
公明党が10月10日、自民党の高市早苗新総裁に対して連立政権からの離脱を申し出て、野党時代を含めて26年に及んだ協力関係に終止符を打った。自民は単独少数与党に陥り、臨時国会での高市氏の首相指名に暗雲が垂れ込めるだけでなく、公明の支持母体である創価学会の組織票に依存してきた国会議員たちの次期選挙での大量落選が避けられない事態となった。総裁就任直後から八方ふさがりとなる高市氏に、ウルトラCはあるのか?
■学会員からの不満を抑えきれず
「自公連立政権については一旦白紙とし、これまでの関係に区切りをつけることとしたい」
高市氏との決別会談を終えた公明の斉藤鉄夫代表は記者団に対し、吹っ切れたような面持ちで連立解消を明言した。
連立離脱の最大の理由として挙げたのは「政治とカネ」だ。企業・団体献金の規制強化に高市氏が即座に応じなかったことを強調した。また、名指しは避けたものの、裏金議員の中でも政治資金収支報告書の不記載額が5年間で2728万円に及び、8月に政策秘書が略式起訴されたばかりの萩生田光一氏が高市体制で幹事長代行に就いたことも問題視した。政治部記者が、公明が連立解消に踏み切った要因について解説する。
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「石破政権での公明は、森山裕前幹事長と太いパイプがあり、石破茂首相も在野時代から公明の応援演説に詰めかけて信頼が厚かった。この2人を石破おろしでパージしたのが萩生田氏を象徴とする旧安倍派で、彼らの後押しで誕生した高市体制に強い憤りがあった。
そもそも醜聞続きの自民への不満が学会員から渦巻き、学会指導部でもこれまで自公体制を主導してきた創価大閥と新興の東大閥とで派閥抗争に揺れる中、敢えてグレーなイメージが付きまとう高市氏と組むことはできないという結論ありきの離反劇です。公明が主張する献金の規制強化にしたって、透明性を図るために受け皿を自民であれば全国で7800もある各支部ではなく、政党本部と都道府県連に限定するという提案。党内で数年単位で協議するレベルの難問で、総裁に就任して間もない高市氏が即答できるわけがない。
結局、公明のイメージが上がり、また世論の納得の得られる口実として政治とカネを選んだというわけです」(政治部記者)
■麻生氏念願の「公明切り離し」
ここまで見ると、自民が公明から一方的に「三行半」を突きつけられたようにも見える。しかし、最初に離別を望んだのはむしろ自民の方だったという。前出の政治部記者が続ける。
「高市体制誕生の立役者で自民の実質的な最高指導者となった麻生太郎元首相が、総裁選後に『公明にくれてやってる国土交通相のポストは引きはがせ』と周囲に語ったことが公明に波紋を広げました。国交省は巨額の公共工事を取り仕切るので大臣ポストはうまみが大きいのに、2012年から公明にその椅子を明け渡している。ただでさえ麻生氏は公明嫌いで、一度も推薦を受けたことがない。国民民主党を政権に引き入れることで公明を切り捨てようと考えていました。
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85歳を迎えて政治家人生の総決算をしたい麻生氏としては、目の上のたんこぶだった公明を追い出し、同時に創価学会との強いパイプで存在感を放つ宿敵の菅義偉元首相の影響力を削ごうとも考えたのでしょう。もちろん、自民にも痛みを伴いますが、まさに焦土作戦に打って出たわけです。
自民幹部に公明にパイプのある議員を置かなかったのは、人事権を高市氏から一任された麻生氏の公明へのメッセージです。公明としても、麻生氏に絶縁宣言されて面目を失う前に自ら身を引いたという見方もあります」(前出政治部記者)
■重鎮たちは反対も
政権与党という甘い蜜を捨ててでも破局を選んだ公明だが、内部では葛藤もあったようだ。
「自民と関係が良好な時代に党を率いた太田昭宏元代表や漆原良夫顧問は連立離脱に反対していましたが、実際の選挙活動を担う末端の学会員との距離の近い地方議員らの強硬な意見に押し切られました。最近の選挙で公明が票を落としているのは、自民の統一教会問題や裏金のあおりを食らったせいで、連立を組むことが党の退潮を加速させるといった危機感が学会内で支配的となっていました」(公明関係者)
選挙で駆けずり回る学会員からは辟易とした声が聞こえてくる。学会3世の50代の会社員男性が打ち明ける。
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「政権与党とはいっても全く主導権を握れず、自民の失言やスキャンダルが起きるたびに黙って見過ごす公明議員の姿に呆れていました。それでも池田先生(池田大作名誉会長)が音頭を取って始めたことなのでこれまで覆すことはできませんでしたが、2023年に亡くなったことで学会内部でも『自民とは縁を切った方がいいのでは』という声が聞こえるようになりました。
まして、平和の党を呼号しているのに総理がタカ派の高市さんなんてありえない。女性部からも『高市さんが日本初の女性総理になるのは認められない』という声が強く、連立が維持されていたとしても国会議員も首班指名で高市さんには投票しにくかったことでしょう」(学会員男性)
■公明票を維持する最後の手段!?
総裁就任早々からパートナーの離反という難題に直面する高市氏だが、前出の学会員は過去の事例に基づいての復縁策を授ける。
「旧民主党が絶頂だったころ、これまで自公民の相乗りで当選を重ねてきた首長が改選に際して、自公を裏切り、民主の単独公認をもらおうと動いたことがありました。でも、この首長は民主の公認をもらえず別の人物が公認候補として立候補し、"ぼっち"で選挙を戦う羽目に。結局、終盤で公明に泣きを入れて、創価学会平和会館に顔を出し、数百人の学会員の前で南無妙法蓮華経を唱題(しょうだい)することで不義理を許され、結果的に再選を果たしたことがあります。高市さんも、会館に足を運んでお題目を唱えたらどうですかね。そうすれば、すべて丸く収まるんですが」(学会員男性)
首相の座を手にするには背に腹は変えられない状況の高市氏だけに、それを実行する可能性もゼロではない!?
文/山本優希 写真/自民党公式HP、公明党公式HP