎないで
長期化しやすい介護。今どき、介護期間が10年を超えるなんて、珍しくもなんともありません。一人っ子だからといってすべて自分だけで支えよう、抱え込もうというのは到底無理だと思います。ぜひさまざまな相談先やサービスを活用してみてください。仕事と両立できる範囲でのみ介護をする。任せるものは人に任せて、できないことはできないと割り切ることがすごく重要です。
主な相談先としては、地域包括支援センター、職場の人事部門や上司、そして病院にいる医療ソーシャルワーカーが挙げられます。
医療ソーシャルワーカーは、医療機関で患者やその家族が抱えるさまざまな課題について相談に乗ってくれたり、援助してくれたりする人たちですが、自宅で介護をするときに必要なものを教えてくれるなど、きっと力になってくれるはず。
また地域にある介護家族の会などの場で、先輩たちからアドバイスをもらって、「自分だけが不幸ではないんだ」「介護に直面して困っているのは自分だけじゃないんだ」など、孤独でないと分かるだけでも、だいぶ救われるでしょう。こうしたさまざまな相談先をぜひ積極的に使ってほしいと思います。
両親は、大切な一人娘が介護のせいで不幸になることを望んでいないはずです。マミコさん家族は何十年もの間、仲良く暮らしてきました。信頼関係もそれなりにあるでしょう。きっと親は娘に対して、これまで長い時間をかけて一緒に過ごしてきた大切な日々を、決して無駄にしてほしくないと思っているはずです。
一方、マミコさんにも父や母のことが大事だという気持ちは間違いなくあって、その気持ち自体は尊いものです。
そうだとしたら、お父さんやお母さんが何十年もかけて娘を大事に思ってきた気持ちも大事にしていただきたい。それを守ってあげることが何よりの親孝行でしょうし、介護を抱えて子どもが不幸になってしまうのは親不孝に他ならないと筆者は思います。
横井 孝治プロフィール
両親の介護をする中で得た有益な介護情報を自ら発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。翌年には介護情報サイト「親ケア.com」をオープン。介護のスペシャリストとして執筆、講演活動多数。また、広告代理店や大手家電メーカーなどでの経験を生かし、販促プロデュース事業も行う。All About 介護・販促プロモーションガイド。(文:横井 孝治(介護アドバイザー))