なぜ? まるで“ガラケー”の「ケースマ」を日本に投入するワケ 異色の韓国メーカーALTに聞く戦い方

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2026年03月06日 10:50  ITmedia Mobile

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ALTが日本で投入する第1号機「MIVEケースマ」。スマートフォンではあるが、その形状から、従来型ケータイのように活用できる

 韓国から異色のメーカーが日本に上陸し、話題を集めている。ALTが、そのメーカーだ。同社は、韓国で2017年に設立されたスタートアップ。サムスン電子とAppleがシェアを二分する韓国市場で、ニッチともいえるシニア向け端末や子ども向け端末を投入し、徐々に販売を伸ばしてきた。そのALTが、初めての海外市場として選んだのが、日本だった。


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 日本市場での初号機となる「MIVEケースマ」は、テンキーを備えたスマートフォン。一見するとその形状は“ガラケー”とも呼ばれる従来型携帯電話に近いが、タッチパネルを搭載しており、Google Playも利用できる。アプリをインストールすれば、スマホとほぼ同じ使い方も可能だ。ドコモの3G停波に合わせ、ギリギリのタイミングで投入した格好で、ケータイユーザーをどこまで取り込めるかに注目が集まる。


 では、ALTはなぜ日本市場に参入したのか。同社の強みや日本での勝算を、ALTの日本法人でCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)を務める金希哲(キム・ヒチョル)氏に聞いた。


●スマホはレッドオーシャンだが、まだやれることがある


―― 改めて、ALTという会社についての成り立ちを教えてください。


金氏 創業者は李尚洙(イ・サンス)という者で、LGを皮切りに、サムスン、パンテックで勤務し、キャリアのSK TelecomではシニアVP(バイスプレジデント)を務めて独立しています。創業は2017年で、韓国でもまだ10年たっていない若い企業です。


―― 韓国メーカーをコンプリートしていますね(笑)。


金氏 メーカー、特にスマホメーカーはレッドオーシャンになっていますが、まだやれる方法があると考えたのが、李が起業したきっかけです。製品もそうですし、会社の成り立ちもそう。既存のメインプレイヤーとはバッティングしない分野でセグメントすることを第一にしています。


 設立当初はシャープさんやノキアさん(HMD Global)の端末を韓国に輸入し、オンラインで販売したり、MVNOに販売してもらったりしていました。そこでキャリアとの関係を築き、その後は特定のユーザーに向けた端末をやらないかとお声がけいただいて今に至ります。当初は、キッズ向けの端末からスタートしました。


―― 韓国では、それなりの台数が出ているとうかがいました。


金氏 シニア向け端末の「STYLE FOLDER」を2022年に発売し、2025年には第2弾として「STYLE FOLDER 2」(ケースマのベースモデル)を出しました。 実は僕らもこんなに売れるとは思わなかった。韓国にもガラケーを使っているユーザーはいましたが、こんなにいるということが分かりました。


―― 韓国だとLGやパンテックがスマホから撤退し、メーカーが減っています。サムスンとAppleはシニア向けやキッズ向けは作らないと思うので、そういった市場にはまった部分もあったのでしょうか。


金氏 LGがいたときですら、圧倒的な2強+LGという感じでした。最近ではXiaomiさんやZTEさんも(韓国に)入ってきていますが、まだMNOとはビジネスを始められていません。そのような中で僕らがビジネスを開始し、3、4年でいいときにはシェア10%ぐらいまで行きました。製品的にも、メーカーのポジショニング的にも、スポッと差別化されていて、参入してみたら思ったより需要があり、台数が出たのだと思います。


●日本法人の立ち上げから2年で初号機の投入に 少数精鋭で動きやすく


―― 日本進出は2年前ぐらいから計画していたとうかがいました。いきなり進出したように見えましたが、かなりじっくり研究されてからの参入だったんですね。


金氏 日本法人の設立は2024年7月で、1年半ぐらいがたっています。自分が正式にジョインしてからはそこまでたっていませんが、その前からお手伝いはしていました。最初は日本に興味があるというところから始まり、どういう製品がいいのか、何が必要なのかというディスカッションをしてきました。実際に製品を何にするのかを決め、お客さまの意見を聞きつつ、開発に動いています。


