日本で中間管理職は生きづらい!部下をうつ病にさせないマネジメントを解説/佐藤優

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2025年12月12日 16:01  日刊SPA!

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※画像はイメージです
―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―
令和6年に厚生労働省が発表した精神疾患(うつ病など)患者数は約618万人。年々増え続けるうつ病患者に頭を悩ませているのが中間管理職だ。部下をうつ病にさせてはいけないーー。プレイングマネジャー、名ばかり管理職に加え、部下や後輩の育成も任される中間管理職は、いまの日本では生きづらい。そうした悩みを抱える読者から一通のハガキが届く。「部下をうつ病にさせてしまうのが怖く、自分で仕事を抱えてストレスが溜まってしまう」ーー。こうした悪循環は他人事とは思えない。“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報・外交のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みに答える!

◆部下をうつ病にさせた経験から人を使うのが怖い

★相談者★社畜2号(ペンネーム) 会社員 40歳 男性

 現在、メーカー系中堅企業で課長を務めています。私の悩みは何でも一人で抱え込んでしまうことです。何とか部下を使ってうまくチームを回していこうと考えた時期もありますが、部下が失敗したらその尻拭いをするということを繰り返していたら、私自身のストレスが溜まってしまって、部下にきつく当たるようになってしまい、一人の部下をうつ病にしてしまいました。反省しかありません。しかし、それ以来、大きな仕事を振って負担をかけたり、自分のストレスが溜まって情緒不安定になったりするのが怖いのもあって、ほとんどの仕事を自分でこなすようになってしまいました。それがかえって自分の負担を増やすことになってストレスが溜まるという悪循環で、仕事の気力が失われています。

 私のように人をうまく使えない、チームで協調して仕事できない人間にアドバイスをいただきたいです。

◆佐藤優の回答

 人には向き、不向きがあります。あなたの場合は、ラインの管理職から外れ、部下を管理する必要のないポストに異動したほうがいいと思います。

 実は、私も管理職には不向きです。4〜8人の精鋭集団をつくることは得意です。その集団を4〜5つ統括することならば、何とかできます。しかし、それ以上の集団を率いることはできません。インテリジェンスという失敗が許されない仕事に長く従事したせいか、個々の作業の細かい部分も自分で知っておかなくては安心できないのです。要するに、他人に完全に任せることができないので大きな集団を統括することはできません。外務省の幹部や首相、官房長官、外相などから与えられた課題を消化し、分析や提言を行うことは別に苦になりませんし、それなりの成果を上げてきたと思います。

 現下日本で、中間管理職は実に骨が折れる仕事です。この分野の専門家である太田肇氏(同志社大学教授)は、こんなことを述べています。

〈人は過去の経験や想像にもとづいて損得を計算する。自ら行動することのプラス面としては獲得できる有形無形の報酬がある。そこには具体的な利益のほか、達成感や自己効力感(やればできるという自信)、周囲からの評価承認、だれかのために役立てたという満足感など、心理的・社会的な報酬が含まれる。

 いっぽう行動することのマイナス面としては、心理的負担感や周囲からの嫉妬・反発、注目されることの恥ずかしさ、想定外のリスクに対する恐れなどがある。

 これらプラス面とマイナス面を天秤にかけ、マイナス面のほうが大きいと判断すれば行動を控える。(中略)見方によれば、きわめて利己的な態度である。

 なぜなら、それは「自分がしなくてもだれかがやってくれる」という甘え、あるいは「どうなってもしかたがない」という考え方につながるからである。別の表現をすれば共同体の一員としての責任を果たさず、ただ共同体の一員としての恩恵にあずかろうとするフリーライド(ただ乗り)の姿勢だともいえる。だから私はそれを「消極的利己主義」と呼んでいる。〉(『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』76〜77頁)

 こういう状況で、部下をマネジメントするには、ある種の「鈍感力」が必要です。課長ならば、部長から言われたことを、そのまま部下に力で押しつける必要があります。そこから受ける部下のストレスを気にすると仕事ができなくなってしまいます。あなたのような心優しい人は、ラインから外れたところで自分の力を生かすほうがいいと思います。

★今週の教訓…… 部下をマネジメントするには鈍感力が必要

※今週の参考文献 『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』(太田 肇 集英社新書)

―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数

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