口笛奏者の武田裕煕さん今年で50周年を迎える北米最大級の映画祭「トロント国際映画祭(TIFF)」。世界各国から注目作が集まるこの映画祭で、ドキュメンタリー映画『WHISTLE』が上映されました。
本作は「口笛」の世界一を決める「マスターズ・オブ・ミュージカル・ホイッスリング大会」に密着した作品。ハリウッドで開催されるこの大会には、個性豊かな口笛奏者(Whistler)たちが世界中から集結します。その中には、日本人奏者・武田裕煕さんの姿も。
今回は映画祭の開催中、武田さんに独占インタビューを行い、出演の経緯や「口笛」を音楽としてとらえるようになったきっかけを伺いました。
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――『WHISTLE』では、世界大会に挑戦する姿が描かれていましたが、ご自身の挑戦や葛藤はどのように映っていましたか。
そうですね、かなり"ありのまま"だったと感じます。映画はユーモラスに仕上がっていますが、笑いの対象はあくまで状況やシーンであって、決して登場人物を笑い者にしていない。すごく真摯な映画作りをしてくださったと感じました。また、短い上映時間の中でこれほど多くのトップレベルの口笛を並行して聴ける機会は滅多にないので、自分に不足している部分も改めて見えた気がします。
――撮影中に印象に残っている出来事はありますか。
ドキュメンタリーであっても、監督の意図が反映されてキャラクターが形作られていくんだなと感じました。観客の興味をつなぎとめるために、いろんな角度から面白いショットを撮ろうとする製作過程はとても興味深かったです。 例えば、私は普段ほぼリモートワークなのですが、映画では通勤電車に揺られるシーンがあります。実際には滅多に出社しないのに、その日(撮影の日)は、「出社してください」と言われて(笑)。ドキュメンタリー撮影ならではの面白さを実感しました。
――口笛を「音楽」として意識するようになったきっかけは何ですか。
中学時代、母の仕事の都合でオランダに住んでいたことがありました。最初は通う学校も決まらず、家で過ごす時間が多かったのですが、ある時ふと「高い音ってどうやって出すんだろう」と思って調べたのがきっかけで、口笛を練習するようになったんです。日本に帰国してから、夕食時に観ていたTBSの『学校へ行こう!』に、ちょうどその年の世界大会ティーン部門の優勝者が出演していました。その人が「3オクターブ吹ける」と話していて、「すごい!」と思い自分も試したら、偶然3オクターブが出せた。それが「面白い」と感じた原点で、そこから世界大会を目指すようになりました。
――最近出版された本について教えてください。
今年出版した本は、世界で初めて口笛について網羅的にまとめた一冊です。きっかけは、ノンフィクション作家・最相葉月さんの通訳を担当したこと。そこから口笛に興味を持っていただき、本の出版へとつながりました。
――ありがとうございました!
オーストラリア出身のクリストファー・ネリウス(Christopher Nelius)監督がメガホンをとった『WHISTLE』は、ショー制作の喜劇的な側面を軽快に描きながら、個性豊かで才能あふれるWhistlerたちの魅力を映し出した一本。日本公開は現在のところ未定です。
(取材・文/齋藤彩加)
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『WHISTLE』
第50回 トロント国際映画祭(TIFF)上映作品
※日本公開未定
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