
【写真】今年デビュー40周年を迎えたいしのようこ 変わらぬ美しさのインタビュー撮りおろしショット
◆何も事件は起きないので、その分すごく台本の中に没入する作品
本作は、グアムを訪れた世代が違う男女3組のとある1週間を描いた物語。3世代の男女が考える「二人でいることの意味」「誰かと一緒に生きる」といった、日常から離れた環境で改めて見つめ直す自分の「人生」をテーマに、グアムのさまざまな舞台や景観の中でヒューマンドラマを描いていく。最後に1組の男女が別れを決断することが明かされており、それぞれのカップルがどのような心情の揺れを経て、どんな決断を下すのか注目を集めている。
いしのが演じる寛子は、就職に伴い独立した一人娘から海外旅行をプレゼントされ、夫・健次郎と共にグアムを訪れる。これまで家庭や子育てに全力で向き合ってきたが、子育てから解放され、夫と2人の生活やこれからの自身の生き方について戸惑いを隠せない女性だ。いしのは、世の中に同じような境遇の女性が多くいるであろう、等身大の50代女性を繊細な演技で体現している。
――オールグアムロケで撮影された本作。お話を聞かれた時のお気持ちはいかがでしたか?
いしの:贅沢なお話ですよね。グアムでの撮影は一部分なのかなと思っていたらオールグアムロケと聞いて、「本当に?」って(笑)。3週間くらい滞在しましたが、勝手が違う部分や慣れないこともありましたけど、スタッフさんもみんな日本から一緒だったので、お仕事の内容自体はそんなに変わらず進めることができました。グアム政府観光局の皆さんもすごくよくしてくださいましたし。
――3組の男女の1週間を描いた物語ですが、台本を読まれてどんな感想を持たれましたか?
いしの:何も事件は起きないので、その分すごく台本の中に没入する作品でした。あれこれ起きない分、掘り下げればどんどん掘り下げられちゃうので、どこまで掘り下げていいものなのか、どこらへんで留めておくのがいいのか、いろいろ悩むところではありました。どこに向かうかというのがすごく分かりやすくあるわけではなく、微妙な心情の変化を追いかけていくので、すごく台本と向き合いましたね。
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いしの:(笑)。男性だから女性だからということよりも、人と向き合うということの難しさがありますよね。誰かが教えてくれたわけではないし、どこで習うものでもないので手探っていくしかないですもんね。それは恋人であれお友達であれ、仕事関係の人であれ、人との向き合い方というのはとても微妙で難しくって。形がちゃんとないものだから、気を抜いているとふわーっと霧散していくような、そういうものなんだろうなと思って。
台本と向き合っているときにも難しいなって思ったのは、概念みたいなものや口で説明できないものを説明しようとしているということ。その難しさはすごくありましたね。
◆役を演じる時は「私ならこうはしないというところを探していく」
――演じられる寛子はどんな女性でしょうか?
いしの:意志がはっきりしているわけではなくて、割と人に譲ることで自分の人生が決まっていったような感がある女性ですね。結婚した、子どもが生まれたという大事なものをすごく大事に思ってきたんです。そんな大事なものに対して常に自分を譲ってきた感じがあって。娘が独り立ちしてふっと気が付いた時に、自分はどうしたいのか、これから先の人生をどう歩みたいのかを考え出したときに不安が生まれたんですよね。
仕事をしてきたわけでもない、趣味があるわけでもない。「私って…?」みたいな思いにぶち当たってしまった。割と世の中にもそういう女性は多いんじゃないかなとも思うんです。家庭のことに必死で目を向けている間はそっちに集中しているので考える暇もなかったわっていう人が、子どもが独り立ちして、それまで自分のために生きていないから、自分のために生きてくださいって言われた時にどう生きていいか分からない。そういう不安みたいなものを持ちながらもがいているのが寛子なのかなと感じました。
――いしのさんご自身と似ている部分はありますか?
いしの:え〜? いつも聞かれるんですけど、役を演じる時は、私ならこうはしないというところを探していくんですよね。役と自分を重ね過ぎないほうがいい気がして。人間だから「そうよね、わかるわかる!」っていうところは当然あるんですけど、共感できる部分をすくいあげていると同じになっちゃう気がするんですよね(笑)。
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いしの:大昔にご一緒して以来の共演だったのですが、勝村さんがお父さんでよかったって思いました。今回のドラマってちょっと変わってるんですけど、ほかの共演者とあまり絡みがないんですね。ほとんどずっと朝から晩までお父さんと一緒に過ごしていることが多かったので、お父さん頼りで。とても頼もしくて、「あ、よかった、お父さんで」って思いました。
――作品のタイトルが『私があなたといる理由』ですが、いしのさんが誰かといる理由として、一番大切だと思うことは何でしょうか。
いしの:そうですねぇ…。好きか嫌いかじゃないですか?
