「なぜこんなに努力しているのに、売れないんだ」
【画像】その会議、知らない間に生産性が下がっているかもしれない
「どうして若手が期待通りに育たないんだ。しっかり教育しているつもりなのに」
80年以上の歴史を持つ製造業の会社。社員800人、継続的な引き合いがある優良企業である。しかし外部環境の変化により、これまでの受け身営業では限界が見えてきた。
営業部長が奮起し、組織改革に乗り出したものの、なかなか成果が出ない。そんな状況で私が営業会議に参加したとき、すぐに気づいたのは言葉の使い方だった。言葉は人の思考プログラムを作る。食事が体を作るように、言葉が考え方や価値観を作るのだ。
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そこで今回は、言葉づかいを変えるだけで組織を変革する方法について解説する。部下がなかなか成長しないと感じているマネジャーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
●「受け身営業」のワナ
この会社の営業会議では、ある言葉が連発されていた。それが「売れる」という表現である。
「どのようにしたら売れるのか」
「この商品が売れるためにはどうすればいいのか」
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「どういうプロモーション活動をすれば売れるのか」
「どんな価格帯だと売れるのか」
一見、何の問題もないように思える。むしろ真剣に売り上げアップを考えている証拠だろう。しかし、この言葉づかいこそが組織を受け身にしている根本原因だった。
長年、引き合い対応に終始してきたことで、営業部門全体がこのような思考パターンに陥っていた。顧客から問い合わせがあり、それに応える。展示会に出展すれば引き合いが来る。季節要因で需要が高まる。
確かに安定した事業基盤があったからこそ成り立つビジネスモデルだ。しかし、それが組織の主体性を奪っていたのである。
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●「売れる」と「売る」の決定的な違い
問題は「売れる」が自動詞だということ。自動詞には目的語がなく、主語も曖昧になりがちだ。
「この商品が売れるにはどうすればいいか」
この場合の主語は、商品である。一方「売る」は他動詞だ。必ず主語が必要であり、その主語は人でなければならない。
「私がこの商品を売るには」
「田中さんがこのエリアで商品を売るには」
このように表現すると、責任の所在が明確になる。誰が行動するのか、誰が結果に責任を持つのかがはっきりするのだ。
言葉の違いは思考の違いを生む。「売れる」という表現を使い続けている限り、無意識のうちに他責思考が染み付いてしまう。商品が悪い、タイミングが悪い、市場が悪い。そのような発想から抜け出しにくくなる。
自動詞と他動詞の使い分けを意識するためにも、主語をきちんと使うべきだ。特に個人名を主語にする。そうすることで、具体的で責任感のある表現になる。
●主語を変えるだけで組織が変わる理由
言葉が思考を作り、思考が行動を作る。この原理を理解すれば、なぜ言葉づかいの変更が組織変革につながるのかが見えてくる。
営業会議で使う言葉を変えた結果、以下のような変化が起きた。
責任感がアップした
「私が売る」という表現により、個人の責任意識が格段に高まった。誰かが買ってくれるのを待つのではなく、自分が売りに行く姿勢に変わったのだ。
具体的なアクションをするようになった
主語が明確になることで、誰が何をするのかがはっきりした。曖昧な戦略論ではなく、具体的なアクションプランが生まれるようになった。
成果に対する当事者意識が芽生えた
「売れない」理由を外部要因に求めるのではなく、「売る」ために自分たちに何ができるかを考えるようになった。
このように、たった一つの動詞を変えただけで、組織全体の思考パターンが劇的に変化した。言葉の持つ力は想像以上に大きい。日常的に使っている表現が、知らず知らずのうちに組織文化を作り上げているのだ。
●部下育成でも同じ原理が働く
この原理は部下育成にも当てはまる。多くの上司が犯している間違いがある。それは「育つ」という自動詞を使うことだ。
「なかなか育たない」
「成長してくれない」
このような愚痴をこぼす上司は多い。しかし問題は部下にあるのではなく、上司の言葉づかいにある。
正しくは「育てる」「成長させる」という他動詞を使うべきだ。
「私が育てる」
「あの課長が育てるべきだ」
「私たちが成長させる」
主語を明確にすることで、育成責任がはっきりする。部下が成長しないのは、部下の問題ではなく、育てる側の問題だということが見えてくるのだ。
優秀なマネジャーほど、このような言葉づかいを自然に身に付けている。部下の成長を他人事として捉えるのではなく、自分の責任として受け止めているからだ。
主語を変えることによって見えてくる世界、そして自分の覚悟。それが組織の力を大きく左右する。言葉づかいひとつで、組織の運命は大きく変わるのである。
●実践的な言葉の変換表と組織への導入方法
では、具体的にどのような言葉を変えればいいのか。実践的な変換表を示そう。
●営業・売り上げ関連
・売れる→売る
・決まる→決める
・伸びる→伸ばす
・成果が出る→成果を出す
●人材育成関連
・育つ→育てる
・成長する→成長させる
・覚える→覚えさせる
・スキルが身に付く→スキルを身に付けさせる
●組織運営関連
・改善される→改善する
・問題が解決する→問題を解決する
・チームワークが良くなる→チームワークを良くする
組織全体で導入するには、以下の段階的なアプローチが重要だ。
リーダー自身が実践する
まずは管理職が率先して言葉づかいを変えよう。会議での発言、部下との面談、全ての場面で意識的に他動詞を使う。
会議で徹底する
営業会議や部門会議で、自動詞が出たらその場で他動詞に言い直そう。最初は違和感があるが、継続することで習慣化される。
日常会話でも積極的に使う
朝礼、廊下での立ち話、メールでのやりとり。あらゆる場面で主語を明確にした表現を心掛けよう。
相互にフィードバックする
同僚同士で言葉づかいをチェックし合う習慣を身につけよう。月に一度、言葉づかいの振り返りを行い、改善点を共有するのもいい。
この製造業の会社も、3カ月かけて段階的に導入した。最初の1カ月は抵抗もあったが、2カ月目には自然に他動詞を使えるようになり、3カ月目には組織全体の雰囲気が劇的に変わったという。
●言葉を変えただけで起きた劇的な変化
この製造業の会社は、まさに言葉の使い方を全員が変えることで成功を収めた。営業会議での発言から日常の会話まで、「売れる」「育つ」といった自動詞を徹底的に排除したのだ。
上司たちは部下育成を自分の責任として捉えるようになった。「なかなか育ってくれない」という愚痴は消え、「私がどう育てるか」という建設的な議論に変わった。
具体的な育成計画を立て、一人一人の成長に真剣に向き合うようになったのである。
部下も劇的に変化した。当事者意識をしっかりと持ち、「何を活用して自分が売るのか」を真剣に考えるようになった。これまでのように引き合いを待つのではなく、自分で考え、積極的に行動する営業パーソンに変貌したのだ。
その結果、業績はV字回復を果たした。
単なる受け身の営業ではなく、積極的に顧客のことを知ろうとする姿勢が評価され、顧客からも大きな信頼を勝ち取ることができた。80年の歴史を持つ会社が、たった一つの言葉づかいの変更から組織全体を変革した。
言葉を変えれば、必ず組織が変わる。今日からでも実践できる組織変革の第一歩なのだ。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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