 また、商品だけがあればいいというわけではないので、法人を立ち上げて修理拠点を作ったり、カタログを作ったりということをやってきたら、2年かかったのが実態です。どの商品を投入するかを決めるまでに紆余(うよ)曲折があり、時間がかかりました。


―― 会社としての機能を持つところまで考えると、確かに時間はかかりそうです。


金氏 初めての日本進出だったので、アフターサポートの立ち上げも必要です。まったく何もないところから始まっているので、コールセンターだったり、修理の受付だったりも作る必要がありますし、そもそもそれ以前に倉庫もありませんでした。ゼロからの立ち上げということで、商品とは別の部分での準備も必要でした。


 MNOに提供する場合、日本に倉庫を持つ必要性がなく、海外で作ったものをドンと納品することもできますが、SIMフリー(オープンマーケットモデル)の場合はメーカーが倉庫を持ち、細かな受発注に対応しなければなりません。そういったところの整備もしてきました。


―― 修理は韓国でやるのでしょうか。


金氏 そうです。ただし、まずはスワップ(交換)対応になります。


―― 拠点が韓国という点だと、日本と近いのでやりやすそうですね。


金氏 ほぼ半年ぐらい、開発メンバーが日本に常駐していました。業務委託で製品の検証をする会社の方にも常駐していただき、検証を繰り返しています。


―― 思ったよりも体制がしっかりしているようにも思えましたが、日本法人はどのぐらいの規模なのでしょうか。


金氏 まだ設立して間もないので、日本のメンバーは10人以下です。基本的に、開発は韓国からの出張者が対応していて、検証系も業務委託です。本国でもまだまだ小さい会社ですから。


 ここはいいのか悪いのかちょっと微妙なところですが、私自身もLG(LGエレクトロニクス・ジャパン)にいたので、固定費が大きな大企業だと、1つのモデルを発売するのに大きな数を出さないと大変なことになるのはよく分かっています。それに対し、僕らは少数精鋭で、協力できるところは外注とも協力しながら、小さく、速く、筋肉質にやっていくことをモットーにしています。


―― 同じメーカーでも、LGのような大企業とはまったく違うということですね。


金氏 そうですね。1人の人間が複数の役割を担っているような感じです。


●ドコモの3G停波に商機 差別化するならキッズよりもシニア


―― 日本で最初に発売したのがケースマだったのは、やはりドコモの3G停波のタイミングを狙ったのでしょうか。


金氏 もちろん、3G停波はあります。うちが持っているリソースがそれほど多くないので、複数同時は難しかった。3G停波があり、日本で最初に出すときにどういったものを出せば差別化できるかを考えた結果、シニア向けになりました。


―― 確かにキッズ向けは、普通のスマホでもなんとかなりますからね。


金氏 そうなんです。日本市場のキッズ向けAndroidは、そこまで大きくない。子どもでもiPhoneや普通のAndroidを使っていて、ネイティブの機能として見守りも搭載されています。ただ、キッズフォンはAOSP(AndroidベースのカスタマイズしたOSでGoogle Playは使えない)のものなので、チャンスはあります。韓国ではキャラクターを含めたトータルパッケージで提供していますが、そういったところに割けるリソースがまだなかったのも大きいですね。


―― ポケモンやポムポムプリンなど、日本発のキャラクターを起用したモデルが多いのが印象的でした。ただ、版権の交渉もあると時間はかかりそうです。


金氏 日本と韓国で、かつ男女共通でお子さんに好かれていて、長く愛されるものとなると、やはり日本のキャラクターに行きつきます。日本にはキッズ向けのスマホはあまりありません。これはキャリアも同じ課題を抱えているかもしれませんが、いざ初めてのスマホを持つとなると、ある程度の年齢になっているので、入口がiPhoneになってしまう。Androidへのニーズがあるのは承知しているので、キッズもやっていきたいとは考えています。


