台湾有事勃発、中国が描く海上封鎖のシナリオ グレーゾーン戦術を積極活用か

0

2025年07月15日 19:40  まいどなニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

まいどなニュース

中国の習近平国家主席=(c)zixia/123RF.COM

台湾有事の際、中国が検討する「海上封鎖」は、武力衝突を抑えつつ台湾に圧力をかける戦略として注目されている。海上封鎖とは、台湾周辺の海域を支配し、船舶や航空機の出入りを制限することで、台湾を経済的・社会的に孤立させる作戦である。海に囲まれた台湾は食料、エネルギー、工業製品のほぼ全てを海上輸送に依存しているため、この戦略は大きな効果を持つ。

【写真】外国人観光客? 大阪城の石垣によじ登る姿に相次ぐ批判

 海上封鎖の具体的シナリオ

中国による海上封鎖は、複数の手段を組み合わせた複雑な作戦として展開される。まず、中国海軍や海警局の艦艇、潜水艦を台湾海峡や台湾東部海域に展開し、航行制限区域を設定する。これにより、商船や補給船の航行を事実上阻止する。2022年8月のペロシ米下院議長訪台後の軍事演習では、台湾を包囲する形で複数の海域に演習区域を設定し、封鎖の予行演習を行った。この演習では、監視衛星やドローンを駆使して台湾周辺の海空域を24時間監視し、許可なく航行する船舶を拿捕や検査の対象とする能力を示した。さらに、軍事演習を通じた威嚇も行われ、台湾や国際社会に圧力をかけた。

この封鎖戦略の核心は、台湾の重要インフラへの圧力である。台湾は液化天然ガス(LNG)や石油など、エネルギー供給の約90%を海上輸送に依存している。封鎖によりこれらの輸入が遮断されれば、電力供給や経済活動は数週間以内に危機に瀕する。中国は、台湾の主要港である高雄港や基隆港を封鎖し、補給路を断つことで、市民生活に直接的な影響を与えることを狙う。2023年の中国軍演習では、ミサイル発射や艦艇展開を通じて、こうした封鎖能力を誇示した。エネルギーや物資の遮断は、台湾の経済や社会の耐久力を急速に低下させる。

さらに、中国は全面戦争に至らない「グレーゾーン」戦術を積極的に活用する。民間漁船や海警船を動員し、軍艦を後方支援に配置することで、公式な戦争行為とみなされにくい形で圧力をかける。また、台湾のインターネットや通信を支える海底ケーブルの切断も、封鎖の効果を高める手段として想定される。これにより、台湾の情報通信網が麻痺し、国際社会との連携が困難になる。

日本や国際社会への影響 

海上封鎖は台湾だけでなく、日本を含む周辺国に深刻な影響を及ぼす。日本のシーレーンは台湾海峡や南シナ海を通過しており、封鎖によりエネルギーや物資の輸送が阻害される。2022年8月の演習では、日本向け船舶の航行が一時的に制限され、海上運賃や保険料の高騰が懸念された。日本経済への打撃は計り知れないものになるのは想像に難くない。また、沖縄県の先島諸島や尖閣諸島が中国の軍事作戦に巻き込まれるリスクもあり、日本は自衛隊や海上保安庁の対応強化を迫られる。国際社会全体にとっても、台湾海峡の安定は半導体などグローバルなサプライチェーンや経済に直結する課題である。

中国による海上封鎖は、軍事力と経済的圧力を組み合わせ、台湾を孤立化させる戦略である。艦艇やドローンによる監視、インフラへの圧力、グレーゾーン戦術を通じて、台湾の抵抗力を削ぐことが狙いだ。日本を含む国際社会は、抑止力の強化と外交的対話を通じて、このシナリオへの備えを急ぐ必要がある。台湾海峡の安定は、地域のみならず全球の安全保障に関わる課題であり、国際的な連携が求められる。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

動画・画像が表示されない場合はこちら

    前日のランキングへ

    ニュース設定