他人の運転免許証でクレジットカードを作り、買い物を繰り返したなどとして夫婦が逮捕された事件では、免許証が改ざんされるなどし、銀行口座開設時の本人確認書類に使われていた。有識者は、口座があればクレジットカードの審査も通りやすくなるとして、「業界は不正対策を考えないといけない」と警鐘を鳴らす。
捜査関係者によると、夫婦は因縁を付けたり、盗んだりして入手した免許証の情報を使って、複数のインターネット銀行で口座を開設。郵送でキャッシュカードを受け取る際、偽造した免許証を郵便配達人に提示するなどして、名義人に成り済ましていた。この手法で本人確認をすり抜けられる金融機関を狙い、集中的に口座を申請していたとみられる。
サイバーセキュリティーに詳しい明治大大学院の湯浅墾道教授によると、金融機関の口座があれば、ほかの機関が本人確認を済ませているなどと受け止められる。「(名義が同じ)クレジットカードの審査は通りやすくなる」という。
犯罪収益移転防止法は金融機関に対し、対面かオンラインで、口座開設時の本人確認を義務付けている。カード郵送時に配達員が身分確認するやり方も認めている。
ただ同法は、どこまで精密に身分証の真贋(しんがん)を判定するかなど、詳細な基準は定めていない。全国銀行協会も「法令に基づき適切な本人確認をする」と、具体的な対策は各金融機関の責任で決めるとの立場だ。
湯浅教授は、配達員に厳格な本人確認を求めることには限界があり、マイナンバーカードを読み取るなど「デジタルで確認したほうがいい」と話す。金融機関の口座は、株取引や高額な不動産購入に必要になることも多く、本人確認の不正を許せば「(金融インフラ獲得の)突破口になりかねない」と対策強化の必要性を訴えている。