写真 みなさんこんにちは、ファッションスタイリスト&ライターの角佑宇子(すみゆうこ)です。
ファッションは流行り廃りの激しい業界ですが、昨今は「トレンドが長引いている」という意見と「一瞬で廃れた!」といった、相反する意見が目立って二極化しています。
今、ファッショントレンドのサイクルはどうなっているのか。流行り続ける服と、すぐ廃れる服はどう違うのかについて解説いたします。
◆流行ったかと思ったら一瞬で消えるトレンド
流行ったかと思いきや一瞬にして消える流行のアイテムってありますよね。個人的に廃れるのが早いと感じるトレンドアイテムは「着方の正解がわかりにくい」や「個性が強すぎるデザイン」といった特徴を持っているように感じます。
例えば、最近でいえば2022年前後に流行した「フィッシングベスト」と「プリーツトレンチコート」。2022年前後はアスレジャーブームでアウトドアアイテムが人気でした。その影響から釣りに使われるフィッシングベストをおしゃれに着るコーデが流行しました。
流行当時から一部ではウケていたものの、マジョリティの意見としては「変……」「どう合わせればいいの?」という声が多く、積極的に取り入れていた人も1〜2年でフィッシングベストを脱ぎ捨ててしまいました。
◆着こなしで印象を変えるのが難しかったアイテム
もう一方のプリーツトレンチコートは、一時期、新作のトレンチコートはこのデザインばかりだった時代がありました。それが2021〜2022前後。後ろ身頃にプリーツデザインがあることで、生地のボリュームが出て揺れ感が美しいと人気でした。
しかし、普通のトレンチとは違った個性的なデザインなので、着こなしテクニックで印象を変えることが難しく、何を着ていてもプリーツコートが主役のコーデになってしまいます。
このように、癖の強いデザインや着方の難易度が高いものはどんなに爆発的ヒットを起こしても、あっという間に流行が過ぎ去ってしまうものです。
◆5年以上続くロングヒットアイテムの特徴
その一方で、すぐ廃れると言われていたのに結果的に5年以上トレンドとして定着しているロングヒットアイテムもあります。
具体的なアイテムでいうと「ワイドパンツ」、「オーバーシルエット」などは2015年前後から登場し始めて10年経った今でも親しまれています。
また、ファッションスタイルでいうと、2010年代から耳にすることが増えた「ノームコア(究極的に普通の服)」のスタイルは、時代とともに微妙な変化を見せながらも、広く深く、全世界共通で今も支持されています。
トレンド服でロングヒットを果たしやすい服の特徴は「着ていて楽」「着回しができる」「体型を隠せる」といった要素が非常に強いです。
今はもう主流ではないですが2005年から2010年前後の5年にかけてブームとなったスキニーパンツも、当時は「動きやすくて楽」「脚を長く見せる効果を持つ」といったプラス面の要素が支持されていました。この頃の女性はハイヒールやパンプスが主流だったので、ヒールを履くことを前提に着こなすスキニーパンツが人気になったのも頷けます。
◆景気が悪い時代でも日常的に着つづけられる服
IT革命が始まった2000年から25年が経つ今。情報の広まる速度が急速に上がったことで、トレンドのサイクルも年々早まっています。サイクルが早まるというよりは、トレンドが現れてもすぐに次のトレンドがSNSで拡散されるといったように、SNSのサイクルがファッションにも影響しているようです。
せっかく目新しいアイテムが登場しても、それが浸透しきる前に流行の鮮度が落ちてしまい、一過性のものとなっていく。そんな現象というまたトレンドサイクルが短くなる原因のひとつのようですね。そのためアパレル企業の戦略もここ10〜20年で変化し、ヒットするかどうか分からない目新しいデザインの服を博打的に販売するよりも、手堅く支持される安定のアイテムを多く展開するようになりました。
キレイめ・OL系のアパレルブランドとギャル系のアパレルブランドで似たような商品を売っているということも、現代のファッション業界ではなんら珍しいことではありません。どのブランドも似たような商品を置く。そして店頭に似たような商品ばかりが増えると、目につく頻度が増える。買い物に来た客は、それが今流行っているんだと勘違いを起こし、取り入れる人が増える。そのサイクルがもう何年も繰り返された結果、安定的に手堅いアイテムだけが息長く流行し続けているのではないでしょうか。
こう考えると、長く愛されている服というのは、デザインがおしゃれだからというよりは「景気が悪い時代でも日常的に着つづけられる服」といった、“必要な服”として売れているのかもしれません。
◆今、私たちは何を買えばいい?
突飛なデザインはすぐブームが去りやすい。じゃあ、手堅く使い勝手の良い無難なトレンド服を着ればいいの? 果たしてそれって「おしゃれ」なのだろうか……と、疑問が湧く方もいるのではないでしょうか。
では、私たちはどんな服を買えば納得いくのか。筆者個人の考えとしては、流行を意識しすぎないこと。買う前に、目の前の服を身につけている自分の生活を想像すること。直接見て、触って、着てみて、時間をかけて一着の購入に対して真剣に考えることが大切なのではないかと感じています。
もちろん、買ったトレンド服がすぐに着られなくなってしまっては残念ですが、たとえ1年程度しか着られなくても、そのアイテムのデザインが心から気に入ったのであれば、買っても良いのです。むしろ、流行が過ぎて誰も着ていなくたって、着こなし方に工夫を凝らしてできるだけ長く楽しむために考えてみるのもきっと楽しいですよね。
大事なのは、手に取ったその服をどれだけ自分が愛してあげられそうか、いろんな角度でその服を手にした時の自分を想像すれば自ずと、ご自身の中で買うべきか・買わざるべきかがわかるはず。
今回のトレンドサイクルの早い・遅いについては、それを判断するための一つの材料として参考になさってくださいね。
<文&イラスト/角佑宇子>
【角 佑宇子】
(すみゆうこ)ファッションライター・スタイリスト。スタイリストアシスタントを経て2012年に独立。過去のオシャレ失敗経験を活かし、日常で使える、ちょっとタメになる情報を配信中。2023年9月、NHK『あさイチ』に出演。インスタグラムは@sumi.1105