
高齢の飼い主1人とワンコ1匹といった環境で「飼い主が急死するなどし、ワンコがひとりぼっちで残されている」といった話は、多くの保護団体に寄せられるものです。
【写真】ワンコが過ごしていた場所。周辺には周辺にはイノシシのものとおぼしき骨が…
九州のとある地域で90歳の高齢者もまた、自分とワンコ1匹での生活をしていました。そんな中で高齢者の飼い主が急逝。飼われていたワンコはひとりぼっちで残される格好になり、そして、このワンコの存在は地元ではそう知られていませんでした。そんな中、幸いにも近所で暮らす中年男性がワンコの存在に気づき、しばらくの間はエサを与えに通い続けてくれていました。
残された小さな命に寄り添う心優しい人でしたが、現実的にはこの生活を長く続けられるわけではありませんでした。中年男性は「どうしたら良いか」と悩み、まずは役場に相談しました。しかし、そこで返ってきたのはあまりに事務的な言葉でした。
事務的にたらい回しにされやっと辿り着いた保護団体
それは「動物保護管理所に相談してください」というもの。中年男性はその通りに動物保護管理所に相談を持ちかけます。
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しかし、動物保護管理所の職員は次に「保健所に連絡してください」と言います。
さらに保健所の職員は「引き取ることはできません。動物保護団体を探してください」とも。
残された小さな命を思う中年男性の相談は、このように事務的にたらい回しにされました。しかも中年男性はインターネットなどを使うことができず、「動物保護団体」と言われても、そう容易く探し出すことができませんでした。
試行錯誤を繰り返しながらやっと見つけることができたのが、宮崎県の保護団体、咲桃虎(さくもんと)でした。
何故かワンコの居場所にはイノシシの骨らしきものが…
中年男性の切実な、そして心優しい想いを受けた団体では迷うことなくワンコを引き取ることにしました。
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さっそく団体メンバーはワンコがひとりぼっちで残されている民家へ。そこで目にしたのは、これもまた想像を絶するものでした。
民家の外部に繋がれていたワンコは錆びた鎖が首輪につなげられ、そして周辺にはイノシシのものとおぼしき骨が散乱しています。いったいどういうことなのでしょうか。
言葉を失う団体メンバーに、中年男性は状況を教えてくれました。
もともとこのワンコは、亡くなった飼い主に迎えられる以前は、ある猟師に飼われていたのだそうです。
しかし、猟師の家には他にもワンコを多く飼っていたらしく、「どうしても引き取って欲しい」と押し付ける格好で、そのまま飼い主の高齢男性にワンコを押し付けたのでした。
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結果的に、「犬を飼う」環境が整っていないにもかかわらず高齢男性がワンコを迎えることとなり、結果的にこのような状況になっていたのだそうです。おそらく、周辺に散らばっていたイノシシの骨は、元飼い主の猟師がワンコのおもちゃ代わりに置いていったものだと思われました。
それでもワンコは人間を信用しようとしていた
言い換えれば、心優しい男性よりも前に当のワンコもたらい回しにさせられたという経緯を持っていたようです。
なんとも後味の悪いような、悲しく残念な話ですが、しかし、そんな中で唯一の救いだったのは当のワンコが人間を信じることを諦めていなかったこと。
これだけの過酷な状況でもワンコは人間を前に笑顔を浮かべ、尻尾を振って団体メンバーに挨拶。その健気な姿を前に、団体メンバーも中年男性も胸が苦しくなりました。
しかし、団体メンバーはここで気持ちを引き締めます。「必ず安心して過ごせる幸せなお家を見つけてあげるからね」……ワンコにそう約束し、献身的なお世話と合わせて、ぴったりの里親さんを探すことにしました。
そして、その思いはのちに実現。「うちにおいで」と言ってくれた優しい家族との縁が実り、今では広々とした大草原を笑顔いっぱいで楽しくかけ回る日々を掴むことができました。
紆余曲折ありながらも、やっと掴んだ第三の犬生。それもこれもワンコが人間を信じ続け、自ら手繰り寄せた縁だと思いました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)