薬物・殺人犯・詐欺・銃撃…『キングオブコント』に“バイオレンス”なネタが溢れた理由。攻める芸人、引かない観客——いまの“笑いのバランス”とは

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2025年10月16日 09:00  女子SPA!

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女子SPA!

ロングコートダディ 画像:吉本興業株式会社 プレスリリースより(PRTIMES)
10月11日に放送された、コント日本一を決める『キングオブコント2025』(TBS系)。4度目の決勝進出となったロングコートダディが3449組の頂点に立ち、18代目キングとなりました。一方で、今年は“バイオレンス”ネタが多かったことも大きな特徴です。

結成1年未満のベルナルドや9年ぶりの決勝進出となったしずるなど、放送前から話題が絶えなかった『キングオブコント2025』。白熱した戦いの末、レインボー、や団とともに最終決戦に進出したロングコートダディが、2年連続でトップバッターでの優勝という結果となりました。

◆殺人、暴力団、詐欺——異様なネタが並んだ決勝戦

毎回、審査員の点数や各コンビのネタの内容などがSNSやネットで話題となるお笑い賞レース。今年は、決勝に出場したコンビや審査員のこと以上に、大会を通して多くのコンビのネタの中身が殺人や暴力などバイオレンスな要素を含んでいることに注目が集まりました。

その流れは1stステージ3組目に登場したファイヤーサンダーから。彼らは殺人を犯したタレントがTV番組に復帰するというネタでした。直接的な暴力はないものの、元殺人犯を演じたボケのこてつさんの猟奇的な表情にツッコミの崎山さんが恐怖におののく姿が笑いを誘っていました。

6組目の元祖いちごちゃんは、試飲販売で漂白剤のブリーチをお客さんに飲ませる特殊詐欺のネタ。8組目のしずるは、B’zの『LOVE PHANTOM』をフルに使い、暴力団員2人のやり取りを見せたネタでした。最終的に池田さんが刺されて村上さんが高笑いするというブラックなオチ。

また、10組目のベルナルドは、カメラと人間の間に生まれたカメラマンが最後に人間の喉に刀を突き刺すというネタでした。

◆最終決戦でも止まらない暴力描写

1stステージでの上位3組で行われた最終決戦の2ndステージでも、や団はお客に暴言を吐く居酒屋店主のネタ、優勝したロングコートダディは最後に警察官が慰めてくれた女性を銃撃するというネタを披露しました。

なぜここまでバイオレンスネタが多かったのかと考えてみると、そもそも今年の決勝進出コンビはシュールなネタが得意なコンビが多かったことが挙げられます。しかし、そうしたコンビもゴールデンタイムに全国放送される賞レースでは、尖ったネタを避けて守りに入るネタを披露することが多かったです。

ですが今年は違いました。それぞれのコンビが、自分たちが得意とする“自分らしさ”を出していたのでしょう。

◆「守り」から「攻め」へ——芸人の選択

そこには、全国放送されるお笑い賞レースがインパクト勝負な一面もあるからです。日常を切り取った会話ネタやシンプルな設定よりも、派手なセットや衣装を使った演出ができるコントのほうが、審査員や視聴者に強い印象を与えやすく、高得点につながる傾向があります。

なかでも、「銃で撃つ」「刀や包丁で刺す」「暴力や暴言を用いる」といったバイオレンスネタは、もっともインパクトを残しやすいとして、多くのコンビが決勝の舞台で採用したがるのではないでしょうか。

かつては、こうしたバイオレンスネタに対して、コントの設定であるにもかかわらず、会場の女性客から悲鳴が上がったり、引かれたりすることも少なくありませんでした。実際、過去のネタ番組で「こんな人が実際にいたら怖いと思いました」「ちょっと引きました」といった女性タレントがネタの感想を言っている姿を見たことも多いでしょう。

◆変わる客層とネタ感覚、芸人たちの現在地

こうした状況から、あえて観客の反応を気にして、悲鳴が上がらないような守りに入ったネタを選ぶコンビも、お笑い賞レースでは少なくありませんでした。

一方で、劇場で普段ウケているような攻めたネタを避け、テレビ向けの“無難なネタ”を披露したからといって、高得点につながるわけではないことも、過去の大会を見れば明らかです。実際、自分たちの得意とするネタをそのまま披露し、賞レースで優勝をつかんだコンビやトリオは増えています。

記憶に新しいのは、2025年7月に放送された『ダブルインパクト〜漫才&コント 二刀流No.1決定戦〜』(日本テレビ系)で、バイオレンスネタを得意とするニッポンの社長が、自分たちらしいスタイルを貫いて優勝したケースです。

このような流れもあって、会場の女性客や視聴者の意識にも変化が見られると言えるでしょう。実際、今年のKOCでは、銃で撃たれたり、刀で刺されたりする場面においても、会場全体の笑いが冷めるような悲鳴はほとんど聞こえませんでした。それだけ観客が普段から芸人のネタを見慣れていたり、シュールやバイオレンスを含む演出に対する耐性を持っていたりするのかもしれません。

また、近年はコンプライアンス意識の高まりから、罰ゲームやハラスメント、人を傷つけるような笑いがテレビから姿を消しています。芸人たちも、普段のバラエティ番組ではやりたくてもできない分、ネタの中でバイオレンスを笑いに昇華させているとも考えられます。

さらに、漫才が“日常会話の延長”として見られるのに対し、コントはあくまでも“フィクションの世界”。たとえ人を殺すような演出や暴言があったとしても、「これはあくまで役であって現実ではない」という言い訳が成立しやすいという側面もあります。

今年のKOCのネタからは、そうした芸人たちのコンプライアンス意識への反動も透けて見えました。

<文/エタノール純子>

【エタノール純子】
編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。エンタメ、女性にまつわる問題、育児などをテーマに、 各Webサイトで執筆中

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