「運動」は体だけでなく、脳にも影響を及ぼす

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2024年05月23日 15:10  QLife(キューライフ)

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QLife(キューライフ)

運動は認知症予防のための重要な要素

 さまざまな疾患のリスクを低減し健康を保つうえで「運動」が大切であることはよく知られていますが、運動が脳にも影響を及ぼすことを皆さんはご存じでしょうか。

 

 身体活動やトレーニングが認知症リスクの低下、海馬(記憶中枢)の面積増加につながる1,2)、身体活動量が少なくなると認知機能の低下や神経変性疾患の罹患率上昇をきたす3)などの研究結果が明らかになっています。

 しかし、病気やケガ、身体機能の低下などが原因で十分な運動ができない方も少なくありません。そこで近年注目されているのが、電気刺激で筋肉をトレーニングする「EMS(Electrical Muscle Stimulation:筋電気刺激)です。

 EMSを中心としたトレーニング器具を開発・販売する株式会社MTGは2024年5月17日にメディアセミナーを開催し、EMSに関する研究結果や医療機関での導入事例を報告しました。

 生体医用工学やリハビリテーション領域でEMSなどに関する研究を行っている金沢大学 助教の西川裕一さんは、「運動をすると、筋肉からマイオカインと呼ばれる物質が全身に分泌される。認知機能向上や神経新生に効果があるマイオカインとして、BDNF、Irisin、Cathepsin-Bなどが報告されているが、なかでもBDNFは海馬の面積を増やしたり、神経をつくる際の仲介となる物質として重要視されている4)」と説明しました。


西川さん(MTG提供)

 動物実験の結果からも運動が認知機能向上に重要な因子であることがわかっている5)とし、「認知症の予防のために、運動は非常に重要な要素」であると強調しました。

 BDNFの分泌量は運動の負荷が高いほど多くなり、認知機能を高め神経をつくる効果もそれに従って高くなるとされています6)。西川さんは運動の代替手法としてのEMSの有用性についての自身の研究を踏まえ、「EMS介入によりBDNF濃度が2か月後に有意に増加した。認知機能の向上につながると期待される」と述べました。

EMSを活用した高齢透析患者のための運動プログラム

 セミナーでは、医療法人偕行会の森山善文さんが臨床現場でEMSを活用している事例を紹介しました。


森山さん(MTG提供)

 成人の5人に1人が罹患する慢性腎臓病(CKD)は新たな国民病ともいわれており、透析患者も増加しています。透析患者で問題になっている、体力の低下と高齢化によるフレイル増加は、「生命予後に悪影響を及ぼすことが明らかになっている7)」と森山さんは指摘します。そこで偕行会では2012年から、透析患者を対象とした運動療法を開始し、これまでに2000人以上が参加しています。

 運動療法によってQOL(生活の質)を改善できた患者がいた一方で、高齢の透析患者では身体機能・認知機能が著しく低下し自分で運動することが困難なケースも少なくないという問題が生じていました。こうした課題の解決に向け、偕行会ではEMSを導入した運動プログラムを行っているそうです。森山さんは「EMSの普及が今後期待される」と講演を締めくくりました。

 運動の代替手法として、医療機関や介護施設でのEMS導入に注目が集まりそうです。(QLife編集部)

1)Dag Aarsland, et al.: Aging Ment Health, 2010; 14: 386-395. 2)Alejandro Santos-Lozano, et al.: Mayo Clin Proc, 2016; 91: 999-1020. 3)Michelle W Voss, et al.: J Appl Physiol, 2011; 115: 1505-1513. 4)Mai Charlotte Krogh Severinsen, et al.: Endocr Rev, 2020; 41: 594-609. 5)H van Praag, et al.: Proc Natl Acad Sci USA, 1999; 96: 13427-13431. 6)Marina Cefis, et al.: Brain Struct Funct, 2019; 224: 1975-1985. 7)Kenichi Kono, et al.: BMC Nephrology, 2021; 22: 378.

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