景気減速期にこそ利益を生む 決済業務を刷新する「3つのステップ」とは?

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2025年09月15日 12:30  ITmedia ビジネスオンライン

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中小企業を含む実に57.2%もの企業が、いまだに現金決済を中心としたビジネスを続けている

 景気減速期にこそ利益を生む、決済業務を刷新する「3つのステップ」とは? Mastercard アジア太平洋地域法人・新規決済フロー担当 エグゼクティブ・バイス・プレジデントのAnouska Ladds(アヌースカ・ラッズ)が解説する。


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●資金繰りを強化 決済業務を刷新する「3つのステップ」とは?


 物価上昇、脆弱なサプライチェーン、そして需要の冷え込み。こうした要因が日本企業に将来戦略の見直しを迫っているのは、もはや当然の流れと言えます。しかし、景気減速は単に企業の回復力を試すだけではなく、組織内に潜む変化への対応力の欠如、つまり「惰性」を浮き彫りにします。実際、日本全国の中小企業を含む実に57.2%もの企業が、いまだに現金決済を中心としたビジネスを続けており、これが成長の足かせとなっています。


 金融ツールに対する理解不足、財務状況の可視化の難しさ、さらに盗難や業務の非効率性といったリスクに、日々直面しているのが現状です。


 利益率が圧迫される今日の経営環境において、運転資金の効率的な管理は、財務面の課題を乗り越え、新たなビジネスチャンスを掴むための生命線です。実際、中小企業のおよそ8割がキャッシュフロー管理の不備が原因で廃業に追い込まれているというデータもあります。


 現代のデジタル経済においては、金融機関もデジタル技術やデータ分析を駆使し、中小企業の信用リスクを評価するとともに、きめ細やかな支援を行うようになっています。そうした中で、カード決済の導入は、柔軟性・安全性・管理性を兼ね備えたシンプルかつ強力なソリューションとして注目されています。特に仕入先への支払いなど、重要な業務プロセスにおいてその効果を発揮します。


 一部の中小企業では、初期導入コストや、会計・事務作業の煩雑さを懸念してキャッシュレス化に踏み切れないケースもあります。ですが、実際にはカード決済を導入している企業のほうが、そうでない企業に比べて運転資金の最大活用において14ポイントも高い効率性を実現しています。


 この14ポイントという差は、流動性と迅速な意思決定が求められる不安定な経済状況において、企業の柔軟な対応力と安定した経営を維持する上で極めて重要な要素となります。


 決済だけにとどまらず、カードをAPI連携の統合プラットフォームに組み込むことで、中小企業は経費精算の自動化、キャッシュフローのリアルタイム可視化、手作業によるミスの削減が可能になります。


 ある調査では、経費処理をデジタル化するだけで、年間最大3万時間の業務時間を削減し、生産性を70%以上向上させられると試算されています。


 このように財務管理や予測の精度が高まれば、中小企業はより多くのリソースをイノベーションと成長に注力できるようになります。


 特に日本においては、長期的な予測によると、人口減少や構造的な経済停滞により、一人当たりの所得が世界ランキングで大幅に下落する可能性が指摘されています。すでに日本の所得水準はOECD諸国の中でも中位にまで落ち込んでおり、一部の試算では、2024年時点で世界29位の日本が、今後50年以内に45位まで順位を下げる恐れがあるとされています(日本経済研究センター:長期経済予測、中間報告「2075年 BRICS経済圏が米国の1.4倍に拡大」)。


 円安や訪日観光による一時的な恩恵が薄れていく中、日本は持続可能な成長モデルの再構築を迫られる重大な岐路に立たされています。円相場が安定すれば、経済の回復力は、効率性の向上やイノベーションの促進を目指した構造改革にますます依存するようになるでしょう。


 急速に進化する世界情勢において、生産性を向上させ、日本全体の競争力を回復させるためには、テクノロジーによる業務効率と財務管理の強化が不可欠です。中小企業にとって、カード決済プラットフォームのようなデジタルツールの導入は、もはや単なる利便性の問題ではなく、戦略的な必須事項となります。


●進化が報われるとき


 不確実な状況に直面する中小企業にとって、投資を控え、手元資金を備蓄するという判断はごく自然な選択かもしれません。しかし、立ち止まることこそが、むしろ大きなリスクとなり得ることを認識すべきです。世界では今、デジタルプラットフォームのエコシステムが急速に進化し、中小企業の立ち上げ、運営、そして成長の在り方そのものを大きく変えつつあります。


 例えば米国や中国本土のような市場では、オンラインマーケットプレイスが中小企業のグローバルな顧客獲得を可能にしています。また、金融サービスやロジスティクスなど、かつては大企業のものであった機能を、小規模事業者が利用できるようにしたプラットフォームもいくつかあります。


 このような動きは日本でも広がりを見せており、なかでもB2B決済のデジタル化は、業務効率を推進する上で極めて重要な鍵となっています。例えば、ある中堅製造業では、紙ベースの請求書から電子請求書に切り替えたことで、処理時間を約20%短縮し、人的ミスも大幅に減らすことに成功しました(経済産業省:「B2Bキャッシュレス(事業者間決済のキャッシュレス)」)。


 さらに、支払期日の自動追跡や、仕入れ先との円滑なコミュニケーションが可能になったことで、キャッシュフローの可視性が向上し、取引先との関係強化にもつながっています。さらに、クラウド型の経費精算や支払照合ソリューションを導入したことで、経理部門の業務負担も大きく軽減されています。


 こうした改善は、単なる業務効率化にとどまらず、企業全体の生産性向上と持続可能な成長の土台を築くものとなります。


 変化の激しい現代において、決済インフラの近代化が極めて重要な価値をもたらすことは明らかです。しかし同時に、未知な部分も多い中、多数のデジタル決済提供会社から選択しなくてはいけなかったり、複雑な規制への対応が必要だったり、ハードルもつきものです。とはいえ、前に進む道は思っているよりもシンプルです。はじめの一歩は、A・B・Cのステップから始めることができます。


1. Audit(現状把握): まずは、現在の決済および照合業務のプロセスを棚卸しし、自動化によってリスクや遅延を減らせる箇所を洗い出します。ビジネス向け決済ツールをデジタル化すれば、取引状況をリアルタイムで把握できるようになり、手作業に伴う処理の遅延を解消できます。さらに、グローバル対応の統合決済プラットフォームを導入し、オープンAPIや照合ツールを組み込むことで、これまで断片的だった業務が一元化され、より効率的に集約されます。


2. Bridge(信頼できるパートナーを選ぶ): 適切なパートナーは、単にテクノロジーを提供するだけでなく、業務の最適化と持続的な成長を実現するための「架け橋」となります。リスクを最小限に抑えながら、小さな一歩を積み重ねて大きな変化を生み出す、信頼できるガイドとして、直面している課題をともに解決し、着実に変革を推進してくれる存在となります。


3. Checkout (決済): デジタルファーストが進む現代において、チェックアウト(決済)は顧客との最後の、そして最も重要な接点となります。スムーズでストレスのない決済体験は、顧客転換率(コンバージョン率)を向上させ、顧客ロイヤルティを確立します。タッチ、スキャン、クリックの全てがストレスなく実行できると、顧客は再び戻ってきます。


 カード決済を基盤としたソリューションが全ての問題を解決する万能薬とは限りませんが、運転資金や業務上の課題を競争力の源泉へと変えるきっかけにはなり得ます。


(Mastercard アジア太平洋地域法人・新規決済フロー担当 エグゼクティブ・バイス・プレジデント アヌースカ・ラッズ)



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