【Jリーグ】ジーコも喜んだ鬼木監督の"復帰" 9季ぶり優勝に近づく鹿島アントラーズの今季を象徴する2試合とは?

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2025年10月16日 17:40  webスポルティーバ

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 ホームでの無敗記録が27で止まった4月の京都サンガ戦(第9節)のほかに、鬼木達新監督が統率する今季の鹿島アントラーズを象徴する試合がふたつある。

 まず7月20日の第24節、柏レイソルとの上位対決だ。レオ・セアラの約40メートルのロングシュートで、ネーミングライツが導入された「メルカリスタジアム」初戦のファーストゴールを記録。さらに植田直通のジャンピングヘッドで2−0とリードを広げた。

 しかし柏の猛攻から2−2の同点に追いつかれ、試合終盤にはPKを献上。だが日本代表GK早川友基が立ちはだかり、小屋松知哉のキックミスを誘う。そして試合終了間際に、敵陣でのバックパスを突いて、松村優太が決勝ゴールを奪った。最後まで勝利をあきらめない鬼木監督と選手たちの想い、そしてサポーターの後押しが結実したドラマチックな白星だった。

 もうひとつは、鈴木優磨のゴールにより1−0で勝利した9月20日の第30節、浦和レッズとのアウェー戦だ。2022年から、実にリーグ7試合連続で引き分けとなっていたカードである。今年3月のホームゲームでは土壇場で知念慶のゴールで追いつくなど、もちろん試合ごとに展開も内容も異なる。ただし、このJリーグで最も盛り上がるカードのひとつは、関係者によると、そのダメージや影響をふまえると、"負けないこと"をスタッフレベルでもまず期待してしまうということだ。

 そんな言い知れない重圧が積み上げてきた7試合のドロー。負けることへの恐怖がどこか心によぎる戦いで、劣勢を強いられながらも勝利をつかみ取った。

 この2試合の決勝点は、松村が柏のDF古賀太陽のバックパス、鈴木が浦和のGK西川周作のキックミスを突いて決めたものだった。相手チームのミスにも見えそうだが、いずれも最後尾からのパスの選択肢をすべてふさぎ、前線の選手が詰めている。"狙いを持った"プレスから、ボールとゴールを奪い切った形だ(第29節の湘南ベルマーレ戦でも、この形からチャヴリッチが先制している)。

 内容を見れば、2試合とも相手に上回られた。だが、チームの顔である鈴木が、浦和戦後に「ボールをもらうのを怖がっている選手がいる。俺が決めてやるんだという選手がもっと出てこないと。これでは優勝できない」と口にするなどして、チームを引き締めている。

【多彩なフィニッシュで得点ランキングのトップに立つレオ・セアラ】

 鬼木監督の理想はもっと緻密に攻め倒すサッカーだが、現在の鹿島はいい意味で豪快さや荒っぽさに、元来備える高いセンスや技術が絶妙にマッチし、勝点を積み上げてきた。そのあたりのハラハラもヒヤヒヤもさせられる表裏一体が魅力であり、不安要素であり、伸びシロにもなっている。

 また、今オフにセレッソ大阪から加わったレオ・セアラの存在に、言及しないわけにはいかない。昨季得点ランキング2位(21得点)のブラジル人ストライカーは新天地でも活躍し、ここまでリーグ戦トップの18ゴールをマークしている(第33節終了時点)。

 鬼木監督のもと、ビルドアップによる崩しとハイプレスからのショートカウンターを使い分けるなか、レオ・セアラの多彩なフィニッシュワークがハマり、得点王とリーグ優勝を手にする勢いにある。

 また、あらゆる局面でボールを保持でき、パンチ力も備えるエースの鈴木がいることで、マークは分散される。チャヴリッチ、田川亨介、松村優太、荒木遼太郎、エウベルら(負傷離脱するまでの師岡柊生も)、アタッカー陣はこのリーグ最強2トップを生かし、生かされ、それぞれが試合ごとに輝きを放った。

 守備陣にも特筆すべき選手がいる。関川郁万の長期離脱によりチャンスをつかんだ韓国代表DFキム・テヒョンは、高精度のロングキックを新たなプラス要素としてもたらした。安西幸輝を欠いた左サイドバックには本職である小川諒也が加わり、さらに横浜F・マリノスから加入した小池龍太もバランス能力の高さを発揮。サイドで起点を作れるエウベルも夏に横浜FMから加入し、鹿島のカラーにすぐ馴染み、小池や小川との連携を深めている。

 鬼木監督がローテーション起用を続ける特徴の異なるボランチ勢(柴崎岳、三竿健斗、舩橋佑、樋口雄太、知念慶)、チャンスで結果を残し続けるプロ3年目、21歳のDF津久井佳祐の存在も忘れてはならない。ターレス・ブレーネルもピッチに立てば異彩を放つ。千田海人の力はここから間違いなく必要になるはずだ。強力2トップが最大の武器だが、ピッチ上のみならず、全員が連動し合っている。

【「ファンの応援に選手たちはきっと応えてくれるはず」】

 DF濃野公人の吹っ切れた笑顔、植田のクールな表情での強烈なマッチアップ、鈴木の咆哮、徳田誉の涙、柴崎岳の献身......選手たちの感情の猛烈な波が、観ている者の心を捉える。それに応える歓声がまた選手たちを奮い立たせる。いま、鹿島が生み出している相乗効果だ。

 鬼木監督はこんなことを言っている。

「応援してほしい。皆さんの声援に、選手たちはきっと応えてくれるはずです」

 市立船橋高校(千葉)から鹿島に加入した鬼木監督はプロ3年目の1995年にデビューを果たし、プロ6年目の1998年に当時JFLだった川崎フロンターレへ期限付きで移籍している(その後、鹿島に1年間復帰して再び川崎へ)。

 今季の新体制発表会で、新加入選手たちとともに「憧れの選手」を問われた鬼木監督は「ジーコさんとディエゴ・マラドーナ」と答えた。鹿島で初めて練習した時の衝撃が忘れられないという。あれから32年、ジーコは「オニキ」の指揮官としての帰還を心から喜んだ。伝統は時に、より大きな勇気を与えてくれる。

 敗れた悔しさが、勝利を渇望する最大のエネルギーになる。起伏に富んだ感情の強い振れ幅が、鹿島の選手たちを立ち上がらせ、ゴールへ向かわせる。

 残すところあと5つ──伝統と改革がせめぎあうような試行錯誤の9年を経て、鹿島がついにリーグ制覇を成し遂げるか。

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