石川さゆりから西野カナまで……亀田誠治とJUJUがマイナーキーの魅力を探る

6

2013年12月08日 16:01  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

西野カナ『会いたくて 会いたくて』(SME)

 音楽プロデューサーの亀田誠治がJ-POPのヒット曲を分析するテレビ番組『亀田音楽専門学校』(NHK Eテレ)の第10回が12月5日、23時25分より放送された。



 同番組は、亀田が校長、小野文惠NHKアナウンサーが助手を務め、毎回さまざまなアーティストがゲスト出演する全12回の教養番組。ゲスト講師には前回に引き続きシンガーのJUJUが登場。亀田とともに「玉手箱のマイナー術」について講義した。



(参考:きゃりーぱみゅぱみゅは日本最大の輸出品!? 和の心が凝縮された“ヨナ抜き音階”とは



 亀田は「マイナー・短調というと、悲しいとか憂いとか、そういう風に教わったでしょう? でも本当はそうじゃないんだよ、とくにJ-POPではいろんな表情を表しているんだよ、ということを学んでいきたいと思います」と、マイナーキーの中には玉手箱のごとく多様な表情があることを示唆した。



 マイナーとは短調のことで、一般的には悲しく暗い印象がする音階のこと。日本では、マイナーのもの悲しいメロディーが数多くの演歌で使われてきた。しかし、J-POPではもの悲しさ以外のさまざまな感情も込められている。たとえば、サザンオールスターズの「エロティカ・セブン」、AKB48「フライングゲット」、子門真人の「およげ! たいやきくん」などもマイナーキーだ。



 長調の音階が「ドレミファソラシド」なのに対し、短調の音階はミラシが半音下がり「ドレミ(♭)ファソラ(♭)シ(♭)ド」となっている。中でも決定的な違いになっているのは「ミ」の音。この音が半音下がることによって、マイナーは暗い響きとなっている。



●日本人の原点? マイナー音階



 亀田は、マイナーの曲は日本人の感性にピッタリだとして、70年代〜80年代のシングルヒットチャート年間1位の曲を羅列。70年代には「黒猫のタンゴ」「わたしの城下町」「なみだの操」「UFO」など、80年代には「ダンシングオールナイト」「待つわ」「ジュリアに傷心」などを挙げ、年間ヒットチャートのおよそ7〜8割がマイナーであることを示した。亀田は当時を振り返り「子供ながらに世の中を見渡すとマイナーな曲に人気があった」と語り、JUJUは「わたしは子供の頃、良くない大人たちの間で育ったので、明るい曲よりもマイナーな曲がしっくりきた。そしてそういう大人に憧れたので、はやくそういう世界にいきたいと思っていた。マイナーな曲の“淫靡な感じ”に惹かれていました」と、述懐した。



 小野が「演歌にマイナーが多かったから、日本人にしっくりくるんですね」と述べると、亀田は「それだけじゃ足りなくて、なにか日本人を気持ちよくさせるものがあるんじゃないかと」と応え、海外生活が長かったJUJUに、石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」の感想を訊いた。JUJUは同曲を歌い、「マイナーは、思いの丈を込められるんですよね」と、感想を述べ、亀田は「マイナーキーの持っている音の広がりのなさ。そこに思いを詰め込んでいくところに、メロディーとコードの化学反応が起きている気がする」として、「狭まった音程」の中に日本人らしい「我慢」や「辛抱」といった感情を閉じ込めやすいのでは、と推測した。



●「悲しみ」だけじゃないマイナーの表現力



 中森明菜の「飾りじゃないのよ涙は」を聴いた感想を尋ねれられた小野は「つっぱり。涙は簡単には見せないわよ、という強がりや怒り」と応え、亀田は「悲しみが根底にあるかもしれないけど、それだけじゃないですよね」と、マイナーには悲しみ以外の感情を込められることを示した。中島みゆきの「わかれうた」を聴いたJUJUは「なげやり。自暴自棄です」と、その感想を語った。



 また亀田は「マイナーには、相性が良い言葉がある」として、メロディと歌詞には相関関係があるとした。例として「うらんでいます」という言葉に、メジャーとマイナー、それぞれメロディーを付けて実演。メジャーで歌うと「笑いながら怒っているひと」のようになり、不自然になることを証明した。



 さらに、前川陽子の「キューティーハニー」を聴き、同曲には「エロスが込められている」と亀田。JUJUは「人間のいろんな感情に対応できるのがマイナー。メジャーコードで発信できる言葉って、ポジティブなことが多いと思うんですけど、人間にはもっといろんな感情がある」と、マイナーの奥深さを改めて語った。



●JUJUが選ぶマイナーの名曲



 マイナーの名曲として、JUJUはまず、黒沢明とロス・プリモスの「ラブユー東京」を選曲。「子どもの頃に聴いて、当時はまったく意味はわからなかったけど、なぜか胸を締め付けられた」と、同曲を選んだ理由を語り、亀田は「マイナーキーの曲は、大人の世界を垣間見るきっかけになっていた」と、その魅力を語った。



 続いては、奥村チヨの「恋の奴隷」を選曲。「これも大人たちがカラオケで歌っていて知った。当時、奴隷ってなんだろうって思って意味を調べて、好きなひとに振り回されまくることって、きっと幸せなんだなって考えました。『あなたの奴隷だ』って言えるくらいひたむきな気持ち、いいですよね」と、意味深い感想を述べた。



 五輪真弓の「恋人よ」には、「この曲は初めてテレビ聴いた時、怖いくらい暗い曲だなって思った。イントロがジャーンってなると、急に怖くなる。すごい破壊力だと思う」と、当時の衝撃を語った。



 亀田はそんなJUJUに対し「こういう曲を聴いて育っているから、マイナーキーの中でJUJUらしさが出せる。DNAにマイナーが刻まれている」と、そのセンスを称えた。



●今どきマイナー術



 亀田は「実は90年代以降のマイナー楽曲には、新しい要素が加わっている」として、90年代からは小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」を、2000年代からは宇多田ヒカルの「Can You Keep A Secret?」を、2010年代からは西野カナの「会いたくて 会いたくて」を続けて紹介。この3曲には、「胸キュン」や「せつなさ」の要素が強いことを解説した。小野は「またひとつJPOPが豊かになったってことですね」と、マイナー楽曲の表現の幅が広がっていることを示唆した。



 番組の後半では、亀田がベース、JUJUがボーカルを務めるスペシャルバンドで、五輪真弓の「恋人よ」を披露。亀田が「今、マイナーを歌わせたら右に出るものはいない」と称するJUJUの歌声で、感情豊かな演奏となった。



 亀田は総括として「とにかく今日伝えたかったのはマイナー=悲しいという概念を取っ払ってほしかった。マイナーは玉手箱といったように、すごく幅広い表現ができるキー。怒り、嫉妬、エロス、つっぱり、なげやり、そして胸キュンやせつなさ。こんなに幅を持っているメロディはほかにない。僕らは日本語とマイナーなメロディを組み合わせて、きら星のような名曲をたくさん残している。それは世界に誇っていいことだと思います」と語って締めた。



 亀田音楽学校、次回12月12日の放送では「胸熱のファルセット美学」について講義する予定だ。(リアルサウンド編集部)



このニュースに関するつぶやき

  • 確かに八神純子の「Touch You,Tonight」も刀根麻理子の「ジェラス・ファイヤー」も「ピエールとカトリーヌ」も全部マイナーコードの曲ですね‥‥(含笑)
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(4件)

ニュース設定