1月20日にホンダが発表した2026年F1パワーユニット『RA626H』 2026年シーズン、F1に新たに導入されたパワーユニット(PU)は、具体的にどのような変化が施され、チームの戦いにどういう影響をおよぼすのか。F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが解説する(全2回)。
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各チームが公開した2026年型F1マシンの外観はそれぞれ個性的だ。しかし本当の革命は、カーボン製ボディの内側にある。2026年から導入されるまったく新しいパワーユニットは、これまで以上に複雑かつ戦略的なエネルギー管理を前提に設計されているのだ。
最大出力はこれまで同様、1000馬力を超える水準が維持される見込みだ。だが出力の生み出し方自体は、根本的に変わった。
新パワーユニットの技術規約における基本理念は、内燃エンジンと電動出力のバランスを再配分し、理論上は50対50に近づけることにある。ただし実際には、内燃機関のほうが依然として大きな出力を担う。電気モーター側も大幅にパワーアップされたとはいえ、最大出力は350kW(約469馬力)に制限されているからだ。つまり変化の本質は最終的な馬力の数字ではなく、「パワーをどう生み出し、どう蓄え、どう使うか」という点にある。
■MGU-H消滅がもたらす影響
去年まで存在したMGU-H(熱エネルギー回生システム)は、ターボに接続された発電機兼電気モーターだった。しかし機構が複雑すぎ、開発に膨大なコストがかかることから、今季から完全に廃止された。その結果、F1は、直線でのエネルギー回収という極めて効率的な手段と、ターボレスポンスを細かく制御する機能を失うことになる。とりわけ問題となるのが加速時だ。
これまでは、MGU-Hがコンプレッサーを電動で回すことで、アクセルを踏み込んでからタービンが回転し、過給効果が出るまでの時間差、いわゆるターボラグ現象とはほぼ無縁だった。MGU-Hのおかげで、加速時でも瞬時にパワーが立ち上がっていたのだ。しかしこの装置がなくなることで、ターボラグが再び大きな課題になる。その上、電動エネルギーは無制限に使えるわけではないため、ハイブリッドで常に補うこともできない。
対策は二つしかない。ひとつはMGU-Kとバッテリーの電力を一時的に使って加速を補う方法だ。ただしこれはラップ全体のエネルギー管理を難しくする。もうひとつ考えられるのは、コーナー中でもエンジン回転数を高く保ち、ターボを回し続ける方法だ。
MGU-H廃止の影響は、スタート時にいっそう大きくなる。一定速度に達するまで、電動アシストが全面的に禁止されているからだ。そのため発進がうまく行くかどうかは、エンジン回転、クラッチ操作、ターボの回転状態という機械的要素のバランスにほぼ完全に依存する。それが不完全な場合に修正することはできないため、ドライバーにはより精密な操作が求められることになる。
ホンダ・レーシング(HRC)のF1パワーユニット開発責任者である角田哲史LPLは、こう語っている。
「MGU-Hがなくなったことで、ターボの応答性が大きな問題になるでしょう。電力で補うことはできるが、使えるエネルギーには限りがある。いつでも使えるわけではない。だからこそ、どう使うかが非常に重要になるわけです」
■強化されたMGU-K。電動パワーは別次元へ
MGU-Hの消滅を補うため、クランクシャフトに直結するMGU-Kは大幅に強化された。最大出力は昨年までの120kW(約160馬力)から350kW(約469馬力)へと跳ね上がる。これは単なる出力向上ではなく、トルクの劇的な増加を意味し、コーナー立ち上がりでの加速に大きく貢献する。
ここで重要なのは、350kWというのは“瞬間的な出力”であるという点だ。規則では1回の放出で使えるエネルギー量は4MJまでと定められている。
MGU-Kが最大出力の350kWで動作する場合、4MJを約11.5秒で使い切る計算になる。ただしこれは理論値であり、必ずしも全開で使う必要はない。
たとえば・短時間で一気に4MJを使う・出力を抑えて長時間にわたり放出するといった選択が可能になる。
そして最大の変化は、この4MJが“ラップ中に何度も使える単位”になる点だ。ブレーキングで十分なエネルギーを回収できれば、放出→充電→放出→充電というサイクルを何度でも繰り返せることになる。
■長い直線でのエネルギー戦略
たとえばバクーのロングストレートは、全開時間が約15秒ある。もし最大出力のままMGU-Kを使い続けたら、11.5秒で4MJを使い切り、残り3.5秒は大幅にパワーを失ってしまう。
そのためチームは、・途中で電動出力を止める・出力を下げて15秒間持続させるといった選択を迫られる。
アクティブエアロにより直線での抵抗が減ることも、さらに計算を複雑にする要因となる。
バッテリーの充電は主にブレーキング時に行われる。規則では1周あたり最大9MJ(8.5MJ+オーバーテイクモードの0.5MJ)の回収が認められているが、バッテリーの状態変化は常に4MJ以内に抑えなければならない。つまりエネルギーを大量に溜めて一気に放出することはできない。常に、充電→放出の循環を続ける必要がある。
この制約は逆に戦略の幅を広げる。短く激しく使うか、長く穏やかに使うか。そこに各メーカーの思想が現れる。
■回収の難しさ――エネルギー不足との戦い
2026年型F1では、エネルギー回収のほぼすべてが後輪のブレーキングに依存する。MGU-Kの回収能力は制限されており、大きな減速区間でも回収しきれない可能性がある。
理論上、最大値の8.5MJを回収できるのはバクーのみと考えられている。それ以外の多くのサーキットでは、1周あたり4〜6MJ程度にとどまる見込みだ。
高速区間が長いコースでは回収量がさらに減り、エネルギー不足が慢性化する可能性がある。そのためエンジニアたちは、以下のような工夫を模索するだろう。
・加速初期に余剰トルクを回収する“微小回生”・ブレーキング前にアクセルを戻して回収する“リフト&コースト”
これらを積み重ねることで、1周あたり数百kJの追加回収が可能になる。
(連載第2回に続く)
[オートスポーツweb 2026年02月18日]