
3月31日、イングランド戦のスタメン。三笘はケガで不在となったが世界の各リーグでプレーする選手たちがW杯に挑む(写真/ロイター/アフロ)
日本のW杯初戦が14日(現地時間)、米ダラスで行なわれる。相手は準優勝の経験もある強豪、オランダ。日本でプレー歴のある選手と代表取材を行なう記者たちに勝ち筋を聞いた!
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【相手の想定を上回れるかがカギ】
今月11日(現地時間。以下同)に開幕するサッカー北中米W杯で、日本代表(FIFAランキング18位。以下、データは5月27日現在)はオランダ(同7位)、チュニジア(同44位)、スウェーデン(同38位)と共にグループFに入った。
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いずれも簡単な相手ではないが、FIFAランキングやW杯での実績を踏まえれば、14日の初戦で顔を合わせるオランダが最も手ごわい相手であることは間違いない。
日本とオランダの対戦といえば、2010年南アフリカ大会での0−1の敗戦を思い出す人も多いだろう。ただ、両国の対戦はその一戦を含めても過去3度のみ。直近では13年に2−2で引き分けており、通算成績は日本から見て1分け2敗。いまだ勝利はない。
オランダはW杯優勝こそないものの、過去3度の準優勝を誇る強豪国だ。出場した直近3大会でも準優勝、3位、ベスト8と安定した成績を残している。客観的にはオランダ優位とみるのが自然だ。
だが、現地で取材すると、意外にも当のオランダ側ではその見方が変わりつつあることがわかった。
「親善試合とはいえ、昨年はブラジルに勝って、3月にはイングランドにも勝ったのなら、W杯でオランダに勝っても不思議じゃない。日本の選手はひとりひとりが役割をしっかりと理解し、最後まで走ることをやめない。守備組織をしっかり維持できれば、オランダは相当苦労するはずだ」
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元浦和レッズFWのリンセン。現在はNECナイメヘンに所属
そう話すのは、22年から24年にかけてJリーグの浦和レッズでプレーし、その後オランダに戻ったブライアン・リンセン(35歳)だ。今季はNECナイメヘンで12ゴールを挙げるなど奮闘し、クラブの3位躍進に貢献。その好調ぶりから、オランダ国内ではW杯メンバーに初選出される可能性も取り沙汰されていた。
日本で計11年プレーしたヨンアピン。2022年に現役を引退した
もうひとり、日本をよく知るのが、かつて清水エスパルスや横浜FCなどで11年間プレーした元U−23オランダ代表DFカルフィン・ヨンアピン(39歳)だ。
「私が日本で初めてプレーしたのは11年。その頃、日本人選手は個々の技術は高かったが、チームとしての戦術理解はまだ浅かった。だが、そこから急速に成長したのを私も肌で感じている。
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10年前なら、私は『100%オランダが勝つ』と予想していただろう。でも今はオランダ60%、日本40%。つまり、それだけ差は縮まったということだ」
日本がブラジルやイングランドに勝ったことも、ヨンアピンは「驚きではない」とした。だが同時に「強豪を倒せる力はあるが、まだ安定感には欠ける」とも指摘した。
「どこに勝っても驚かないが、チュニジアに負ける可能性もある。そこが日本の課題だ」
そう話す彼がオランダ戦の日本で懸念するのは、個の守備対応だ。
「日本は組織で守るのは得意だが、オランダにはガクポ(27歳、リバプール)やマレン(27歳、ローマ)、ダンフリース(30歳、インテル)ら、スピードとパワーを武器にした1対1に強い選手がいる。1対1になった際に彼らをどう抑えるかが課題だ。
セットプレーでは、年齢を重ねたとはいえ、ファン・ダイク(34歳、リバプール)の高さ(193cm)も脅威になるはずだ」
その上で、勝つためのポイントについてはこう語った。
「オランダはウイングの攻撃力を生かした戦い方をしてくるだろうが、日本は怖がらずに前からプレッシャーにいくべき。守備から攻撃にうまくつなげられれば、オランダを脅かすことができる。
オランダ人は、日本の技術やスピードを過小評価しているところがある。日本人選手の素早い動きは、映像で見るのと実際に対峙するのとではかなり違う。相手陣内でそれをどれだけ出せるかがカギになるだろう」
リンセンはまた、代表出場はまだ1試合ながらW杯メンバーに滑り込んだ21歳のFW塩貝健人に注目しているという。塩貝は今冬にドイツのヴォルフスブルクへ移籍するまで、NECでチームメイトだった。
「NECでは、私に代わって終盤に彼が途中出場することが多かった。すると相手DFは『しまった、塩貝が出てきた』と、私とのスピードの違いに驚いていたよ(笑)。
