『テレ東音楽祭2025〜夏〜』(テレビ東京系)公式サイトより
7月9日(水)、4時間半の音楽特番『テレ東音楽祭2025〜夏〜』(テレビ東京系)が放送されました。『テレ東音楽祭』といえば、かつては広末涼子さんが、そして国分太一さんがメインMCを務めていたことでお馴染みのスペシャル音楽番組。
今回も国分太一さんがMCをつとめることが発表されていましたが、本人のコンプライアンスに係る問題で無期限謹慎となり、降板。MCは不在のまま、進行は田中瞳アナウンサーが務めることになりました。
◆三木道山の100曲チャレンジなどテレ東らしい企画
番組では、MC不在をサポートする役割として、ゲストにお笑い芸人のニューヨークを迎え、また応援団として当日歌唱も予定されている氷川きよしやなにわ男子、郷ひろみなどがひな壇に座り、番組はVTRと企画主体で進行していきました。
驚いたのは、全体テーマである「歌の伝説100」を新たに作るための企画として、2001年のヒット曲「Lifetime Respect」で一世を風靡した三木道山(DOZAN11 aka 三木道三)さんが“一生一緒にいたいもの”がある100人1人ひとりに気持ちを込めて同曲を100回連続で歌唱するというチャレンジです。
ときおり休憩のマッサージ時間なども含めその場面は番組内で紹介され、最後にはめでたく連続歌唱を達成。なぜか、「チャレンジ失敗」のテロップが出るミス(?)もありましたが感動のエンディングとなりました。
それ以外にも、往年の企画アイドル・チェキッ娘の再集結や、ASKAさんが20年ぶりの「YAH YAH YAH」歌唱、テレビCMで話題となった堀込泰行さんとのんさんの「エイリアンズ」など、他では見ることができないテレ東らしい音楽祭でした。
◆『地面師』俳優らがゲストのカオスな空間と謎情報
企画や歌唱以外にも、ひな壇にドラマ『地面師』(Netflix)の“ライフの方が安いので”おじいちゃんで知られる五頭岳夫さんや、2002年放映の人気ドラマ『ごくせん』(日本テレビ系)に出演した脇知弘さんが、伝説のドラマに出ていたという繋がりだけでしれっと座っているなど、ツッコミどころが多数。
まさにカオスな様相を呈していた4時間半。また、懐かしの音楽映像の中で、テレ東の選挙特番の画面に出てくる政治家のプチ情報のように「TEEはライブ前シャドーボクシングをしている」「大橋のぞみが就職した際みんなでお祝いをした」などアーティストのプチ伝説情報が出てくるのも見ものでした。
なかでも、『サイレント・イヴ』の辛島美登里さんのVTR時、「彼女は悲しい過去を持つ歌手」とテロップで煽り、その悲しい過去というのが「高校受験に失敗した悲しい過去があるという」というオチは、筆者もテレビの前でズッコケざるを得ませんでした。
◆ツッコミに奮闘するニューヨーク屋敷とガン無視の田中アナ
そんな中でも、“音楽好き”であるニューヨークの屋敷さんは、それについて時折ガヤをいれたり、「なんで? なんで?」などとツッコむなど、奮闘していました。それに対し、「屋敷がいてよかった」などと、役割を賞賛する声もありましたが、「ずっとうるさいし、黙ってて」「マイク切れ」などという声も。
ただ、進行に徹する田中アナは恐らくあえてのガン無視。また周囲は真面目なアーティストのため、屋敷さんのツッコミはほぼスルーで不発ぎみでした。
筆者としてはその様子がまるで『全力脱力タイムズ』(フジテレビ系)のようで面白かったと思います。
実は筆者、『テレ東音楽祭』という番組があることを、当日知った程度です。知ったきっかけは、SNSの投稿の誰かのつぶやき。三木道山企画をはじめとする番組に対するツッコミで興味を持ってチャンネルを合わせました。
◆ドラマ『VIVAN』と同様に「SNSで発信したくなる」心理
他、気になった投稿として、
「テレ東、インタビュー付きでASKA出しててすごい」「のんと堀込泰之を前になぜ『好きな食べ物は?』と小学生並みのインタビューをするのか」「hitomiがLOVE2000じゃなくてCANDY GIRLを歌ったというあたりテレ東らしい」「セレブタレントになった石田安奈がセンターのAKBって……」
など、思わず今からでもTVerなどで見てしまいたくなる気になるつぶやきが多数タイムラインに散見されていました。
これらはMC不在により、ツッコミどころの解説や説明、言及がほぼないことで、視聴者の誰かに話したい欲求や共有したい気持ちがネットにあふれた結果なのではないでしょうか。
昨今の大型音楽番組は長時間放映も多いため、タイムテーブルをチェックし、興味のあるアーティストだけ見てチャンネルを変える、あるいは配信で見たいところだけ見るという人が多いといいます。SNSも盛り上がれど、推しのアーティストを絶賛するだけの投稿ばかりで、興味のない人がわざわざテレビをつけて見たくなるほどではありませんでした。
しかし、今回のテレ東音楽祭は、MC不在のおかげで、SNSで思わず視聴者が発信したくなる余白が生まれました。ドラマで言う『VIVAN』(TBSテレビ系)や『占拠シリーズ』(日本テレビ系)のように、考察やツッコミどころを視聴者に委ね、作品とは別の部分で盛り上げる手法が、音楽番組でも取り入れられているように感じました。
◆興味ない視聴者も夢中にさせる構成に拍手
これはうまくやらないと大スベリして、批判だらけになってしまうやり方ではありますが……。
この『テレ東音楽祭』では、屋敷さんの存在やそのツッコミの空回り気味が、逆にこの番組に真面目に取り組む出演者に対してのほどよいスパイスになって、おふざけバラエティとしても、真面目な音楽番組としても成立しているものになっていたと思います。
MC不在という窮地を乗り切っただけでなく、興味ない視聴者も思わず見続けてしまい、そして誰かに思わず話したくなるようなカオスなこの『テレ東音楽祭』を作り上げたテレビ東京。さすが、テレ東と、その揺るぎない緩さに拍手を送りたいです。
この『テレ東音楽祭』の全体テーマは前述したとおり「歌の伝説100」。伝説は三木道山さんのみならず、この番組の存在そのものが成し遂げたと言ってもいいかもしれません。
<文/小政りょう>
【小政りょう】
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