【今週はこれを読め! エンタメ編】緊張と緩和にヒリつく〜ピンク地底人3号『カンザキさん』

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2026年01月19日 18:20  BOOK STAND

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 野間文芸新人賞受賞作である。ずいぶんと変わった名前の著者だが、劇作家・演出家でもあり、巻末の略歴によると「地上侵略をもくろむ怪人」なのだとか。

 なんだよそれ。意味わからん。入荷した時にはそう思ったが、緊張と緩和が交互に訪れるこの小説に、すぐ惹き込まれてしまった。

 主人公のノミは、十五歳くらいから鬱病を患い、大学を6年かけて卒業した後は実家に引きこもる生活をしていた。このままではまずいと一念発起し、ひとり暮らしと就職活動をはじめた。唯一採用となった大型家電の配送を請け負う会社が、この小説の舞台である。ひどい労働条件の上に、ほとんどの社員が意地悪く、当然のことながら離職率が高い。引きこもりを脱したばかりのノミにはどう考えても向かないが、最初にパートナーとなって仕事を教えてくれたミドリカワさんのおかげで、なんとか仕事を続けている。ミドリカワさんは背が低く細かったが、とにかくがんばって筋肉を身につけ、お客様アンケートでも一位になった人格者だ。丁寧に仕事を教えてくれて、うまくできなくても労ってくれるし、いいアドバイスもしてくれる。ミドリカワさんにほめられたい。そんな気持ちできつい仕事に耐えてきたノミだが......。

 同期入社の5名のうち、唯一やたら前向きで「幹部にまで上り詰める」と豪語していたタカギくんが退職してしまったことから、運命は変わる。カンザキさん(誰かに呪われたいちじくの木のような風貌の社員)と組んでから様子がおかしくなり、指導方法について課長に窮状を訴えたものの問答無用で殴られ、たった二週間で辞めたのだという。代わりにカンザキさんと組むことになったのがノミなのである。

 ゴミだらけの異臭漂うトラックに耐え、次々に付けられる意味不明な言いがかりに怯え、本来は二人で運ぶべき小さな冷蔵庫(チビ冷)を一日にいくつも一人で運ぶように命じられ、少しでも休めば階段から突き落とされ、「殺したろか」と罵られる。いやいや、ありえませんって!

 あまりに理不尽で暴力的な現実とは反対に、ノミの脳内世界はユニークだ。運んでいる途中に「フレーフレーノミさん」と応援してくれるチビ冷はやけにかわいらしく、もうひとりの自分やら脳内のミドリカワさんとの対話に思わず吹き出してしまう。人間性に問題がある会社の人々は素晴らしい言語センスで描写されるので、ムカつくんだけど滑稽さが際立つ。

 読者としては笑っちゃうけどさ、この会社やばいって。今すぐ退職の一択だよ!と言いたいが、ノミは辞めないのである。ノミの次にカンザキさんと組むことになった同期のモリちゃん(ノミより貧弱で鈍臭い)も、うんこを漏らすほど追い詰められても出勤してくる。モリちゃんはカンザキさんの非道な振る舞いを自分に対する「愛」と認識し、期待に応えたいと──痛み続けている。読み終わってから冒頭に戻ると、私の中にある小さな傷もヒリっとした。

(高頭佐和子)


『カンザキさん』
著者:ピンク地底人3号
出版社:集英社
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