【今週はこれを読め! コミック編】秘境駅の醍醐味を味わう〜小坂俊史『駅はあるうちに行け』

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2025年10月16日 12:01  BOOK STAND

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 ひと口に「鉄道好き」といっても「撮り鉄」や「乗り鉄」など、「好きの形」にもさまざまな種類があることは、なんとなく知っている。だが「秘境駅・無人駅で降りること」を趣味にする人がいるとは思いもしなかった。それが本作の主人公、幾春別弥生(いくしゅんべつ・やよい)だ。

 弥生は月刊『鉄道道楽』に「ぶらり無人駅」という名の連載コラムをもっている。しかしそれだけでは食べていけず、ほかの仕事をこなしながら、他誌でも連載が取れることを夢見る日々だ。

 そんな彼女が足を運ぶのは、全国各地に実在する秘境駅。JR宗谷本線の糠南(ぬかなん)駅に始まり、終わりはJR阪和線の山中渓(やまなかだに)駅とJR和歌山線の隅田(すだ)駅まで、たった一人で、12の駅をめぐっていく。

 本作は、オリジナルの4コマ漫画を掲載するWEBコミックサイト『月刊まんがライフWIN』で連載された。過去に発表したエッセイコミック『わびれもの』(竹書房)で、「無人駅好き」を明かしていた著者が満を持して送り出す、"秘境駅探訪コミック"でもある。今回の書籍化にあたっては、描き下ろしも収録された。

 ベテラン4コマ漫画家として知られる著者は、ショートコミックの名手でもある。先述の『わびれもの』とは異なり、今作はフィクションの形を採っている。そのため物語は弥生のモノローグを中心に、4コマと自由なコマ割りで描くショートストーリーの、二通りの形式で紡がれる。

 ところで、どんな場所にも同好の士は現れる。秘境駅も例外ではない。弥生の後を追うように、各回で登場するのはYouTuberのおこっぺちゃんだ。ガーリーなファッションに身を包んだ彼女は、秘境駅や無人駅から自撮りでライブ配信をこなしていく。そのにぎやかな様子は、4コマで描かれていることも手伝って、一人旅を楽しむ弥生とはまた違った面白さをかもし出す。

 そして弥生は、旅の途中で生じた違和感とも正直に向き合っていく。ひと気はなくともさびれた印象が少ない街を歩き、「他所者の勝手な郷愁は地域の人々の努力により提供されている...」とつぶやいたり、記事に取り上げるつもりだった無人駅に年下らしき女子の姿を見つけ、「私はこの駅をあやうく自分のものにするところだったよ」と反省したりする。その冷静な客観視には嫌味がない。弥生のモノローグは駅の現状だけでなく、時に社会情勢に翻弄された駅や路線の歴史、土地柄、今後の展望にまで及び、ルポ漫画としても十分に読み応えがある。

 かつてのモノローグシリーズ三部作(『中央モノローグ線』『遠野モノがたり』『モノローグジェネレーション』〈いずれも竹書房〉)にも連なる本作。時を経てまろやかになった笑いにくわえて、鋭い視点のツッコミとボケのバランスも健在。既刊と合わせて、秘境駅の醍醐味とモノローグ漫画の奥深さを味わってほしい。

(田中香織)


『駅はあるうちに行け 全国無人駅ひとり旅 (バンブーコミックス)』
著者:小坂俊史
出版社:竹書房
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このニュースに関するつぶやき

  • 小坂俊史さんの作品はとても面白くしみじみする。かつて「4コマ王子」として名を馳せた方だが、当時の「月間フリップ編集部」とか「ひがわり娘」、今読んでもやっぱりすごくイイ♬
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