
F1第18戦シンガポールGPレビュー(前編)
「スタートが信じられないくらいひどかった、ごめん」
1時間40分におよぶシンガポールGPの長い決勝を終えた角田裕毅(レッドブル)は、無線でチームのクルー全員に謝った。
13番グリッドからスタートした角田は、好発進を決めてターン1、ターン3と、前のリアム・ローソン(レーシングブルズ)に対してポジション争いを仕掛けていったものの、その後はコーナーごとに行き場を失って空いたスペースに入られ、次々とポジションを落として17位まで後退してしまった。
速いとか遅いではなく、スタート直後の混雑のなかでひとたびリズムと勢いを失い、隊列の「流れ」から外れると、まるで空間ポケットに入り込んでしまったかのように弾き出されてしまうのだ。
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「間違いなく、今までの僕の人生で最悪のスタートと1周目でした。1周目に何が起きたのか、今でも自分でもまったく信じられません。
スタート自体は悪くなかったんですけど、どのコーナーでも、どのスペースに行こうとしても誰かにカバーされたり、ブロックされてどこにも行くスペースがなくて、1周目でビックリするくらいものすごく多くのポジションを失ってしまいました」
2番グリッドのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)も、ソフトタイヤでの首位奪取を狙ったものの果たせず、むしろ早期のペースダウンに苦しむこととなった。
17位まで後退した角田も、追い抜きのできないマリーナベイ市街地サーキットでは集団に埋もれて淡々と走らざるを得ず、早めのピットストップを強いられた。
「こういうオーバーテイクが難しいサーキットでは、何かをトライすることは難しいですし、僕がいたポジションではどうすることもできませんでした。だから早めにピットインをして、前の集団をアンダーカットしようとトライしたんです。
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レースペースは今までレッドブルで走ってきたなかで、最もよかったレースのひとつだと思います。だからこそ、あのスタートは残念でしたね......」
【角田がスロットルを戻した理由】
前方がフリーエアになった角田は、良好なペースで周回を重ねていった。
セーフティカーが出れば10秒以上のタイムロスを喫するリスクはあったが、スタートから何十周もステイアウトするドライバーたちよりも格段に速いペースで走ったことで、10秒以上も稼いでそのリスクを帳消しにし、結果的にポジションを12位まで上げることに成功した。
追い抜きの難しいシンガポールで、フランコ・コラピント(アルピーヌ)を抜き、最後はPUのセンサートラブルでフェイルセーフモード(※)に入れて出力を落として走らざるを得なくなったイザック・アジャ(レーシングブルズ)の背後に迫り、入賞圏が目前というところまできた。
※フェイルセーフモード=車両に異常が発生した際、システムが安全を確保するために自動的に作動する仕組み。
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しかし、後方には2位争いを演じるフェルスタッペンが迫り、3位ランド・ノリス(マクラーレン)から激しいプレッシャーを受けていた。防戦一方のフェルスタッペンに少しでも乱れた気流を与えないよう、角田は早々に大きくスロットルを戻して2.9秒もペースを落とし、フェルスタッペンを先行させた。
一方のアジャは、姉妹チームだがお構いなしに走行を続け、通常のブルーフラッグ運用規定である1.2秒以内に追いつかれて青旗が振られた時点で譲り、ロスは最小限に抑えた。
その結果、角田とアジャの差は大きく広がってしまい、追い抜きは果たせないまま61周のレースを終えることとなってしまった。
「マックスのポジションを守るためにチームプレーをしてくれた。よくやってくれた、本当にありがとう」
レースエンジニアのリチャード・ウッドは、フィニッシュ直後の角田にどんな言葉をかければいいのかとまどいながらも、角田の悔しさを理解し、寄り添うようにそう伝えた。
「トラフィックに苦しめられたけど、ペースはよかったよ」
それに対して、角田は冒頭のように、自身の1周目の攻防がすべてを左右してしまったと詫びた。
【結果はたしかに重要だが...】
スポーツの世界には「結果がすべて」という言葉がある。だが、それは半分正解で、半分は間違いだ。
結果はたしかに重要だが、角田の2025年や2026年は、この目の前のシンガポールGPの「結果」ですべてが決まるわけではない。10月末までのすべてのレースで決まる。結果は言うまでもなく、その中身も重要だ。
そういう意味で言えば、このシンガポールGPで「結果」が出なかった理由は明確で、「結果以外の部分」で得たものの大きさも明らかだった。
◆つづく>>