
浦和レッズの守護神としてこれまで数多くの国際試合を戦ってきたベテランGK、西川周作は表情を変えず、悔しさをかみ殺すように口を開いた。
「交代選手も含めて、しっかり守るという意識がみんなにあったなかで、本当に最後の最後でやられてしまって、非常に残酷な結果になってしまった」
クラブワールドカップのグループリーグ第2戦。浦和はインテルに1−2で敗れた。
これで2連敗となった浦和は、早くもグループリーグ敗退が決定。第3戦を残して、アメリカを去ることが決まってしまった。
初戦を落とし、苦しい状況に立たされていた浦和は、しかし、前半11分に右サイドを突破した金子拓郎のクロスを、渡邊凌磨がワンタッチで仕留めて先制。その後はインテルの猛攻を浴びるも、どうにかゴール前で耐え続け、1点のリードを守ったまま、試合終盤を迎えていた。
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ところが、後半78分にCKからラウタロ・マルティネスの同点ゴールを許すと、引き分け目前だった同90+2分にも、バレンティン・カルボーニにこぼれ球を押し込まれ、逆転負け。グループリーグ突破に夢が膨らむ勝ち点3どころか、最低限必要だった勝ち点1すらも逃す悲劇的結末に終わった。
UEFAチャンピオンズリーグのファイナリストを相手に、歴史的勝利まであと一歩。そこだけにフォーカスすれば、浦和にとって惜しい試合だったことは間違いない。
「浦和は組織的で規律のある、質の高いチームだった。相手は我々を苦しめた」(カルロス・アウグスト)
「相手は非常に低い位置で守備をしていて、ライン間の(味方)選手を見つけるのに苦労した」(クリスティアン・アスラニ)
実際、インテルの選手たちからは、そんな声が聞かれている。
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ましてインテルは、およそ3週間前にチャンピオンズリーグ決勝をショッキングな敗戦で終えたばかり。しかも、新たにクリスティアン・キヴ監督が就任し、新チームの活動がスタートした直後とあっては、浦和がジャイアントキリングを起こす絶好のチャンスだったと言ってもいい。
「まだ疲労がたまっている」というアレサンドロ・バストーニが、「メンタル面で準備する時間がないことも、パフォーマンスに影響している」と語っているように、インテルは特に主力選手ほど、心身両面でまだまだコンディションが整っていない状態にあっただろう。
そんななか、「試合をコントロールしていたにもかかわらず、予期せぬ失点を喫した」とバストーニ。浦和にとっては、大金星へ千載一遇のチャンスが巡ってきたはずだった。
しかし、本来的な両者の実力差、そして、この試合の内容に照らせば、試合終了直前の逆転劇は、残酷ではあっても、まさかの結末だったとは言い難い。
バストーニが、「実際には、前半にもチャンスはあった。クロスバーに当たった(ラウタロのヘディング)シュートは試合の流れを変えてもおかしくないものだった」と語っていたが、浦和はこれだけ攻められ続ければ、事故的なゴールも含め、いつどこで失点しても不思議はなかった。そんな試合だったことも確かである。
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DFラインから再三の攻め上がりを見せたアウグストは、「後半は多くのチャンスを作ったし、もっとチャンスを生かせたはずだ」と、数々の拙攻を嘆きつつも、こう続ける。
「低いブロックで守るチームを相手にプレーするのは難しい。しかし、我々には勝利への意欲がある。プレーする勇気がある。試合に勝ちたいと願う気持ちがある。厳しい試合だったが、最終的に最も重要なのは勝ち点3だった」
中盤で攻撃の組み立てを担ったアスラニもまた、「確かに練習量が少なく、チームが一緒にプレーできたのも数日だけ。加入から間もない選手もいたし、多くの(主力)選手を欠いており、そのため、確かに前半は苦労した」と、まずは反省の弁を口にしながらも、「しかし、後半はずっとよくなった」とキッパリ。自信の逆転勝利だったことをうかがわせる。
そして、最後の最後で試合を決めたのが、カルボーニだったことも、結果的にインテルの地力を見せつけるものとなったのではないだろうか。
昨季、左ヒザ前十字靭帯断裂の重傷を負ったカルボーニは、ようやく復帰を果たしたばかり。だからこそ、1点ビハインドで迎えた後半72分、今季にかける20歳が、どんな思いを抱えて交代出場のピッチに立ったかは想像に難くない。殊勲のカルボーニが語る。
「何カ月もケガで苦しんだあとに復帰し、チームに貢献し、勝利を持ち帰ることができたのがうれしい。確かにつらい時期はあったが、自信を失うことはなかった。監督が今日、このチャンスを与えてくれたので、最大限に応えようと努力した」
確かにインテルは、何人もの主力を欠いていた。ピッチに立った主力選手にしても、コンディションは万全に程遠いものだった。
だがそれでも、浦和がインテルに敵わなかったのは、選手層の厚さやハイレベルなポジション争いといった言葉では説明しきれない、あらゆる面での明白な実力差としか言いようがない。
「彼(カルボーニ)はすばらしいサッカー選手、彼がどれほど苦しんできたかを知っているので、笑顔を取り戻してくれてうれしい」(アスラニ)
復活を期す若きタレントが、高いモチベーションでチャンスをものにし、浦和の希望を打ち砕いた。