「うまトマ」大ヒットも…“高級化”路線で「牛丼メインじゃなくなった」松屋が“増収減益”に苦しむワケ

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2025年07月05日 09:10  日刊SPA!

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Tipstour - stock.adobe.com
牛丼御三家の一角を占める松屋。
吉野家とすき家とは一線を画す商品戦略で、卓越した商品開発力を武器に、あらゆる供給で需要を喚起している。

松屋は牛丼よりも、豊富な定食やカレーを売りに差別化を図っており、新メニューも頻繁に販売し飽きのこない店づくりには定評がある。

以前は価格でもお値打ち感があったが、今は物価高騰や人件費上昇で低価格を維持できなくなっている。定食メニューも800円〜1000円が中心価格帯だ。

もちろん、これらは松屋に限ったことではないが、「高くなった」と感じられるのは仕方ない。「値上げして店側が儲けているのでは?」と言う人もいるが、実際はそうではない。

◆松屋フーズの現況は

外食店を取り巻く環境は、雇用や所得環境の改善を背景とした個人消費の改善やインバウンド需要が拡大しつつある一方で、原材料、人件費、エネルギー単価の高騰が足枷となり、依然厳しい状況が続いている。

そういった中、松屋は守りに入れば成長なしとの考えから業容の拡大に取り組んでいる。

牛めし業態80店舗、とんかつ業態11店舗、鮨業態6店舗、海外・その他の業態13店舗の合計110店舗を出店。その一方で、不採算店舗であった牛めし業態9店舗と海外1店舗の合計10店舗は撤退。

今年度末の店舗数はFC店を含め、1,365店舗(うち国内FC5店舗、 海外23店舗)となった。

業態別内訳は牛めし業態1,106店舗、とんかつ業態195店舗、鮨業態17店舗、海外・その他の業態47店舗となっている。

◆新商品の活発な提案で来店動機を高め売上は増大

新たな発想による新商品の提案はSNSを通じて話題性を発信し、既存店ベースで客数(前年比+6.6%)、客単価(同+8.2%)と伸ばしている。

主な実施メニューは「いくら丼」「3種ソースのグラタンハンバーグ」「水煮牛肉〜四川風牛肉唐辛子煮込み〜」「ポーランド風ミエロニィハンバーグ」、「リトアニア風ホワイトソースハンバーグ」「サムギョプサル風 極厚豚バラ焼肉定食」など、異国の本場料理を含めた多種多様な新メニューでお客さんに関心や刺激を与え来店動機を高めている。

その結果、売上は前期比20.9%増の1,542億2,300万円と著しい伸長度を見せている。

◆課題は「収益構造の見直し」

しかし、食材費の高騰などにより、原価率は36.1%(前期34.2%→+1.9%)と前年より上昇。

その結果、営業利益は前期比−17.2%の44億600万円となり、営業利益率は2.9%(前期4.2%、−1.3%)と増収減益となった。営業利益率の理想値は10%だから、相当な差がある。

外食店のKPI(業績重要指標)であるFLコスト(売上原価と人件費の合計)は前期の65.8%から66.9%と上昇。標準値である60%以下を大きく上回っており、この点も課題だ。

牛丼一本勝負なら調理作業も楽だが、定食メニューがよく出る松屋は作業が煩雑化し、食材費も労務費の負担も大きくなる費用構造だ。

加えて、メニューの入れ替えが活発な松屋の商品政策は、顧客は満足しても店の利益は少なそうだ。

単純計算だが、今の松屋の利益率では1000円の定食から店が得られる利益は30円程度しかないことになり、薄利多売の収益構造になっているようである。

商品が多品種化している中で効果と効率の観点から、原価率の適度な抑制と作業の効率化による人件費の削減を念頭に、全体最適化を追求することが必要ではなかろうか。

◆今期の売上は好調だが…

今期(26年3月期)に入っても4月・5月累計で売上は好調だ。前年比で全店ベース+26.6%、既存店ベースで売上+15.5%、客数+5.7%、客単価+9.3%と伸ばしている。

売上が伸びているから費用構造を見直し利益率を上げるのは簡単ではと考えがちだが、理屈通りにいかないのが外食店の奥深さだ。

財務状態は新規出店や店舗改装、工場生産設備などへの攻めの投資で、固定資産が約701億8600万円に増加した。

これらにより、総資産が1,041億5500万円と130億3400万円増加。その為に自己資本比率は前期の48.1%から−4.3%低下し43.8%となった。

ROE(自己資本当期利益率)は4.9%で理想値である8%〜10%には程遠く投資効率は低い状態である。

◆朝食メニューのお得感は変わらず

定食メニューの価格は高止まりしているが、朝食メニューは現在も290円から販売されており、種類も豊富でお得感もある。

リクルートの調査によると、働く人の昼食平均額は485円で、自炊・手作り弁当が圧倒的に多い。また、減少傾向にある外食店でのランチは1,250円となっている。毎日必要なランチを少しでも節約するため、11時まで販売している松屋の朝食を、早めのランチとして行く人も増えているようだ。

朝の牛皿定食も400円とコスパが高い。ランチや定食との価格差が大きく、より割安感を感じるのではなかろうか。

朝食マーケットが拡大傾向にあり、この時間帯の売上構成比も高くなっており経営的には重要となりつつあるようだ。

◆商品力と提供力は車の両輪関係

外食店の経営環境は相変わらず厳しい状況である。そういった中で松屋は新商品の導入が活発だ。

矢継ぎ早に新商品を販売して品揃えを広げるということは、お客さんの様々なニーズに対応しながら、お客さんに選ぶ楽しさを提供しているということ。

しかし、それはお客さんにとってはうれしいことだが、店にとっては負担が大きくなりコスト高になるなど、トレードオフの関係にある。その点を踏まえて、いかに食材を共通化し在庫を減らしたり、調理手順も共通化するなどして提供の効率化をしなければならない。

そうしないと、店にとってもお客さんにとってもメリットにならない。商品力と提供力は車の両輪関係である。

また、オペレーション能力の向上など人材に対する教育投資も重要だ。現在、人材投資についてはオンライン研修サービスを導入しているようだが、より一層の教育と訓練が必要だろう。

最近は松屋の定食も高くなっており、1000円程度の定食が主流になっている。そこそこのお金を頂いている以上、商品価値を高めながら、快適な雰囲気と共に提供するのは必須だ。

そして、定着している松屋ファンのためにもさらなる進化を期待したい。

<文/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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