“サナ活”からSNS動画まで…高市政権「異例の熱狂」の正体。支持者が“見ているもの”とは

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2025年11月18日 09:30  日刊SPA!

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12月10日に自身のSNSで岸田首相が突如示した増税方針に関し反旗を翻した高市早苗氏。辞表を叩きつけるかと思われたが…… 写真/時事通信社
 高市早苗氏の首相就任から3週間弱。政治家としては異例の“熱狂”が広がっている。内閣支持率は80%超、20代では90%を超えるとの調査もあり、高市首相の服装やアクセサリーをまねる「サナ活」が登場。国会での発言が即座に切り抜かれ、称賛とともにSNSで拡散されるなど、その盛り上がりは“推し活”とも呼べる様相を帯びている。
 この熱は閣僚にも波及している。片山さつき財務大臣や小野田紀美経済安全保障担当大臣の国会答弁や記者会見も、象徴的なワンシーンが拡散され、「強気」「かっこいい」といったラベルが付けられていく。国会の“名場面”を切り取って楽しむ行為は、政治に関心の薄い層まで巻き込み、エンタメ文化の一部として定着しつつある。

 こうした“高市現象”の背景にある社会心理と、その功罪と行く末をどう読み解くべきか。SNSの政治言説を長年ウォッチしてきた文筆家・古谷経衡氏に聞いた。

◆政策ではなく“空気”で支持されている

ーー高市首相が就任直後、非常に高い支持率を得ています。特に20代からの支持が大きいようですが、この背景には何があると考えられるでしょうか。

古谷経衡氏(以下、古谷):若い世代はテレビや新聞ではなく、SNSで情報を浴びています。高市応援系の投稿をフォローしていなくても、タイムラインには自然と「高市さんを持ち上げる空気」が流れ込んでくる。政策を比較して判断しているわけではなく、「なんとなく良さそうだ」という雰囲気で支持が形成されているのだと思います。

そういう雰囲気、空気が、特に若い世代で高まっている。これは政策が響いたからとか、そういうことではありません。その証拠に自民党の支持率はあまり変わっていない(時事通信社の11月世論調査では21.8%)。

つまり高市政権に期待はしているのでしょうが、政策の評価というよりは、首相個人のイメージに対する“空気の支持”です。

◆「服がだらしないとか、そういうレベル」

ーー高市首相だけでなく、その脇を固める女性閣僚にも強い期待感が寄せられています。

古谷:彼女たちがこれまで何を主張してきたかを吟味している人は、ほとんどいないでしょう。単純に「女性だから」「若いから」「初の女性総理だから」というパッケージで見られているだけです。

SNSで評価されるのも「毅然とした受け答え」「ペーパーを見ないで話す」といった印象面。石破さんもペーパーなしで話すタイプでしたが、「くたびれたおじさんに見える」というだけで評価されなかった。もちろん、政治家なので服装や喋り方も採点の対象になりますが、政治家が“どう見えるか”だけが判断基準になっている。

もし総裁選の結果、小泉進次郎さんが総理になっていたら、それはそれで同じように支持率は高かったと思います。

◆ネット右派が思い描いた選挙歴を有する人

ーー小野田さんには以前から注目されていたそうですね。

古谷:ネット右派の間では「ポスト高市」と言われるほど人気がありました。彼女は参院選で公明党の支援なしに勝ち抜いた稀有な存在で、これは右派層が長年主張してきた「自公連立不要論」の理想像そのものです。外交・安全保障でタカ派な姿勢も相まって、“右の新しい顔”として期待されてきました。

ーー国会の切り抜き動画の流行については?

古谷:20年以上前から存在する文化ですが、今はさらに“コント化”が進んでいる印象です。多くの人はNHKの国会中継を見ているわけではなく、論戦でタジタジになっている野党の様子や、質問がちんぷんかんぷんな時など、面白おかしく編集したものを消費している。

政治的な関心が高くなったという意見も分からなくはないですが、一種のエンタメコンテンツというか、「また蓮舫が馬鹿なこと言った」みたいなノリに近い。

◆政治家はファンではなく監視の対象。国民との関係は“契約”

ーー日々、SNSで切り抜き動画を目にする状況下において、どういうリテラシーを持つべきでしょうか。

古谷:まず、政治家はファンの対象ではなく、監視の対象です。

そもそも「政治に期待する」という言葉自体がおかしい。期待するのではなく、選挙で掲げた公約という“契約”を守ったか守らなかったかを審判するのが国民の役割です。民間企業との契約なら、顧客との契約を反故にしたら契約解除ですよね。政治だってそうです。

選挙の時に掲げた公約がどのくらい実行されたか、されなかったか。それは国民との「契約」であって、期待も何もない。審判しないといけない。本来は契約を実行したかどうかで見るべきです。

「喋りがかっこいいから」「スラッとしてんじゃん」といった印象だけで評価されているのは、民主主義の成熟という意味では非常に危うく感じます。「高市さんも寝ないで頑張ってくれてる」とか。いや、寝ないで頑張っても結果が全てです。契約通りにやっているかどうか。

◆高市人気に乗じた“解散”は厳しい

ーーこの高い支持率を背景に、来年早々にも解散総選挙に踏み切れば圧勝するのでは?という見方もあります。

古谷:解散総選挙については、党としては来年も厳しいだろうなという印象です。

公明党がいないことで、各選挙区で2万票と言われる票がなくなります。ネット右派がそれを補うという意見もありますが、私の推測では多くて7000票か8000票。つまり、1万2、3000票は吹き飛ぶ勘定です。

仮に過半数を取ったとしても、参議院のねじれは変わりません。葛飾区議選で自民党現職が軒並み落選し、トップ当選したのは参政党でした。ああいう都市部の選挙で自民党がふるわないということを、党は深刻に受け止めているはずです。

冒頭にも申し上げたとおり自民党の支持率が上がっているわけではないので、高市さん頼みで解散するにしても、全国300弱の小選挙区をみんな高市さんが回れるのかと言ったら不可能です。解散は博打に過ぎず、現実的ではありません。

 高市政権をめぐる熱狂は、政治への関心の高まりというより、SNS発の“印象の支持”が先行していると古谷氏は指摘する。国会中継の切り抜き動画や「サナ活」の広がりは象徴的だが、そこには政策の吟味よりも、見た目や所作といった“空気”だけで政治家を評価する危うさがある。

 本来、国民にとって政治家はファンとする対象ではなく、公約という“契約”を守ったかどうかを監視する相手だ。高市人気に乗じた解散論が現実的でないという見立ても、政権全体の支持が広がっていない現状を示している。

 印象に流されず、結果と公約で政治を評価する目を持てるかが、肝心になるといえそうだ。

ふるや・つねひら
1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

<取材・文/日刊SPA!取材班>

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