佐野勇斗、ストイックな自分からの“ESCAPE” 仲間が教えてくれた「楽しむ」ことの大切さ

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2025年10月08日 08:40  クランクイン!

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佐野勇斗  クランクイン! 写真:高野広美
 映画『くちびるに歌を』でスクリーンデビューしてから10年。俳優として着実にキャリアを重ね、M!LKのメンバーとしてアリーナ公演を成功させている佐野勇斗が、一つの大きな節目を迎えた。桜田ひよりとダブル主演を務めるドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』で、ゴールデン・プライム帯の連続ドラマ初主演を果たす。これまでのパブリックイメージを鮮やかに裏切る役柄で、佐野は何を壊し、何を掴むのか――。そしてこの10年を振り返り、自身の現在地を語った。

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■10年目の景色 GP帯初主演という責任と喜び

 2015年のデビュー作以来、数々の現場を経験し、着実にステップを駆け上がってきた。10代だった少年は、今や座長として現場を率いる立場に。一つの目標であったゴールデン・プライム帯での主演という吉報に、特別な感情がなかったわけではない。しかしその喜び以上に、いまの佐野を突き動かすのは、作品と、そしてカンパニー全体へと向けられた温かな視線だ。

 「やっぱり10年間やってきて、まずはゴールデンタイムで主演をやらせてもらいたいっていうところだったので、決まった時はすごくうれしかったです。だからといって他の作品とやることは変わるわけではないんですけど、やっぱり責任感とか、数字とかも意識はします。もちろん、プレッシャーはあるかもしれませんが、今まで通りしっかり作品に向き合っていきたいなと思います」。

 主演の座を射止めた瞬間について尋ねると、「いつ決まったんだっけ?っていう。感覚としてはいつの間にか決まっていたぐらいな感じだったかな」と照れくさそうに笑う。だが、主演という立場の重みは、日々の撮影の中でひしひしと感じているという。佐野の意識は、もはや自分の芝居だけに留まらない。

 「さっきも言った通りやることは変わらないんですけど、意識の面というか、自分のことだけじゃなくて少し現場のことも考えたりはします。スタッフの皆さんとコミュニケーションをとったり、ちょっとお腹空いてないかな?みたいな」。

■素顔に近い“ワル”な自分 アドリブが止まらない新境地


 本作で佐野が演じるのは、経済的に貧しい環境で育った青年・林田大介。特殊詐欺に関与して逮捕歴があり口は悪いが、人の心の痛みが分かる優しい一面も持つ男だ。予告映像で放たれた「ぶっ殺すからな」という荒々しいセリフはファンに衝撃を与えたが、当の本人は驚くほど自然体でこの役と向き合っている。むしろ、これまでのどの役よりも「自分に近い」とさえ感じている。

 「ものすごく簡単な言葉で言うなら、地元のちょっとヤンキーみたいな役なんですけど、根はすごく優しくて、人の気持ちが分かる青年なんです。こんな話をすると、自分にとってマイナスプロモーションになっちゃうかもしれないですが、全然(セリフを)言っていて違和感がなくて。これまで演じたオタクの役とかよりも、アドリブとかもペラペラ出てきちゃうんです。たぶん僕、こっちの人間なんだなって思っています(笑)」。

 そのルーツは、自身のバックグラウンドにあるという。生まれ育った土地の空気感が、知らず知らずのうちに大介というキャラクターにリアリティを与えていた。

 「メンバーといる時もあそこまではもちろん言わないんですけど(笑)。でも、地元が結構田舎で、気合が入っている人が多かったりとか、名古屋弁とかもあって、結構口調が荒いんで。気持ちいいわけじゃないですけど、やっていて言いやすい。自分に近いかもしれません」。

 役と自分との境界線が溶け合う感覚は、撮影前の本読みの段階で確信に変わった。当初はいくつかのキャラクター像を準備して臨んだが、監督からの一言が、彼を“演じる”ことから解放した。

 「本読みの時に、自分の中では何パターンか作って行ったんですけど、なんかそれがちょっとあんまハマらなくて。休憩になった時に、ひよりさんと喋っている感じが一番林田に近いと言われて。『もうそのままでいい』みたいなことがあったので、なかなか演じる側としては勇気のいる決断なんですけど、全部捨ててもいいやと思って。自分の中での設定を作ることをやめたんです」。

 共に逃避行を繰り広げる桜田の存在も大きい。彼女の自然体の芝居が、佐野の新たな扉を開けていく。

 「ひよりさんのお芝居に引っ張られて、いつもよりセリフが言いやすいんです。改めて、めちゃくちゃうまいなと。もう本当に(桜田演じる八神)結以が言っている風に聞こえるというか。自然と役柄を落とし込んでいるのは本当に脱帽しました」。

■ストイックな精神性からの“ESCAPE” 仲間が教えてくれた「楽しむ」ことの大切さ


 俳優として、そしてアーティストとして、常に高い目標を掲げ、自らを追い込むことで走り続けてきた。M!LKでのアリーナツアー、そして今回のGP帯ドラマ初主演と、着実に夢を叶えてきたが、その原動力は「頑張っている過程が好き」というストイックな精神性にあった。

 「いつからこんなんなっちゃったんだろうと思うんですけど、目標に向かって走っていて、自分を追い詰めてないと、なんかちょっと怖くて。どこかで『自分しんどいな』って思っていないと進めないみたいな、変な癖があったんです」。

 そんな佐野のストイックな向き合い方にも、最近変化が生じてきたという。佐野の心を溶かしたのは、他でもない、苦楽を共にしてきたM!LKのメンバーの言葉だった。

 「メンバーの吉田(仁人)が常日頃から『楽しく生きていたい』と言うんです。僕は『楽しいことだけやっていても、目標は叶えられない』って思っていたのですが、今年になって、『楽しむってめっちゃ大事だな』って思い始めて……。あいつの考えに感化されたんです。大変なことも全部、考え方によっては楽しくなるし、楽しいことをしてないとめっちゃ人生損だなって思うようになったんです。あえてつらい方に行く必要ないかって。きついけどそれを楽しむっていうマインドが大事だなっていうのを、今年気づかされました」。

 「楽しむ」ことの大切さを知った今、芝居への向き合い方も変わった。これまでは「ちゃんとやらなきゃ」という責任感が先に立っていたが、この現場では純粋な喜びを感じている。

 「これまで、皆さんに喜んでもらえた時がうれしい、楽しいという気持ちだったのですが、今の現場では、ひよりさんとの掛け合いのお芝居をしている時が楽しいです」。

 さらに佐野はずっと応援してくれるファンも“楽しい”と思える大きな存在だという。「インスタライブとか。ファンの人との交流は、やっぱり何年経っていても楽しいです」。

 最後に、佐野がこの物語を通して伝えたいメッセージを聞いた。

 「誘拐した側と誘拐された側が一緒に逃げるのですが、お互いどういう思惑があって一緒に逃げていくのか、というのは観ている人も気になると思います。この2人が逃げながら自分の問題に立ち向かっていくストーリーなので、自分自身にも置き換えて、困難に立ち向かう勇気も与えられたらなと思います。またシンプルに、この2人がどうなっていくかっていうのは、僕らも楽しくお芝居していて、観ていても楽しめると思うので、そこは注目していただきたいなと思います」。

 ストイックな自分からの“ESCAPE”。デビュー10年にして手にした新たな価値観は、俳優・佐野勇斗をさらなる高みへと導いていくだろう。(取材・文:磯部正和 写真:高野広美)
 
 ドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』は、日本テレビ系にて10月8日より毎週水曜22時放送。
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