――なるほど…。好きな気持ちが減っていったり、薄まっていったりした時はどうされますか?
いしの:……そんな変わります? 相手を理解できなかったり、分かりあえないことの辛さが好きという気持ちよりも大きくなってしまうと、一緒にいることはしんどいだろうなと思います。でもそれで解消した関係性みたいなものがあったとしても、その人を好きって思う気持ちがなくなるわけじゃないです。さよならしても大好きな人であることには変わりないので。
好きっていう気持ちが減ったとか、薄まったっていうのは幻想だと思います(笑)。好きという気持ちにのしかかってくるものがあったとしても、それを大きく育てないようにすれば、きっとずっと好きでいられる気がします。
◆今年デビュー40周年 30代半ばでの気づきがターニングポイントに
――いしのさんは今年デビュー40周年を迎えられました。振り返ると、どんな40年でしたか?
いしの:振り返るとあっという間なんですよね。大変なことも楽しいこともたくさんあって…。でもすべてに感謝しています。嫌なことや辛いことも含めてすべてに感謝ですね。
――40年の中でターニングポイントを挙げるとすると?
いしの:30代半ばくらいですかね。なんだか知らないんですけど、なんの根拠もなく「あ、この先私はずっと幸せだ」って思ったことがあって(笑)。それから先、すごく楽です。
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いしの:下りてきたというか、いろんなことがちょっと分かりかけた気がしたんですよね。「これから先、私は誰とも出会わずに1人でいてもずっと幸せに生きていける」と思ったことがあって…。それから先すごく楽に生きています(笑)。
――羨ましいです!(笑)
いしの:いいですよ〜(笑)。いろんな背負うことはいっぱいありますけど、「それも含めて人生」みたいな感じのちょっと俯瞰な部分が出てきたのか。私にも詳しく理解できないんですけど、なんでこんなにハッピーなんだろう?というのは(笑)。
――(笑)。40周年を記念してライブを開催されたりはしないのですか?
いしの:しないです、しないです。同期のお友達がこないだやっていたので観に行ったのですが、ちょっと泣いちゃうくらい懐かしいデビュー曲を歌っていて「すごいね」って感動しました。「ようこもやればいいのに」と言われたんですけど、「いやいやいや。私はそういうのはいいわ」って言って(笑)。一観客として「すご〜い」って言って観ているほうがいいですね。
――待ち望まれているファンの皆さんも多いと思いますよ?
いしの:もともと歌を出すなんて知らなかったんです。聞いてなかったので、「え!」って社長室で泣いて嫌がった記憶があるので(笑)。人前で歌を歌うってこんな不安なこともないって思って、会社にも「もうそろそろいいんじゃないでしょうか…?」とずっと言っていました。
――デビュー当時から歌よりもお芝居のほうがお好きだったのですか?
いしの:歌は、誰に向けて、誰に渡していいのか分からなくなっちゃうんですよね。ドラマだと、この人に渡すというのがはっきりあったので、すごく安心感があったんです。歌の場合、まだライブとかだったらいいんですけど、スタジオとか収録とかになると「どこに?」っていうのがすごく不安で。不安と恥ずかしさと、自分で「一体これは何をやっているんだ?」という感覚が捨てきれなくて。なので、ずっとドラマのほうが安心感がありました。
――本作や『あきない世傳 金と銀』(NHK BS)などさまざまな作品で活躍されていますが、オフの時のいしのさんはどんな感じなのでしょうか?
いしの:コロナ禍以降、急に手芸を始めたんです。刺繍をしたり、編み物をしたり。もともと何かを作ることがすごく好きで、ちょっと前までは家具を作ったりと大工仕事をよくしていたんですね。そこからちょっと間が空いて、コロナ禍になって家の中でやれることをと、今まで目を向けていなかったんですけど急に始めて。
編み物や刺繍はほとんど瞑想だなって感じます。気持ちいいんです(笑)。グアムでも、ずっと麦わら帽子を編んでいました。「いしのさんだけ一人、自分だけの時間が流れている」なんて言われながら(笑)。楽しいんですよね。
(取材・文:佐藤鷹飛 写真:高野広美)
ドラマ『私があなたといる理由〜グアムを訪れた3組の男女の1週間』は、テレビ東京、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ 九州放送にて毎週火曜24時30分放送。テレビ大阪にて毎週金曜25時30分、BSテレ東にて毎週日曜24時放送。