―― どちらかといえば、スマホより低年齢に向けたキッズ用ケータイを置き換えていくイメージでしょうか。初めてスマホを持つ年齢も、徐々に下がってきています。


金氏 韓国と似ている点と、異なる点があります。日本の場合、特に公立の小学校だと学校に端末を持ち込めない(ことが多い)。家と学校が近いので、学校には持っていけず、帰ってきて使うだけになってしまいます。一方で、韓国は高学年になると学校へ行き、そのまま帰らずに塾へ行って、帰ってくると夜になっているので、スマホがどうしても必要になります。学校の持ち込みもOKになっている。日本だとスマホ以前にキッズ向けケータイですら持ち込むのが微妙ですよね……。


●ケータイとしては大きいサイズの理由 使い方とGoogleの仕様が関係


―― ケースマに話を戻すと、STYLE FOLDERとして韓国で発売された際には、どのようなユーザーに受け入れられたのでしょうか。


金氏 シンプルで、メインはガラケーユーザーです。韓国だとLINEではなくカカオトークですが、これがないと自分の家族や友人ともコミュニケーションが取れない。初代を発売したのはコロナ禍でしたが、韓国では接種証明がないとレストランにも入れませんでした。もちろん、接種証明は紙でも発行できましたが、それだと不便なのでスマホで持ちたいという社会的なニーズもありました。


 その反面、純粋にガラケーの代替機として使っている方もいました。日本でも、そういったニーズはあるかもしれません。そのため、機能の1つとして、タッチパネルを無効化することができ、これを使うとキーボードだけでの操作になります。LINEもいりませんという方は、これを有効にすればほぼガラケーと同じになります。


―― おおっ。そんな機能があったんですね。これだとLINEは操作できないのでしょうか。


金氏 電話、メッセージとあとはプリインアプリだけになります。


―― 一方で、ケータイとして考えると少し大きいような気もしました。これはなぜでしょうか。


金氏 大きく、理由は2つあります。LINEやカカオトークのようなメッセンジャーを入口に、YouTubeなどを使い始める方が多いからです。実際、韓国では最初に0.5GBや1GBなどのプランを契約しますが、いざ使い始めるとYouTubeを見出し、料金プランを3GBや5GBに変える現象が起きています。そのあたりまで考えると、ディスプレイは大きい方がいいとなり、最新モデルは4.3型になっています。


 もう1つの理由は、純粋にGoogleのAndroidの仕様で、最小サイズが4.3型だからです。以前は4.0型でした。持ちやすいまま画面を大きくはできないので、このような形になっています。一方で、スマホとして使っていただきたいという思いもあります。韓国でも最初は大きいと捉えられましたが、使ってみるとこちらの方がいいと評価をいただけています。


―― 画面の文字も大きくなりますしね。日本導入にあたり、どのような苦労がありましたか。


金氏 一番は文字入力ですね。後は、SIMフリーではありますが、品質は日本の要求水準を満たすようにしました。そこは問題がないよう、時間をかけています。具体的には、KDDIさんがSIMフリー向けに準備しているIOT(互換性テスト)があり、それを通しています。開発メンバーを含めた頑張った部分です。MNOのIOTを通すぐらい大変なことですが、そこはきっちりやっています。


―― iWnnも、ケースマ向けにカスタマイズされているんですよね。


金氏 最大の特徴である文字入力のしやすさがこのままだと達成できないということで、オムロンさんにお声がけしました。オムロンさんも、マイナーなカスタムはメーカーごとにしていますが、今回、一番大きかったのがキーボードを搭載していることです。実際にやってみて、検討していたころよりも対応が必要な箇所が多くありました。


 韓国語だと、ハングル文字と英語だけですが、日本は平仮名、片仮名、アルファベットがあり、句点もあります。ソフトウェアとハードウェアの出し分けも必要になってきますが、なるべく自然になるように頑張りました。


