
20年前の2005年、同社株を大量保有するニッポン放送を買収しようとし注目を集めた彼が、今後の同社の再建への道、また放送とメディアの未来について語った。
本書から一部抜粋し、フジの女子アナの「キャバ嬢化」についての堀江氏の自論を、元フジテレビアナウンサー・長谷川豊氏との対談エピソードを交えて紹介する。
女子アナは「キャバ嬢」である、という証言
僕はこの問題(元SMAP・中居氏のスキャンダル)が大きな注目を集めていた時期、元フジテレビアナウンサーの長谷川豊氏と対談する機会があった。動画は自身のチャンネルで公開したが、再生数は800万回近くに達し、フジテレビの「内情」に世間の関心がいかに高まっていたかを実感させられた。長谷川氏は断言した。
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僕はテレビ局の内側にいた人間ではないから実態を知る立場にないし、長谷川氏の証言が全てだとも思わないフラットな立場ではあるが、視聴者として受けていた印象からして、長谷川氏の語った内容に違和感を覚えることはなく、おおむね「そうだろうな」という感想を抱いた。
長谷川氏は「上納」という言葉について、女性だけではなく男性アナウンサーもその対象に含まれると証言した。長谷川氏自身、フジのアナウンサーだった時代にある会合で意図的に置き去りにされ、ファッション・映画評論家のおすぎさんにエレベーターの中で2人きりにさせられ、熱烈キスをお見舞いされた「上納体験」があるという。
曰く、そのとき現場にいた先輩アナウンサーの笠井信輔氏は「ハセ、そういうもんだから」と。佐々木恭子アナは「お夕食代だね」と声をかけ、去っていったという。
「他局と違って女性アナウンサーとは呼ばないんです。フジの女子アナはキャバ嬢だから。アナウンサーじゃなくてアナでいい。女性じゃなくて女子でいい。接待要員として囲っているという、脈々とした文化がある。OB訪問に来る(女子)学生たちにも、局員が言っている。『銀座ナンバー1キャバ嬢でないと、フジの女子アナはなれないよ』と」
フジテレビの女性アナウンサーがこの言葉を聞いたら、ほとんどが「私はキャバ嬢じゃない!」と怒ると思う。ただ今回のような事例を聞いてしまうと、アナウンサーとしての業務とは別のところで「キャバ嬢」的な扱い、つまり会社専属のアイドルとして、本来の業務以外の目的で動員されていたこともあったのではないかと思わざるを得ない。
長谷川氏の証言には大きな反響があり、実名の出た笠井信輔氏は長谷川氏の証言を否定している。どちらの言い分が正しいのか僕には分からないが、長谷川氏の語った内容にリアリティを感じたのも事実だ。
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「フジテレビは買収されませんでしたが、佐々木恭子は買収されました」
冗談のつもりなのだろうが、新郎の関係者は笑えなかったのではないだろうか。僕は長谷川氏の話を聞いたとき、そんな昔のエピソードを思い出した。
テレビ業界全体の希薄な人権意識
ある時代までのフジテレビは、民放キー局のなかでも、とりわけアナウンサーを目指す女性にとって「頂点」に君臨する放送局だった。1981年、フジはNHKの看板アナウンサーだった頼近美津子氏(その後フジテレビの代表取締役社長をつとめた鹿内春雄氏と結婚)を引き抜き、ここから女子アナの「タレント化・アイドル化」が始まったとされる。
女子アナが一般社員のように定年まで仕事を続けるというケースはまれで、スポーツ選手や著名人と結婚したり、独立して芸能活動をするなど「フジアナ」のブランドを最大活用してステップアップする、野心的な女性が多かったのは客観的な事実だ。
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誤解しないでいただきたいのだが、問題となった中居氏の行為は、接待うんぬんとは次元の違うレベルであって、「フジには上納文化があったのだから、今回のことも仕方がない」などと言うつもりは毛頭ない。
僕が言いたいのは、今回のトラブルを「回避できなかった不測の事故」のように解釈してはいけないということだ。報告書にもある通り、フジに根ざした希薄な人権意識、時代錯誤の延長上で起きた事案であって、経営陣の事後対応も含め、根本改革が必要であることは間違いないことである。
長谷川氏は「今回の上納問題はフジテレビ固有の問題であって、放送業界全体の問題ではない」という。確かに、日枝久氏(元フジ・メディア・ホールディングス取締役相談役)のワンマン体制にあったフジは、他局に見られない特殊な風土があったとは思うが、その一方で旧世代のテレビマンの希薄な人権意識、モラルハザードは「フジだけの問題」ではなかったと自信を持って言える。
堀江貴文(ほりえ たかふみ)プロフィール
1972年福岡県生まれ。91年東京大学入学、のち中退。96年、有限会社オン・ザ・エッヂ設立。02年、旧ライブドアから営業権を取得。04年、社名を株式会社ライブドアに変更し、代表取締役CEOとなる。06年1月、証券取引法違反で逮捕。11年4月懲役2年6ヶ月の実刑判決が確定。13年3月に仮出所。著書に『拝金』ほか多数。
(文:堀江 貴文)