
8月8日、自民党の両院議員総会が行われ、自民党全議員の8割を超える250人以上が出席した。党大会に次ぐ重要な意思決定機関で、今後、選挙管理委員会に対応を一任し、総裁選を前倒しで実施するかどうか検討することが決まった。
【写真を見る】それでも石破内閣は続くのか?世論調査から見える展望
党則では所属国会議員と都道府県連代表(各1名)の総数の過半数の要求があれば、任期満了前でも総裁選を前倒しで実施することができる。この規定に基づく総裁選の実施は前例がなく、総会に出席した「ポスト石破」候補の1人は「感覚としては9割ぐらいが前倒しに賛成の雰囲気だった」という。今後、過半数の賛同が得られるかが最大の焦点となる。
果たして石破総理はもう“終わった”のだろうか。
石破総理が辞めないこれだけの理由石破総理は総会で、重ねて続投を表明したが、去年の衆院選、今年の都議選、参院選と3連敗で、本来であれば「スリーアウトチェンジ」(茂木前幹事長)のはずだった。これまでの常識を覆し、総理が続投したい理由はいくつか考えられる。
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表向きに総理が語っているのは日米の関税交渉だ。トランプ政権と石破政権の合意であるから最後までやり抜くということ。そして「戦後80年の見解」を発出するという強い思いだ。さらには衆参ともに少数与党となり、自公連立政権に野党を加え安定基盤を作るまでやりきりたいのではないか、と解説する官邸幹部もいる。
こうした“使命感”とは別の理由もありそうだ。
参院選直後の「辞任報道」への反発や“石破おろし”の主体が旧安倍派、旧茂木派など、かつての主流派であったり“裏金”議員であることから、石破総理は「おろされてたまるかという気持ちになっている」(総理に近い議員)という。
村上誠一郎総務大臣も8日のTBSのCS番組の収録で“石破おろし”の動きについて、「参院選の敗因を作った皆さん方が総理の責任を問うというのは身勝手ではないか」と述べ、旧安倍派の議員らが主導していることを批判し、総理を“援護”している。
かねてから石破総理は旧安倍派に起因する裏金問題が、自民党敗北の根底にあると感じているようだ。ただそうはいっても、自民党の「政治とカネ」の問題に刷新感を出せなかったのは石破総理自身の責任である。
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石破総理が辞めない「外的要因」もある。
まずは自民党内。派閥がなくなった影響で“石破おろし”の核となる人物、主体が見えにくくなっている。仮に派閥が残っていれば領袖の一声で“おろし”はうねりのように広がっていったはずだ。派閥不在は総理に有利に働いている。
派閥がなくなった影響はほかにもある。かつて菅総理に対して、近しい関係である小泉進次郎環境大臣(当時)が、総裁選に出馬しても勝てる見込みがなかったことから“名誉ある撤退”を促したことがあった。今、自身の派閥もなくなり、仲間の少ない石破総理に撤退を促すような人物はいなさそうだ。
さらに野党側にも問題がある。少数与党下において内閣不信任案はこれまで以上に野党にとっては強力なカードであるはずだが、提出の気運は高まっていない。提出は本来、野党第一党である立憲民主党が主導するが、立憲は参院選で議席を増やせず戦略の立て直しが喫緊の課題になっている。いまの状態で衆院解散・総選挙になっても立憲は勝ち筋を描けず、参院選で議席を伸ばした国民民主党や参政党がさらに勢いづく可能性がある。
このように石破総理が持ちこたえているのは、与野党双方の“お家事情”が影響している。
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最新のJNN世論調査で石破内閣の支持率が前月と比べて4.0ポイント上昇し、36.8%となった。参院選に敗北したこのタイミングでなぜ内閣支持率が改善したのか。
それを解明するヒントとなる数字がある。
今回の参院選の敗北を受け石破総理が辞任すべきかどうかを聞いたところ「辞任すべき」が43%で「辞任する必要はない」は47%。「辞任の必要がない」ほうがやや上回った。さらに自民党支持層と立憲民主党支持層で分析すると、自民支持層で「辞任の必要なし」は65%、立憲支持層でも「辞任の必要はなし」が63%で両者の差がほとんどなかった。
つまり石破内閣は野党支持層、リベラル層から一定の支持があるということが推察される。今回の参院選で初当選した社民党のラサール石井氏がXに「石破総理は一番まともだ」と投稿したり、れいわ新選組の山本太郎代表も「石破総理の続投が安全策」と会見で話すほか、広島原爆の日の6日、平和記念式典での総理の挨拶は野党からも評価する声があがっている。こうした野党層が「辞任の必要なし」と答え、内閣支持率をも押し上げている側面がある。
「次の総理にふさわしい人」という設問についても、石破総理は「3位」にランクインしている。そもそもこの設問は各社、時の総理の“終わりが見え始めた”頃に設問して取り上げられる傾向にあり、例えば岸田総理が辞める直前の24年8月のJNN世論調査で同じ質問をしたところ、岸田総理は「6位」だった。
そもそも石破氏は、総理就任前は常に総裁候補のトップを走ってきた人ではあるが、現役総理が3位になるのは異例だ。