●楽天モバイル回線は未検証 今後は5Gモデルも投入したい


―― 日本向けという点だと、周波数も4キャリア対応ですよね。


金氏 はい。ただし、現時点ではドコモ、KDDI、ソフトバンクの3キャリア対応としています。楽天モバイルは余力がなくて、検証ができていない状態です。


―― 今回はオープンマーケットモデルですが、キャリアモデルも狙っているのでしょうか。


金氏 海外メーカーが日本に進出して、いきなりMNOと取引するのはかなりハードルが高いことは重々承知しています。一方で、シニア向けの商品はショップでご案内いただくことが重要なので、ぜひMNOとはお付き合いできればと思っています。


 日本はメーカー数が減っているのか増えているのか微妙なところですが、昔とは状況も変わってきています。ALTは、小さく速く、かつ柔軟に対応できるのが強みの1つです。ぜひ日本に定着したいですね。


―― 発表会で李氏が紹介した今後の展開のスライドには、5G版のケースマを投入することが記載されていましたが……。


金氏 あの資料は本当に出してよかったのか(笑)。ただ、企画は検討している段階です。


―― でも、スマホとして使えるのが売りなら5Gはあった方がいいですよね。


金氏 そうです。国によっては4Gと5Gで料金プランが違います。そういったところだと、ケースマに5Gはいるのかとなりますが、日本は4Gと5Gで料金が変わりません。キャリアも5Gに投資をしていて、移行してもらいたいと思っています。日本なら、5G版でもいいと思っています。


●セキュリティアップデートは「できるところまでやる」


―― 実際に触ってみると、ハードウェアの作りもしっかりしていますし、大手メーカー出身者の会社が手掛けているだけのことはあるなと思いました。


金氏 ありがたいことに、見る人が見ると、そのようにおっしゃっていただけます。自分自身、2年ぐらい前に始めて初代のSTYLE FOLDERを見た際に、これが作れるのはたいしたものだと思いました。ALTも製造はOEMにお任せしていますが、少ないながら、開発や設計の部隊は整っています。しかも、韓国の某大手メーカーで何十年とキャリアを積んだ方もいます。品質は韓国のMNO基準で、十分な実績を積み上げていますので、安心してご利用になっていただければと思います。


―― 取材日(2月16日)にヨドバシカメラのサイトを見たら、SIMフリーで1位になっていました。


金氏 これには僕らもビックリしています。ロジックはよく分かりませんが。


―― 今後、自社のECなどを増やしていくお考えはありますか。


金氏 可能性はあると思いますし、実際に検討し始めているところです。


―― この手の端末は使う期間が長くなりそうですが、OSアップデートやセキュリティアップデートはどのようにされていく方針ですか。


金氏 具体的に何年と言えるかは調整が済んでいませんが、セキュリティアップデートの必要性は承知しているので、できるところまでやっていきます。ただ、OSについては別の考え方もあります。もちろん必須の場合はやりますが、その一方でOSアップデートをすると大なり小なりユーザーインタフェースが変わってしまう。ターゲットとしているユーザーが、それを望むのかという話もあるので、様子を見ながら判断していきます。


―― しかし、ケースマという商標が取れたのにも驚きました。よく残っていましたね。


金氏 もちろん商標もちゃんと取っています。取ったのはだいぶ前で、2024年11月に出願して、2025年6月に取れています。1年半ぐらい前に、ベタでもシンプルな名前は何かないかを考え、ケースマになりました。今考えると、本当によく残っていましたよね(笑)。


●取材を終えて:使い方を伝える上で店舗の存在が重要に


 海外進出の一環として、まず日本市場に狙いを定めたALTだが、第1弾をシニア向けにした背景には、やはりドコモの3G停波があった。スマホにステップアップしたい人はもちろん、大型のケータイとして使いたい人もターゲットにしているようだ。とはいえ、ケースマはベースがスマホ。通常のケータイとは操作の作法が大きく異なる。この点を伝えることができる、店舗のあるMVNOや家電量販店の役割が重要になりそうだ。


 一方で、キッズ向けのスマホは、市場環境の違いやキャラクターの版権をどこまで使えるか次第といったところで、投入にはまだ時間がかかりそうな印象を受けた。日本では、子どもに特化したスマホは絶滅状態だが、ケータイの需要を置き換えられれば商機はあるかもしれない。料金プランも関わってくるだけに、キャリアとの取り組みにも期待したい。



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