「演じられる年齢になるまで待って」大ヒット作監督に直談判していた45歳俳優。最新ドラマにみるベテランの成熟した余裕とは

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2025年11月04日 16:20  女子SPA!

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佐藤隆太Instagramより
 2008年放送の大ヒットドラマ『ROOKIES』(TBS系)は、平成ドラマの代表的作品である。原作を愛読していた佐藤隆太にとって連ドラ初主演作。あの熱血キャラが佐藤隆太の代名詞といってもいい。

 最新主演ドラマ『新東京水上警察』(フジテレビ系、毎週火曜よる10時放送)の佐藤は、わかりやすい熱血キャラではないが、熱心キャラの魅力がある。本作は佐藤にとって事務所独立後初の連ドラ主演作でもある。

 ゆるやかなキャラ変化から佐藤隆太が醸す「成熟」とは? 男性俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”こと、コラムニスト・加賀谷健が解説する。

◆熱血キャラから“熱心キャラ”へ

 佐藤隆太といえば、やっぱり『ROOKIES』を代表作として思い浮かべる人が多いと思う。平成ドラマを代表する熱血キャラについては後述するとして、ここはひとまず最新作『新東京水上警察』の話題を。

 本作の佐藤は、熱血キャラから翻り、“熱心キャラ”へ移行したような印象がある。第1話冒頭場面を見てみよう。湾岸署内の課から署に独立した東京水上警察署の発足式が行われていた。署長の玉虫肇(椎名桔平)が熱を込めてスピーチする中、前方列に二つの空席が目立つ。

 本来ならその空席に座っていなければならい二人の刑事は現場にいた。佐藤演じる主人公・碇拓真が、もう少しで敵を追い詰められるというところで邪魔が入る。碇を連れ戻しにきた部下の日下部峻(加藤シゲアキ)だったのだが、初対面の碇は敵の手下と勘違いする。

◆部下を海中に投げ込む性格

 勘違いしてどうしたか。「公務執行妨害」だとして日下部に手錠をかけ、さらに海の中に投げ込む。ざば〜んと大胆。熱血刑事の突飛な行動なら理解できるのだが、碇は決してわかりやすく熱血キャラというわけでもない。

 どちらかというとテンションは低めで皮肉屋。敵の手下と勘違いした日下部に謝ろうともせず、マイペースにタバコを咥える。相手の刑事を品定めする分析能力は長けていて、日下部の経歴を確認済みの碇がこう言う。「刑事は常に冷静でいろって」。

「冷静」という客観的評価が碇の性格にもあてはまるかというと全然そうじゃない。部下を海中に投げ込む人である。熱血であるわけでも冷静であるわけでもない。でも仕事熱心だということだけは確かだ。

◆特大おにぎりと3秒ルール

 捜査会議室の準備をする場面で、碇が玉虫と対面する。フランクで打ち解けた会話。玉虫は碇に「熱心なのはいいことだけどさ」と言う。碇が熱心な刑事であること。上司からの客観的評価がでた。

 でもまだ碇というキャラの全貌がよくつかめない。そういえば、初登場場面の彼はどうだったか。海を眺めながら彼はおにぎりを食べていた。銀紙に包んだ随分と特大サイズのおにぎりである。

 何口か食べたおにぎりがころり。それを拾ってフッと強く息をかけてまた食べ始める。小さいことはあまり気にしない。3秒ルールの大雑把キャラということか。でもこういう特大おにぎりこそ、熱血キャラにふさわしいパワーみなぎる食べ物ではないだろうか?

◆事務所独立後初の連ドラ主演で醸す「成熟」

 ここでやっと『ROOKIES』の話題を。佐藤演じる新米教師・川藤幸一は、絵に描いたような熱血キャラだった。問題ばかりの高校で他の教師たちは波風を立てないことがモットー。そんな中、川藤だけは新任者として熱血と情熱で乗り込む。

 第1話中盤、教え子から投げ込まれた豪速球の野球ボールを拾い上げる。「WELCAME」と歓待の言葉が書いてあるボールのスペルミスをさわやかに指摘。鷲掴むボールがちょうどおにぎりサイズ(?)に見えるのは気のせいか。同作は佐藤にとって特に思い入れの作品である。

 原作者・森田まさのりが『ナカイの窓』(日本テレビ系、2016年放送)に出演したときには、佐藤からの「もっと自分が役者として成熟してからやりたい。だからドラマの話がきても、自分がやれる年齢になるまで待ってもらえませんか」と綴られた手紙を紹介していた。

 おにぎりサイズ感の野球ボールに込めた熱血キャラが特大おにぎりを手にした熱心キャラへとゆるやかに変化する。2024年に事務所を独立後初の連ドラ主演である本作『新東京水上警察』の佐藤隆太は、「成熟」したベテラン俳優の余裕を醸して演じている。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu

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