【先生のSOS】教員休職者7000人超! 感情労働と激務で疲弊する心を守る2つのヒント

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2025年07月18日 20:50  All About

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【公認心理師が解説】教員の休職者が増加しています。教育現場の状況は厳しく、教員のメンタル不調は深刻化しているようです。行政によるサポート体制が待たれる中、心を守るためのセルフケアとピアサポートのヒントをご紹介します。

教員の休職者が7000人超。年々深刻化する教員のメンタル不調

近年、心を病む教員の増加が問題となっています。公立小中学校および特別支援学校で精神疾患を理由に休職となった教員は、2023年度で7000人を突破し、3年連続で過去最多を更新しました。

教育委員会は、休職につながる主な要因として、指導に関する業務が26.5%、職場の対人関係が23.6%、事務的な業務が13.2%を占めると指摘しています。

私自身、15年ほど教育機関でのカウンセリングを続けている中で、教員である先生方が抱えるストレスは、年々深刻化の一途をたどっていると感じています。その原因の一つにあるのが、近年の教員には「授業の工夫と自己研鑽」を求められ過ぎている実態があると考えられます。

最近の生徒たちは、視覚的な情報や映像に慣れ過ぎていて、従来のような板書中心の「文字だけの授業」が、頭に入りにくいという現実があるようです。

そうした中、教員は、生徒が関心を持ちそうなアニメやゲームの話題を盛り込んだり、パワーポイントでアニメーションを駆使した教材を用意したりと、教材作りに多くの労力を注ぐ傾向が強まっています。

さらに、生徒たちは先生の話を聞くだけでは飽きてしまうため、理解を定着させられるよう、ディスカッションや補助教材を取り入れるなど、授業展開も工夫せざるを得なくなりました。確かに楽しい授業にはなりますが、「決められたカリキュラムの消化」と「活気のある授業」の両立は、実際には非常に大変です。

加えて、問題を抱えた生徒や保護者への対応、会議や事務作業、部活動の運営、翌日の授業準備などもあり、夜中まで業務に追われることもしばしばです。

研修会に行けば、自分以上に工夫を凝らしているスーパーティーチャーたちの“武勇伝”に圧倒され、さらなる自己研鑽へのプレッシャーに追い込まれることもあります。これらが教員のメンタルヘルスに大きく影響しているのではないでしょうか。

担任へのプレッシャーと感情労働がもたらす疲弊……気が休まらない教員の日常

さらに教員の日常は、「プレッシャー」の連続でもあります。多くの場合、1人の担任が1つのクラスを受け持っていますが、クラスがうまくまとまらないと、「担任の力量不足」と見られてしまうのではないか…と不安を抱く人は少なくありません。

年度によっては、1つのクラスに非常に個性の強い生徒や、複雑な事情を抱えた生徒が集中することもあります。担任が努力をしても、なかなかうまくまとまらず、生徒を望ましい方向性に導けないこともあるでしょう。

そうした悩みを上司や同僚に打ち明けると、自分の力量不足をさらけ出してしまうようで気が引けることもあります。また、受けた助言がさらに努力を求める内容だった場合、「自分はまだまだ努力が足りないのだろうか」と自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。こうした思いを抱える教員は決して少なくないはずです。

そもそも教員の仕事は「感情労働」と呼ばれています。日々の仕事の中で、やりきれない思いや怒りを感じる出来事があっても、ネガティブな感情は表情に出さず、常に冷静かつ思いやりに満ちた態度で、生徒や保護者に接することが求められます。

教員間であってもネガティブな感情は出さず、ネガティブな感情をポジティブに切り換えて、明るく接することが求められてしまうものです。

とはいえ、教員も人間です。心身ともにエネルギーが満ちていれば、笑顔で接することもできるでしょうが、疲れ切っているとそれも難しくなります。次第に目の前の生徒たちを大切に思えなくなり、志を抱いて選んだ教職にやりがいを感じられなくなってしまう人もいます。

心身が疲れ切って限界を迎えることで、燃え尽きてしまう例は少なくないものと思われます。

深刻化する教員不足と現場へのさらなる負担

加えて、近年では教員不足も深刻な問題となっています。全日本教職員組合の調査によると、2024年10月1日時点で、4700人を超える教職員が配置できておらず、教員不足は年々深刻化していることが明らかになりました。

ただでさえ多忙な日々を送る中で、欠員を埋めるために1人で複数の役割を担わなければならないケースも増えています。

こうした状況下で、教員の疲弊はさらに深刻化していると考えられます。文部科学省も教職員のメンタルヘルス対策を検討するため、2023年度から実態調査を開始していますが、早急な具体策が望まれるところです。

教員自身ができるセルフケアとピアサポートのヒント

行政によるサポート体制の整備を待つ間にも、教員自身ができることがあります。それがセルフケアとピアサポートです。ここではヒントとなるポイントを2つお伝えします。

1)理想は高く持ちながらも、日々の成長はスモールステップで

教員を目指す人は志が高く、利他的な人が多いです。しかし、その崇高な精神が自分自身を追い込み、心の病を生むきっかけになることもあります。

高い理想を持ち続けることは大切ですが、実現には時間が必要です。だからこそ、日々の成長は一歩一歩、スモールステップで進めましょう。どんなに小さな一歩でも、昨日より今日は少し成長できたと思えれば十分です。「三歩進んで二歩下がることがあっても、一歩は残っているから大丈夫」。

そんなふうに自分に言い聞かせて、気長に歩んでいきましょう。こうした大らかな心構えは、生徒への指導にもきっと役立つはずです。

2)ピアサポートでは共感を最優先! 同僚や部下へのアドバイスは慎重に

相談を受けると、ついアドバイスをしたくなりますが、アドバイスが相手を追い込む場合もあるため注意が必要です。まずは「それは大変だったね」「考え込むのも無理はないよね」と共感することが大切です。これだけで、相手の気持ちはずっと楽になります。

そのうえで、相手が助言を求めているようなら、慎重にアドバイスをしましょう。「以前こんな方法を試したらうまくいったんだけど…よかったら試してみる?」と、相手が気軽に取り組める小さな工夫を提案する形が望ましいです。

人の心はとてもデリケート。毎日こまやかな配慮でたくさんの生徒を導いている教員は、なおのことです。教員として日々精一杯頑張っている自分自身の心をしっかりケアすること。

そして同じ教員仲間の心情も思いやり、苦労を一緒に労い合うようにする。この意識を持ち続けることが、教員をメンタル危機から救う一助になるものと思います。

■参考
・教職員のメンタルヘルス対策について(文部科学省)

大美賀 直子プロフィール

公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を持つメンタルケア・コンサルタント。ストレスマネジメントやメンタルケアに関する著書・監修多数。カウンセラー、コラムニスト、セミナー講師として活動しながら、現代人を悩ませるストレスに関する基礎知識と対処法について幅広く情報発信を行っている。
(文:大美賀 直子(公認心理師))

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