塩貝にはスピードとパワー、それにゴールへの執念がある。数年後には欧州のビッグクラブでプレーしていても不思議ではないし、彼がオランダ相手にゴールを決めても私は驚かないよ」
【オランダの弱点と日本の強み】
ふたりはオランダが優位ながらも、日本も十分に勝負できる相手になったことを強調した。では、オランダメディアはこの一戦をどう見ているのか。
オランダの日刊紙『Tubantia』のテン・フォールデ記者
オランダ東部の日刊紙『Tubantia』で長年オランダ代表を取材するレオン・テン・フォールデ記者はこう話した。
「10年南アフリカ大会も現地で取材したが、当時とは違う。今や日本の選手の多くは欧州各国のリーグで経験を積んでおり、オランダ人の多くが日本戦は難しい試合になると思っている。
かつてのようなオランダが上、日本が下という関係は終わった。オランダは日本と共にグループリーグを突破するとは思うが、優勝候補かといえば、そうじゃない」
その上で、同記者はオランダ代表の強みと弱みについて、こう分析した。
「強みは中盤と守備だ。フレンキー・デ・ヨング(29歳、バルセロナ)が万全なら中盤は非常に強いし、守備陣にもファン・ダイクをはじめ、ファン・デ・フェン(25歳、トッテナム)、ティンバー(24歳、アーセナル)といった選手がそろっている。
ただ、問題は攻撃だ。今のオランダには、ファン・ペルシーやロッベン、ファン・ニステルローイのような偉大なアタッカーがいない。右サイドバックのダンフリースが得点源のひとりになっているくらいだからね(苦笑)」
かつてのオランダは、世界的なアタッカーを次々に生み出してきた。だが、現在は絶対的な得点源を欠くことが慎重な見方を生んでいるのかもしれない。
「W杯予選でトップスコアラーだったメンフィス・デパイ(32歳、コリンチャンス)もケガを抱えていて、2番手のストライカーは見当がつかない......」
オランダの全国紙『AD』に所属するフーカ記者
さらに、オランダの全国紙『AD(アルヘメーン・ダッハブラット)』でフェイエノールトを担当し、これまでW杯を3度取材してきたミコス・フーカ記者は、日本が勝ち慣れてきたことを警戒する。
「10年前なら、日本がブラジルやイングランドに勝つことはなかった。だが、4年前のカタール大会でドイツに勝ち、スペインにも勝った。日本は試合に勝つことに慣れてきている。
18年ロシア大会の決勝トーナメント1回戦でベルギーに2点をリードしながら敗れたときは、ナイーブさが目立った。だが確実に成長している」
同記者は、日本の戦術面も優れているとした。
「日本はボールを持てば3−4−2−1でプレーし、ボールを失えば5−4−1に戻る。勤勉で規律があり、とても崩しにくいシステムを持っている。
また、オランダ代表の選手がエールディビジ(国内1部リーグ)でプレーしていれば、『もっと上のリーグへ行くべきだ』と指摘されるのに対し、日本にはフェイエノールトの上田綺世(27歳)や渡辺 剛(29歳)のようにそこでプレーしながらも、代表チームで重要な役割を担っている選手がいるのは興味深い」
【上田の活躍に注目!】
初戦だけに展開の予想は簡単ではないが、テン・フォールデ記者はオランダにとって日本は強敵だとする。
「会場となる米ダラスの暑さも含め、オランダにとって日本戦は本当に難しい試合になる。日本はおそらく5バック気味で、少し守備的にくるだろうが、オランダがその守備を崩せるかどうか。
初戦ということを考えると、引き分けとなってもオランダにとって悪い結果ではない。私は日本がベスト8に進んでも驚かないし、それだけの力はあると思っている」
一方でフーカ記者は、日本にとっても厳しい一戦になることを強調し、特にマークすべき選手を挙げた。
「オランダにとって最も重要な選手は、デ・ヨングだ。決してゴールを多く挙げるタイプの選手ではないが、彼を自由にさせれば、日本にとっては困難な展開になるはず。オランダをオランダらしくするのが彼だからね」
日本はこれまでオランダに対し1分け2敗と勝ち星がない。ファン・ダイクをはじめとするフィジカルが武器の選手をどう崩すかが重要だ(写真/AFP/アフロ)
そして彼が日本のキーマンに挙げたのが、エールディビジで25ゴールを挙げて得点王となった上田だ。
「抽選会の後、フェイエノールトのファン・ペルシー監督と上田について話したことがある。その際に彼は『上田はファン・ダイクらオランダの屈強なDF陣を相手にも十分プレーできる』と話していた。
ただ、上田は今季多くのゴールを挙げた一方で、オランダでは『強豪相手のビッグマッチでは得点できない』という課題も指摘されてきた。上田にとっては、ストライカーとしての真価を証明できるかどうかの一戦になるかもしれない」
かつてなら「オランダが勝って当然」とみられたカードは、今や現地でも警戒をもって語られる一戦になった。14日のダラスで、森保ジャパンはその評価を結果で証明できるか。
取材・文・撮影/栗原正夫
