スーパーGT第3戦マレーシア決勝で7位入賞したau TOM'S GR Supra(坪井翔/山下健太) 12年ぶりの開催となった2025スーパーGT第3戦セパン。戦前の予想ではレース中のオーバーテイクは比較的難しいと言われていたが、いざフタを開けると牧野任祐(STANLEY CIVIC TYPE R-GT)の5台抜きのオーバーテイクショーや、GT300クラスでも小暮卓史と奥本隼士のバトルが白熱するなど、見どころの多い展開となった。
そんななか、映像には映っていなかったが、実は当事者同士が「激アツだった!」と語るのが、GT500の山下健太(au TOM’S GR Supra)と大湯都史樹(KeePer CERUMO GR Supra)の同じスープラ勢による終盤の7番手争いだ。
⚫︎「とにかく追い上げるしかなかった」後半担当のau TOM'S GR Supra山下健太
開幕戦で優勝し、第2戦富士で2位に入る活躍を見せているau TOM’S GR Supra。今大会は燃料リストリクター制限が一気に2段階目に突入する70kgのサクセスウエイトを積んでの戦いとなった。
最大サクセスウエイトながら予選で8番手を獲得するも、決勝スタート直後の接触アクシデントでスピンを喫して最後尾まで後退。それでも高レベルのラップタイムを刻み、オーバーカットの作戦やチームの迅速なピットストップにより、坪井翔から山下健太に代わったタイミングで8番手に浮上した。
「ピットのタイミングを遅らせた分、後半スティントのタイヤの状態は周り良かったのでコーナーでは速さがありました。その(後半でチャンスを作る)ために坪井選手が前半スティントを引っ張ってくれたので、僕としてはとにかく追い上げるしかない状況でした」
そう語るのは1号車auで後半スティントを担当した山下健太。すぐに38号車KeePerに追いついてチャンスを探ったが、「燃リス2段階なので、加速と直線のスピードが厳しくて……」と、バトルに関してはは劣勢な状況だったようだ。
さらに“抜きにくいセパン”という特徴も、実際にバトルをしたことで気づいたという。
「実際にここでレースをしてみて分かったのですけど、全然抜けないレイアウトなんだなと。微妙にダウンフォースが効くようなコーナーの後にストレートがあるので、なかなか近づけないですね。チャンスがあるとバックストレートエンドなんですけど、そこに至る直線で(燃リスの影響で)離されてしまう……。同じトヨタ陣営の38号車とずっとやり合うことになりました」と振り返った。
⚫︎「なかなかペースを上げられなかった」KeePer CERUMO GR Supra大湯都史樹
一方の38号車KeePerは、ピットウインドウが開いた早めのタイミングでピットインし、石浦宏明に代わって後半担当の大湯都史樹がマシンに乗り込んだ。後半スティントが長くなったこともあり、特にレース終盤はペース的に厳しくなった様子。それでも大湯は山下だけでなく、100号車STANLEYの牧野に対しても必死に応戦した。
「ちょっと問題を抱えていてセカンドスティントはペースを上げることができませんでした。当初の考えでは100号車を抑えてゴールしたかったのですけど、その後ろに1号車も来ていたので『これはマズイ状況だな』となりました」と大湯
こちらも、苦しい状況でありながら、大湯はできる限りの走りとギリギリのバトルで魅せた。
後方から迫ってきた100号車、1号車の2台とのバトルを振り返ると「凄まじかったですね。1号車もですが、おそらく100号車にも『コイツ〜!』と思われそうくらい、必死に抑えていたと思います。なかでも1号車は最後まで守りきりかったんですけどね……」と、最終的に2台の先行を許す結果となり、肩を落としていた。
⚫︎山下vs大湯、ふたりの目線から振り返る51周目の攻防戦
そして2台の攻防戦が決着した瞬間について「あのオーバーテイクが中継映像に映っていなかったのが残念なのですけど……めちゃめちゃ激アツでしたよ! 最終コーナーの立ち上がりとか、ちょっと当たっていたかもしれません」と、山下は急にテンションを上げて話し始める。
大湯も「1号車は最後まで守りきりかったのですけど……」と悔しさを露わにしていた。
ふたりの話をもとに状況を振り返ると、バックストレートに入る右の14コーナーで山下が仕掛けてきたところからバトルがスタート。直後のバックストレートでは燃リスの関係で38号車の大湯が優勢だったが、続く最終コーナーで1号車の山下も負けじとインに飛び込んでいったという。
「(38号車とは)速度差がありましたけど、最終コーナーの入り口で飛び込んだんですよ。そこでクロスを取られたんですけど、僕も引くわけにはいかないので、2台でコツコツ当たりながら立ち上がりました」と山下。
そのまま2台が並走状態でメインストレートにやってくるが、山下によると「サイドスリップ(横並びで空力の影響で吸い寄せられる力)が効いていたのですけど、それでも向こうが前に行って……1コーナー手前の段階でピッタリ真後ろについていた」と振り返る。
1コーナーでは38号車が前にいる状態で、大湯は「(1コーナーに対して)僕が内側を閉めている状態でしたが、外から1号車が来て被せようとしてきたんです。そこに少し寄せていく感じで牽制しました」と振り返る。
この牽制を山下は「行き過ぎた」と捉えたようで、ラインを変えて2コーナーでの攻略を目指したが、そこも大湯が意地の対応で(2コーナーの)イン側から抑えにかかった。
「ターン2でも向こうがグイッと(インから)きた感じで、そこでクロスしてターン3のアウトから抜くことができました。正直、めちゃくちゃ面白いバトルでした」(山下)
「1コーナーではギリギリ止まってくれたのと、2コーナーまで距離が短いので、すぐ加速して抑えに行くことはできました。ただ、2コーナーで飛び込んだのは良いものの、曲がらないし止まらないし……加速もだいぶ鈍って1号車に行かれてしまいました」(大湯)
こうして大湯の加速が遅れた間に、3コーナーのアウトから山下がオーバーテイクし、7番手を手に入れた。
「無理矢理にでも行かないと抜けない状況でした。トヨタ陣営同士だし、当たってはいけない状況ではありました。『さすがに何とかしないと!』と思って行きました。あと1周早く抜けていたら、19号車(WedsSport ADVAN GR Supra)に追いつけたかもしれません」と山下。
あと少しで6番手に上がれそうな状況だっただけに、悔しさを見せる山下だったが、大湯とのバトルに関しては満足している様子。いずれにしても、70kgの燃リス2段階制限の中でのレースでの速さとバトルでの勝負強さは、さすがチャンピオンチームと言えるパフォーマンスだった。
[オートスポーツweb 2025年07月15日]