10月11日(金)に富士モータースポーツフォレストウェルカムセンターで行われた記者会見に出席したハースF1の小松礼雄代表とトヨタ自動車の豊田章男会長 10月11日(金)、マネーグラム・ハースF1チームはTOYOTA GAZOO Racing(TGR)と車両開発や人材育成などにおいて協力関係を結ぶことに合意し、基本合意書を締結したことを発表した。ハースF1の小松礼雄代表は、会見のなかで、両組織の強いところと弱いところをうまくミックスして一緒にやれると自信を示しており、その背景にはトヨタ自動車の豊田章男会長と“想い”が合致したことがあるという。今回のコラムでは、この提携の内容と、豊田会長と小松代表の想いについて振り返ります。
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10月11日に発表した通り、ハースF1チームは、TOYOTA GAZOO Racing(TGR)と車両開発や人材育成などにおいて協力関係を結ぶことに合意しました。この提携の根幹にあるのは、“人や物など、まずは両者の強みを活かしてチームの競争力をなるべく短時間で一段階上のレベルに引き上げる”という考え方です。
ご存知の通りハースは小さいチームで、人数も機材も少ないのでできることが限られています。これからもっと自分たちでできることを増やそうとすると、今から人を雇ったり、機材を購入・設置しなければならず、お金や時間がかかります。つまり何かを始めるまでにかなりの時間がかかり、その始めるプロセス自体で1年を棒に振る可能性があるわけです。
その一方でトヨタには人もいますし、機材・設備(それに付随したノウハウ)もあります。この提携があれば、ハースが自分たちだけで競争力を高めようと思って物事に取り組むよりも早く環境を整えられるし、金銭面でもすべてチームオーナーのジーン・ハースが資金を出すのではなくて、トヨタからのサポートを得られます。人や物が足りないというハースの弱点を補えるようになるのです。
会見で発表したように、トヨタは設計、技術、製造などのサービスを提供するので、ハースのクルマの一部はケルンにあるトヨタのファクトリーで製造することになります。このファクトリーはF1チームと比べると最先端とは言えないまでも、すでにレベルの高い施設です。そこにF1の最先端の技術を入れていってお互いに成長していこうというわけです。バンベリー(ハースF1のイギリスの拠点)にシミュレーターをいれますが、これも共同作業で行い、ここでもTGRのシミュレーターのノウハウが活きてきます。ハースはそれをF1という厳しい世界で使う環境を作ります。こうしてお互いを伸ばしていけるわけです。
また最も重視しているのが人材の育成です。これは豊田章男会長と僕の共通した想いです。F1というのは人材育成にとても適した環境なんです。そのなかでドライバー、エンジニアやメカニックを育てていきたいと思っています。2025年はTPC(編注:Testing of Previous Cars/2シーズン前のクルマを使うテストプログラム)を行う予定で、シーズン中のTPCで人材トレーニングや若手ドライバーのテストにフォーカスするつもりです(TPC自体は1月から行いますが、1月は新シーズンに向けたエステバンとオリーの準備に費やします)。今ハースにテストチームはありませんが、TPC用のテストチームを作ることができればチームのキャパシティを増やすことにもなるので、そういう意味でもハースのやりたいこととトヨタのやりたいことがぴったりと合っていると思います。
また、フェラーリとの棲み分けも明確にできています。今ハースとフェラーリが提携している内容は変わりませんし、トヨタとの提携はフェラーリとのパートナーシップに代わるものでもありません。たとえばうちはフェラーリとシミュレーター作業をやっていますが、質と量ともに十分にこなせているわけではありません。ですがバンベリーにトヨタと協力してシミュレーター施設を作れば、ハースとトヨタの人材を育成できますし、やれることも増えて、ここでのフィードバックをイタリアに送ることもできます。つまりフェラーリから受けられる恩恵を受けて、それでも足りない部分をトヨタと一緒にやっていくということです。
■「章男さんに会わずにこの提携を始めるつもりはなかった」
ハースは拠点がイギリスとイタリアに別れていて、今回の提携によりここにケルンが加わります。拠点が複数ある状態でのチーム運営には慣れているので大きな問題があるとは考えていませんが、もちろん気にかけるべきことではあります。ただ、すでにもう何度かうちのエンジニアがケルンに行ったり、様々なレベルでの会議も行っていますが、とてもうまくいっています。その理由はそれぞれの組織のトップ、つまりトヨタなら豊田章男会長、ハースなら僕が、どういう考えを持ってこの提携を決めたのかというのがきちんとチーム内に伝わっているからだと思います。
会見でも言ったように、何が一番重要かというと、どれくらい章男さんと僕の想いが合っているかということです。章男さんとはカナダGPの前に都内の彼のオフィスで初めて会いましたが、本当に以前からずっと知っているような感じでした。彼のやりたいことや想いがはっきり伝わってくるし、僕にも自分がこうしたいという想いがあって、それが本当に共鳴するんです。僕は章男さんに会わずしてこの提携を始めるつもりはなかったですし、章男さんも僕に会わないで始めることはなかったと思います。小松礼雄という人間に会って、信頼できるかどうかがわからないと一緒にやらないと思うので。会った瞬間から「いける」と感じられたのは素晴らしいことだと思います。
個人の思いが合っていること以外にも、チームをよくするために何をしないといけないかということに対する考えも合っています。そういうのがないと、理論的にはうまくいくはずでも、実際にはうまくいかないのではないでしょうか。こういう提携はどちらか一方の得るものが多いとか、譲歩しすぎるとうまくいかないので、同じレベルで得るものがないとうまくいかないんです。章男さんとならそういうことができると思ったので提携を決めました。僕たちの信頼関係があるうえでの提携だということを理解してもらえれば嬉しいです。
話を戻すと、拠点が別れている状態の運営方式に慣れているからといって完全に安心することはありませんが、僕はそれでも心配より前向きな気持ちの方が大きいです。最初にうちの首脳陣にトヨタと提携できそうだということを話した時にも、みんなとても喜んでくれました。交渉が進んだ段階で今度はチームスタッフ全員に今回の提携を伝えた時もみんな同じく喜んでくれました。こういう前向きな気持ちとか熱気が、ケルンでミーティングをした時にトヨタの人たちにも伝わっていると思います。
他のライバルのF1チーム代表からも「この提携で君のチームはよくなるね」と言ってもらえましたし、F1のCEOであるステファノ・ドメニカリもとてもいい反応でした。正式に発表してからの反響はすごいですね。今回の提携で、自分たちが本気であること、F1チームの数合わせではなくて真剣にチームを改善して戦えるようになりたいと思っているということを対外的に示せたことは大きいです。マーケティング部門の人からも、すでに多くの問い合わせがあったと聞いています。そういう対外的に与える印象もこの提携の副産物で、いろいろな面で大きく得るもののある最善のパートナーシップだと考えています。