内閣府「男女共同参画白書 令和5年版」の「男女別に見た生活時間(週全体平均)(1日当たり、国際比較)」によれば、家事育児に割く時間の男女比はアメリカ1.6倍、フランスが1.7倍、イギリス1.8倍程度。だが、日本ではその差が5.5倍に及ぶ。
日本が諸外国と比較して仕事の拘束時間が長いということを加味すれば、夫が「なまけて」いるだけではないのだろうが、それにしても時間差がありすぎる。
この調査にはコロナ禍以前のデータが使われているので、もしかしたらコロナ禍を経て、少しは分担が変わったかもしれないと思ったのだが……。
ますます負担が増えた妻
「コロナ禍は本当に大変でした。うちは離婚寸前までいきましたよ」苦笑しながらそう言うのはカヨコさん(40歳)だ。現在、8歳と5歳の二人の女の子がいる。コロナ禍で、夫はほぼ在宅ワークとなり、パート勤めをしていたカヨコさんは一時期、自宅待機となった。
「平日に夫がずっと家にいて三食用意しなくてはいけない。さらにコロナ禍のストレスで夫はイライラ、子どもは怯えて萎縮する。あんな状態は結婚してから初めて。しかも下の子は当時1歳。子どもの泣き声と夫の怒鳴り声が交錯して、ここは地獄かと思ったものです」
義妹が心配してやって来ることもあったが、夫は自分の妹にさえ「おまえが来ても何の役にも立たない」と怒る始末。義妹は子どもを散歩に連れ出してくれたりして、カヨコさんにとってはありがたい存在だったのに。
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翌日から近くのワーキングプレイスに行ったりカラオケボックスで仕事をしたりもしたので、家の中は平和になりましたが」
家事や育児は「女の仕事」
この間、カヨコさんは朝から家事育児に追われ続けた。その後、夫が出社するようになり、カヨコさんのパート勤務も再開、子どもたちも保育園に行くようになったのだが、彼女自身の家事育児時間は減らなかった。「子どもたちの衛生問題、家の中の換気や消毒などで、以前より家事時間が増えましたね。夫は以前の勤務形態に戻っただけだけど、私はやることが増えた」
上の子が小学校に入り、日常生活もようやく落ち着いた。夫の勤務先では残業を減らすよう働き方改革がされてきたらしいが、それでも夫が平日、早く帰ってくることはめったにない。
「以前、たまたま夫が家にいて、夫婦の家事時間の問題を一緒にテレビで見ていたんです。ほら、これ見てよと夫を促すと、夫はチラッと目をやったけど無言。私が倒れたら、家はどうなるのかしらねと言うと、夫は『おふくろか妹に来てもらう』と。どこまでも人を頼るんだとよくわかり、さらに夫に失望しました」
新婚当初はたまには掃除や洗濯をしてくれたこともあったのに、子どもが産まれて妻が忙しくなっているにもかかわらず、やらなくなっていた夫。それに気付きつつも、揉めるのが嫌で「やって」と言わなかった妻。そこに反省はあるとカヨコさんは言うが、そもそも夫も家族の一員なのだ。家事をやって当然という意識がないのが虚しい。
たった1時間で「ドヤ顔」の夫にイラッ
夫はおそらく1時間程度しか家事育児に携わっていないと、アヤカさん(39歳)は以前から感じていた。
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平均時間は1時間5分。週末は子どもと遊ぶ時間が増えるため、次の週は家事と育児に分けてみた。すると家事は1時間を切り、週末の遊ぶ時間だけが3時間程度となった。逆に週末の家事時間はほとんどない。
「夫の場合、育児をしているといっても、5歳と2歳の子どもたちと“遊ぶ”だけなんですよ。お風呂に入れるとか寝かしつけるとかはほとんどしない。手間のかかることはせず、自分の都合で遊びたい時だけ子どもに付き合ってもらっている感じさえします(笑)」
男の働き方と女の働き方は違うのか?
夫に計測時間を突きつけてみた。どう思う? 悪いけど私自身もフルタイムで働いているんだよ、と。男の働き方と女の働き方は違うんじゃないかなあと夫はつぶやいた。「これで私は愛想を尽かしました。『言っちゃ悪いけど、私、あなたより仕事していると思うよ』と言ってやりました。うちはもともと同じ職場だった。結婚を機に私は転職したのですが、今も同業に近いから夫の仕事ぶりが分かっちゃうんですよ。前職に友人も多いですし」
夫はバリバリと仕事を切り開いていくタイプではない。だが、心根が優しいので「夫にするにはいい」と思ったのだとアヤカさんは言う。
「もっと家事育児もやると思っていたんですけどね……。職場の友人に愚痴ったら、『自ら仕事を取りに行かない人が、家事や育児に積極的に取り組むとは思えない』って。納得しましたね。私の見る目がなかったということです」
だが「私はあなたより仕事をしている」と断言したことで、夫は少しは反省したようだ。
「やってくれる人がいるのに自分が手を出したら悪い」「手際よくやる妻に任せたほうがうまくいく」など、夫たちのいいわけはさまざまだが、「いい妻」ほど夫は手を出しづらいという側面もあるのかもしれない。
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アヤカさんはそう言って、自らを鼓舞するように口元を引き締めた。
<参考>
・「男女共同参画白書 令和5年版」(男女共同参画局)
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))