自民党支持率20.4% 政権奪還後「最低」の数字に一方で、自民党の支持率は20.4%となった。この数字は民主党に政権交代する直前、2009年9月の麻生内閣の時(20.8%)と同じ水準であり、2012年末に自民党が民主党から政権を奪取して以来、“過去最低”の数字である。
内閣支持率はアップする一方、自民党支持率が“過去最低”になる奇妙な結果となった。というのも歴代政権は内閣支持率が下がっても、自民党支持率が3割前後で安定推移する傾向にあったが、今回は逆転現象が起こっている。
さらに「今回の参院選で自民党が敗北した理由が何だと思うか」という設問については1位が「自民党に期待できないから」で46%、2位の「石破政権に期待できないから」20%を大きく上回っていることも、総理の続投を後押ししている可能性がある。
今回のJNN世論調査の結果に石破総理は周囲に対し「支持率が下がらなくて良かった」と安堵しているという。その他にも、他社の世論調査で同様の結果がみられた7月28日での会見で総理は「国民世論というものと我が党の考え方というものが一致することが大事」だと話している。つまり、いまは党内世論と国民世論が違うということが言いたいと見られ、各社の世論調査を意識していることがうかがえる。
8月最終週「参院選の総括」が最初のヤマ場8月最終週には参院選の敗因などがまとまり報告書がだされる。これをもって森山幹事長は「幹事長として自らの責任について明らかにしたい」と述べていて辞任の可能性を示唆している。森山幹事長だけではなく、選挙の責任者である木原選対委員長、選挙公約をまとめた小野寺政調会長なども辞任するものとみられ、早晩、石破総理は党役員人事に取りかからねばならないが、後任人事に行き詰まる可能性がある。これまで内閣の屋台骨だった森山幹事長が辞任すれば、前倒しの総裁選が行われるにせよそれを待つことなく石破内閣が瓦解する恐れがあり、8月最終週が総理にとってまずはヤマ場となる。
その後、前倒しで総裁選が行われるかどうかが最大の焦点だ。臨時の総裁選が行われることになれば、石破総理も出馬は可能ではあるが現時点では勝てる可能性は少なく、勝てる見込みがなければ出馬を見送るだろう。辞任にむけ外堀が埋まりつつある。
選挙に負けて誰も、何も責任を取らない組織はあってはならないし、より結果責任が求められる政治の世界ではなおさらだ。現在、参院選の敗因について有識者のヒアリングが行われていて、指摘されているのは、石破総理が「政治とカネ」の問題で刷新感を出せなかったことや自民党が物価高対策に有効な施策を打ち出せなかったことなどだ。そうした根本原因を放置して、党内の権力争いに終始しているようでは、ますます自民党は国民から見放されるだろう。
TBS政治部 世論調査担当デスク室井祐作
【8月JNN世論調査 設問と回答は以下】
●石破内閣の支持率は36.8%(前月調査より4.0ポイント上昇)。不支持率は60.5%(前月調査より3.1ポイント下落)
●政党支持率は、自民党20.4%(前月より0.4ポイント下落)、立憲民主党6.9%(前月より0.6ポイント上昇)、日本維新の会2.7%(前月より1.4ポイント下落)、国民民主党8.7%(前月より2.8ポイント上昇)。参政党は10.2%(前月より4.0ポイント上昇)
●日米関税交渉の合意について「評価する」50%、「評価しない」33%
●参院選の結果について「与党がもっと議席を取った方が良かった」23%、「野党がもっと議席を取った方が良かった」33%、「結果に満足している」35%
●今回自民党が参院選で敗北した理由について「石破政権に期待ができなかったから」20%、「自民党に期待ができなかったから」46%、「他の野党の方が期待できるから」15%、「それ以外の理由」16%
●参院選の敗北を受けて石破総理が「辞任すべき」は43%、「辞任する必要はない」は47%
●望ましい政権のあり方は「自民・公明を中心とする政権の継続」は39%(6月より4ポイント下落)、「いまの野党を中心とする政権に交代」は49%(6月より8ポイント上昇)
●自公連立政権に新たに野党が加わる場合、望ましいのは「立憲民主党」17%、「日本維新の会」14%、「国民民主党」23%、「参政党」15%、「それ以外の政党」16%
●次の総理にふさわしい人は
1位 小泉進次郎氏 20.4%
2位 高市早苗氏 16.7%
3位 石破茂氏 11.1%
4位 河野太郎氏 5.2%
5位 玉木雄一郎氏 4.4%
6位 野田佳彦氏 3.8%
7位 林芳正氏 3.4%
8位 上川陽子氏 2.3%
9位 小林鷹之氏 1.7%
10位 茂木敏充氏 1.1%
11位 加藤勝信氏 0.8%
12位 前原誠司氏 0.5%
「その他の政治家」 18.1%
【調査方法】
JNNではコンピュータで無作為に数字を組み合わせ、固定電話と携帯電話両方をかけて行う「RDD方式」を採用しています。8月2日(土)、3日(日)に全国18歳以上の男女2531人〔固定843人、携帯1688人〕に調査を行い、そのうち39.6%にあたる1003人から有効な回答を得ました。その内訳は固定電話498人、携帯505人でした。インターネットによる調査は、「その分野に関心がある人」が多く回答する傾向があるため、調査結果には偏りが生じます。より「有権者の縮図」に近づけるためにもJNNでは電話による調査を実施しています。無作為に選んだ方々に対し、機械による自動音声で調査を行うのではなく、調査員が直接聞き取りを行っています。固定電話も年齢層が偏らないよう、お住まいの方から乱数で指定させて頂いたお一人を選んで、質問させて頂いています。