『放送局占拠』(日本テレビ系)公式サイトより7月期ドラマも続々と開始。今期は比較的大きな話題作は少なく、櫻井翔主演の人気シリーズ『放送局占拠』(日本テレビ系)、阿部サダヲ×松たか子×脚本・大石静の『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)が注目されているくらいでしょうか。
ただ、事件もの、学園モノ、医療モノなど、おなじみのジャンルの作品が幅広く揃っており、どの作品も見逃せない3か月になりそうです。その中でも最近よく目につくのがいわゆる“業界もの”。昔から存在するジャンルではあるものの、やたら増えているような気がしませんか?
◆『エルピス』『不適切にもほどがある』業界モノは名作が多い
今期に限らず、昨今のドラマや映画などで目立つのが、“マスコミ・メディア業界を舞台にしたり、主人公が業界人”であるものです。
春クールでは、『ダメマネ!』(日本テレビ系)『キャスター』(TBS系)『続・続・最後から2番目の恋』(フジテレビ系)、今期は『放送局占拠』、『こんばんは、朝山家です。』(ABC・テレビ朝日系)、10月クールからは『25時、赤坂で Season2』(テレビ東京系)など、業界を描いたものが多く制作されています。
近年では、『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)、『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)、『不適切にもほどがある』(TBS系)などの話題作も業界が舞台になっていました。映画では福本莉子&八木勇征主演の『隣のステラ』や、畑芽育&大橋和也の主演映画『君がトクベツ』など、漫画原作ではあるものの芸能人と一般人の恋愛映画が相次いで公開されました。
配信や媒体が増えたことにより、映像作品自体の数が多くなったので単純な比較はできませんが、それでもテレビやマスメディア業界を舞台にしている作品が以前に比べ乱立しているように思えます。ドラマ制作にかかわる複数の関係者にその理由を聞いてみました。
◆今や“ギョーカイ”は雲の上の存在ではない
「メディアと視聴者の距離が近くなってきた、ということがひとつあげられますね」と話すのは、制作会社のディレクターを務めるWさん。
かつては、テレビやマスコミ業界とそれ以外の世界とはどこかきっちりと線引きがあり、いわゆる“ギョーカイ”は神聖で雲の上の存在でした。
◆業界人「SNSの普及で“業界”との距離が近くなった」
しかし、webメディアやSNSの普及などによって、誰でも発信できる時代になり、インフルエンサーやYouTuberなどという、大手芸能事務所や組織に所属しない、素人に近い存在でも世間に影響力を与える存在も現れています。また、SNSによって、タレントやそれに携わる人々がどこか身近に感じられる存在になってきました。
「メディアや業界人が感覚的に身近な存在になった結果、一般人も共感や没入がしやすくなったように思えます。かつては業界モノというと、お仕事モノだった。しかし、身近に思えるようになったことで、生活の範囲中に業界人がいる世界が描けるようになった、ということではないかと」
◆他業界人からは「制作費の問題も関係している」との声
また、他の業界人からはこんな事情も垣間見れるという声が。
「制作費の問題もあるでしょうね。業界が舞台であれば、ロケもセットも“ありもの”を使えるので、ハウススタジオを借りたり、セットの作り込みをしなくてもいいし、許可取りもスムーズです。土日は局内でドラマ撮影がされていることも多々あるんですよ。業界モノに限らず、私のデスクがドラマで使われることがよくあります」(テレビ局勤務・Oさん)
「メディアやマスコミが舞台だと、話題の人物やタレントを本人役で出すことができるので、話題性を提供できるんですよ。メタフィクション的な展開を作れてバズリを狙いやすい」(制作会社・AP)
「こっちにとって当たり前の事実を描くだけで、視聴者が喜んでくれる。ロケ弁の愚痴とか、バーターの裏側とか」(放送作家・Mさん)
芸能界やメディア業界が舞台になることに、いろいろなメリットがあるようです。
◆脚本家が等身大の世界で物事を描きやすい
また、「制作費の削減」という点において、別の理由もありました。
「脚本家や作家など、作る側が取材の手間なくイメージしやすいという点があるかもしれません。医療もの、刑事ものはもちろんのこと、ある特定の業種を深く描くためには取材や監修が不可欠です。しかし、業界モノであればその必要がありません。
作家が不精をしているわけではなく、メインがお仕事以外にあるのであれば、綿密な取材の手間なくストーリーや内面にフォーカスして深堀できるんです。
ブギウギの脚本を執筆し、『こんばんは、朝山家です。』でも演出・脚本を担当する足立伸先生の作品には、自身と同じ脚本家や、映像業界に携わる人がよく出てきています。それもあって、どの職業であっても共通する情けない人間の内面を深く描けるのだと思います」(脚本家・Aさん)
◆ストーリー上の“ウソ”も説得力を出せる
また、現実の業界ではありえなかったり多少無理がある設定でも、メディアの当事者が作っているということによって、説得力を出すことができると言います。
「例えば『キャスター』で、永野芽郁さんが演じていた総合演出というポストは、永野さんの年齢では、現実的にあり得ません。『続・続・最後から2番目の恋』の内田有紀さんのポジション(局内にデスクがあり、プロデューサー専属状態の脚本家)も現実では聞いたことがない。
他業界をそんなご都合な設定で描いたら、非難がきそうですが、“メディアの当事者がそう描いているんだから、そういうこともあるんだろう”と、視聴者が錯覚できるんです。同業者もフィクションであることを理解しているので、野暮なツッコミはほぼありません」(制作会社のディレクター・Wさん)
増えすぎるのも考えものですが、近年の業界モノは名作ぞろいが多いのも確か。今後、マスコミ業界モノが、医療ものや刑事ものに次ぐ欠かせないジャンルになる日も近いかもしれません。
<文/小政りょう>
【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