F1と日本ラリーのトップカテゴリーを経験したヘイキ・コバライネン WRC世界ラリー選手権の最年少王者、カッレ・ロバンペラがいよいよフォーミュラカーでのキャリアを本格的にスタートさせる。12月10日〜12日に鈴鹿サーキットで実施されるスーパーフォーミュラ合同・ルーキーテストで、Kids com Team KCMGの8号車を3日間ドライブする予定となっており、すでに2026年シーズンの参戦も表明済み。史上最年少でWRCトップカテゴリーを連覇してラリー界を盛り上げた神童のフォーミュラカテゴリーへの挑戦は、世界中から注目を集めている。
そんなロバンペラの挑戦について、2008年F1ハンガリーGPで優勝を飾り、引退後は日本のスーパーGT GT500クラスを戦ったのち、ラリードライバーへ転向して全日本ラリー選手権で王座を手にした経験を持つヘイキ・コバライネンは、ラリーとフォーミュラレースとの違いにコメントしつつ、ロバンペラにエールを送った。
■ラリーで鍛えた感覚は、フォーミュラで通用するのか
「正直、それほど驚きではなかったよ」と開口一番、ロバンペラの決断について話したコバライネンは、彼のサーキットレースへの関心は以前から感じていたというが、「少し意外だったのは日本で挑戦することだ。ヨーロッパでF3やF2に進むと思っていた」とラリージャパン2025の場でコメントした。
「おそらくトヨタのサポートがあるという点が、日本のスーパーフォーミュラを選んだ大きな理由だろう。だとしてもスーパーフォーミュラに挑戦するというのは勇敢な選択だと思う」
コバライネンはラリー界の若き王者がフォーミュラの世界へと足を踏み入れることに対して、冷静かつ現実的に捉えている。トヨタの強力な支援があることを引き合いに出しつつ「おそらく彼はF1で走りたいのだろうね。彼はまだ若いし、簡単ではないだろうけどチャンスはあると思う。もしかしたら、かえって僕と似たようなキャリアになるのかもしれないが、僕はラリー転向時にWRCを目指していたわけではないし、彼の挑戦はさらに大きなものになりそうだね」と話した。
フォーミュラの最高峰であるF1と日本のラリー選手権のトップクラスで戦ったコバライネンは、サーキットレースとラリーのドライビングの違いを肌で知っている。
「ラリーカーは重く、グリップレベルも低いため、マシンはつねにスライドする。ラリーではそれが当たり前の挙動だが、もちろんサーキットではそうはいかない」
「フォーミュラカーのドライビングは非常に精密で、マージンが非常に小さい。空力も大きく影響するし、精密な走りが非常に重要になる。主な違いは、スライドに対する許容だろうね」と説明する。
10歳のころにカートを始めて以降、F1やスーパーGTも含めて30年以上サーキットレースで戦ってきたコバライネンは、ラリー参戦開始当初は、この違いのアジャストに苦労したと話す。
「サーキットレースでは本当にわずかな差が勝敗を分ける。自分はかえってラリーでは少し慎重になりすぎてしまうことがあった。ラリーではもっとアグレッシブにマシンを振って、より激しい運転をする必要があるからだ」
「最初は少し大変だったが、それでも徐々に慣れてきて、今はグラベルでの運転などもかなり上達したと思っている。少しずつだが着実に進歩できている」
F1ウイナーのドライビングスキルをもってしても、ラリーで求められるドライビングに対応するには時間を擁したという。コバライネンの言葉からは両カテゴリーのドライビングのギャップや、アジャストの難しさが示唆されているが、コバライネンとは真反対の転向を控えるロバンペラの場合はいったいどのような走りが見られるのか興味深い。
また、肉体的な負荷についてもコバライネンは「フォーミュラでは強烈なGフォースがドライバーを襲うため、おそらくフィジカル面ではフォーミュラの方が厳しいし、カッレは筋力や持久力を鍛える必要があるだろう」と言及。
「ただ、反応速度や視覚的な要求、コンディション対応などのレベルにおいては、フォーミュラとラリーは共通しているように感じている。体の使い方については、スタイルを大きく変える必要はないと思う」と分析した。
最後にロバンペラに何かメッセージはあるかと問うと、コバライネンは笑顔を見せて「『もし助けが必要なら電話してくれ』ということかな」と答えた。
「改めてカッレは勇気ある決断をしたと思うし、僕は彼の幸運を祈っている。カッレの周りにはトヨタの優秀なメンバーがいるのだろうし、周囲も多くを助けてくれるだろう」
「でも、僕はサーキットのレースについてよく知っている方だと思うから、『もし何か助けが必要だったらいつでも僕に電話してくれ』ということが僕からのメッセージだ」
いよいよ始まるロバンペラのフォーミュラレース挑戦。世界中の公道を舞台にWRCで培われた才能がサーキットの世界でどう花開くのか、注目は尽きない。
[オートスポーツweb 2025年12月09日]