「離職の予兆」は見抜けない エースが突然消える“サイレント離職”のメカニズム

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2026年06月16日 08:20  ITmedia ビジネスオンライン

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サイレント離職は防げるのか

 ある朝、職場で活躍していた社員が辞表を出す。「会社に不満はないんです」。上司は突然の辞職に絶句し「辞める予兆を見抜けなかった」と頭を抱えた――。


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 こうした“サイレント離職”は活躍する社員であればあるほど、企業にとって大きな衝撃となる。エン・ジャパンが約5000人に聞いた調査では、退職時に「本当の理由を会社に伝えなかった」人が半数を超えた。笑顔は演技であり、本音は巧みに隠される。辞めると決めた人間が、わざわざ胸の内を明かす義理はないからだ。


 サイレント離職を決めた人に、もはや強い引き留めは効果が薄い。予期せぬ離職を防ぐには、どのようなサインを見抜けば良いのだろうか。


●「離職の予兆」はない


 雑談や会話、笑顔が減る。新しい仕事への意欲が薄れる。報連相は必要最低限、遅刻やミスが増える。よく休む。長期プロジェクトを引き受けたがらない――。


 サイレント離職の予兆としてよく挙がるのがこれらの言動だ。管理職向けの研修でこれらの行動を“離職の予兆”として配れば、誰もがうなずくことだろう。だが、この“あるある”には、致命的な穴が3つある。


あくまでも「相関関係」


 サイレント離職は“サイレント”という定義からして兆候が表に出にくいものだ。前述した言動は、辞めた人を企業側が後から振り返って「そういえばあれがサインだったかもしれない」と拾い直したものにすぎず、このようなサインがあった人が皆辞めるわけでもなければ、これらのサインが無いから“サイレント離職”しないわけでもない。つまり、これらの言動はあくまでも相関関係にすぎず、因果関係のある兆候とはいえない。


離職の多くは突発的な「ショック」が引き金となる


 米ジョージタウン大学のブルックス・ホルトム教授らの研究によると、自発的な退職の5〜6割の引き金は、不満だけではなく「ショック」を伴うという。昇進見送り、想定外の低評価などの社内におけるショックのほか、知人や他社からの仕事の誘い、結婚や引っ越しなどの家庭の事情まで――。ある日の突発的な出来事が、離職を一瞬で決断させる。離職のサインをいくら見張っても、これらを予見することは難しいだろう。


不満があっても、建前で覆われる


 エン・ジャパンの調査によると、会社に伝えた退職理由の上位は「別の職種に挑戦したい」といった前向きな言葉だ。この建前をうのみにすれば、別の職種へのチャレンジの機会を与える社内制度をつくるなどといった的外れな施策に走り、評価への不納得や人間関係という真因を取り逃がす。辞めると決めた本人から聞き取った表向きの離職理由ほど、当てにならないものはない。


●企業が見るべきは「留まるサイン」


 離職についての研究は、この20数年の間に「なぜ辞めるか」から「なぜ辞めないのか」、つまり“自社に留まる理由”に軸足を移している。


 人とのつながり(信頼できる同僚がいる)、仕事との適合(自分の強みが生かせる)、辞めれば失うもの(築いてきた人間関係や評価)。これら3つに集約される“留まる理由”が厚いほど、人は今勤めている会社に留まりやすい。逆に言えば、つながりが薄く、配属が噛み合わず、辞めても失うものが少ない人こそ危ういということになる。


 不満は表に出にくいが、“留まる理由”の減衰は在職中に見える。「雑談が減った」も、退職の予兆ではなく“つながりの摩耗”と読み替えると重要な意味を持つ。マイナビの調査によると、社員が本音を言わない最大の理由は「話しても理解してもらえないと思ったから」だ。「言っても無駄だ」と一度諦められてしまえば、本音は二度と聞けない。


 やりがいのある役割、信頼できる同僚、磨かれていく専門性など、“留まる”理由を一つでも多く持つ人は、多少の不満や外部からの誘いでは動きにくい。離職を防ぐことは、社員を鎖でつなぐことではない。留まる理由を一つずつ増やすことにあるのだ。


●防げる離職と、防げない離職


 家庭の事情や、もとから「この時期に辞める」と決めていた退職は防げないだろう。しかし、人間関係、評価への不納得、不本意な配置など、組織の中に火種があるものは防ぐことができる。前述した“留まる力”が厚ければ、外部から誘われても踏みとどまる。


 “防げる離職”を防ぐために必要な要素は、主に3つある。


 まず、小さくても意見がちゃんと届くという実感を積ませることだ。調査会社米ギャラップの調査によると、職場におけるモチベーションの約7割は直属の上司で決まるという。


 次に、評価や昇給、配置といった社内のショックを、伝え方と事後のフォローまで含めてしっかり設計することだ。同じ「昇進見送り」でも、放っておけば離職につながるかもしれないし、十分な説明と支援が続けば留まってくれるかもしれない。


 最後に、納得感と成長実感、職場内の人とのつながりを定点的に測ることだ。「この職場で成長している実感はあるか」「上司の判断に納得できているか」など、“留まる理由”の厚みを定期的に確かめるのである。


●離職のサインは“留まる理由”から見張れ


 辞表を出されて驚くのは、社員が“今の仕事を続ける”前提に立っているからではないだろうか。しかし定年まで働く人のほうが圧倒的に少ない現代においては、“続ける”前提よりも“いつか辞める”前提に立つことのほうが合理的だ。


 サイレント離職は、去り際の予兆を見逃した失敗ではなく、その社員が今後も働き続けると思いこみ、“留まる理由”に目を向けなかった企業の当然の帰結なのかもしれない。


 その社員に、留まる理由はいくつ残っていたのか。企業が知るべきは、辞めるサインではなく、今いる社員それぞれの“留まる理由”なのだ。


●著者プロフィール:村上 ゆかり


コラムニスト。1児の母。リクルートにて人材業界で法人営業、面接、面談フォロー実績数百件を経験。人事役員などと伴走しさまざまな人事課題に向き合う。広告業界にて5000人集客イベント企画&事務局経験、福祉業界では人事管理職として新卒及び中途採用を1人で設計から実務まで担当し年間約120人採用を達成。国会議員秘書約4年半を経験後、フリーで活動を始め、執筆のほか企業の人事採用コンサルタントなどを手掛ける。アンガーマネジメント講師。



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